7.迎撃戦!
「ジャンゴ、てめー何で俺たちの分残しておかねえんだよ⁉
こっちは緊張して待ってたんだから、場慣れさせんのが常識ってもんだろが!」
猟師のおっちゃんが、ジャンゴさんに文句を言っているけど、言われている当人はヘラヘラ笑っている。理解できてないのかもしれない。
よくあることなのか、アルバートさんとカーチャさんはノーフォロー。
ホーさんはしゃがみこんで土を触っている。この人もこの人でブレない。
マリアベルさんは、気がついたらカメラから外れていた。
外衛の位置についたのか、それとも帰ったのか、判断に迷う。
しばらく警戒した後、見張り役を残して、皆は待機所に引き上げた。
ちなみに見張り役は、採取チーム+お姉ちゃんが交代で担当する。
お姉ちゃんの目はここでも役に立っている。
結局初日はジャンゴさんに瞬殺されたゴブだけで終わり。
レイチェルさんが見つけた古い調査記録によると、この森の魔物は、動物系が大部分で、人型はゴブリンだけだということだ。
ファンタジー定番のオークやオーガはいない。
観客的には見てみたいけど、当事者としてはいなくてよかった。
翌日は、午前中に、ゴブに加えフォレストホーンラビット数羽とウェアウルフ1頭が続けざまに出た。
ここで猟師チームが初実践を果たした。
元々強敵ではない上に、マリアベルさんの支援もあり、安心して見ていられた。
ホーさんの泥沼はかなり有効で、すばしっこいウェアウルフの機動力をしっかり奪っていた。
そして午後。警戒していた大物が現れた。
カメラが映したのは巨大な鹿。ソードディアだ。
脅威度はB。ネーさんが移動を確認した魔物のボスクラスになる。
最初に矢が飛んだ。
猟師たちが一斉に射かけたそれは、ソードディアの毛皮に弾かれ、地面に無力に落ちる。
だが、次の瞬間、ホーさんの土魔法が鹿の足元を襲う。
泥沼が巨大な鹿の足元を絡め取ろうとするが、ソードディアは力任せに抜け出す。
村チームには厳しい相手みたいだ。
「下がれ!」
アルバートさんの声で、猟師チームが後退する。
自分たちが足手まといとわかれば、サッと引く。大事な能力だと思う。
ここから「ケット・シーは神」が、その実力を見せはじめる。
まず動いたのは、カーチャさん。
ソードディアの足元に飛び込み、前後左右に撹乱するように走り回る。これはうざい。
魔獣の視線が揺れる。
そこへ、視界の外から飛んできたアルバートさんの風魔法が、ソードディアの右肩を斬り裂く。
直後、マリアベルさんのデバフの薄い光が高速で飛来。続けざまにソードディアの四肢に当り、魔鹿の動きをさらに重くしてゆく。
それを見計らって、または考えなしにジャンゴさんが突撃。
雄叫びとともに、片手で大剣をぶん回す。
怒ったソードディアが、渾身の力で角を振る。
「わっ!」
モニタを見つめるリリが小さく声を上げたが、この細マッチョのマッチョは強い。
大角を受け止めると、逆に一歩踏み込み、大剣を後ろに投げ捨てた。
捨てた⁉ なんで⁉
驚くこちらを尻目に、ジャンゴさんはそのまま大鹿の下に潜り込む。
停止と同時に軽くしゃがみこみ、その反動を乗せた拳を、真下から獣の胸に突き刺した。
ソードディアが一瞬痙攣し、次の瞬間ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
心臓一発破壊。
ジャンゴさん、バカのくせに強えええ!
大剣士なのに拳フィニッシュだったけど、そんなことはどうでもよくなるくらいの圧倒的パワーだ。
ヒヤッとする場面はソードディアの角がジャンゴさんに振るわれたところだけ。それも問題なく受け止めたし、終わってみれば、危なげない戦いだった。
無理せず、必要な時間をかけて、確実に倒す。まさしくプロの仕事だ。
離れたところで見守っていた村チームは、拳を振り上げて叫んでいる。
コア部屋の私も思わず立ち上がり、リリは大興奮でピョンピョン跳ねている。
「なかなかええやないか。特にあの兄ちゃんのパンチは見所あるな」
いつの間に隣に座っていたネーさんが、評論家っぽくつぶやいた。
てか、ここ部外者入れないのに、どっから入ってきた?
まだ余裕のある「ケット・シーは神」はその後も警戒を続けたけど、魔物が続くことはなく、村は無事ハードな一日を乗り越えた。
夜の見張り担当はお姉ちゃんとポーラさん。
この流れなので、夜行性の魔物を警戒して増員したけど、杞憂に終わった。
3日目は朝から雲が出た。
春先は晴天の続くこの辺りでは、ちょっと珍しい。
出たのは初見のフェアウルフ6頭の群れとゴブがちょこちょこ。昨日に比べれば全くの小物だ。
昨日の戦いで満足したらしいジャンゴさんは動かず、他の冒険者も討伐を猟師たちに譲ってくれた。警戒は怠らないから、一種の接待プレーかもしれない。
そこで魔物の出現は止まった。
カーチャさんの偵察にも特に引っかかるものはなく、見張りは続けるものの、警戒を一段引き下げ、討伐チームは村で待機となった。
父さんとお姉ちゃんは、私とネーさんへの報告も兼ねて洞窟に戻ってきた。
カメラは、念のため現場に残してもらった。
ふたりとも当然疲れているから、温泉でゆっくりするといいよ。
夕食は人生初の魔鹿肉だった。
魔猪より美味い肉がまだあったか!
って感動していたら、ほろ酔いの父さんが大声で言った。
「そう言えば、猪出なかったな!
この前出たので打ち止めだったのかもな!」
その時は聞き流したけど、それはフラグだった。
翌朝、出勤?してきたネーさんと雑談してたら、コアちゃんから念話が入った。
『魔物が出現しました。かなり大きな魔猪の群れです。上位種が含まれています』
私は思わずネーさんの顔を見上げる。
「大変!魔猪の群れが出たって」
「さよか。まあなんとかなるやろけど、先に確認に行っとき」
平常運転のネーさんに促され、転移したコア部屋のモニタに映っていたのは、巨大魔猪1頭とその手下っぽい魔猪が20頭くらい。想定外の数だ。
ボスはタイラントボア。群れを率いる能力を持つ、猪系最強の魔物である。
村の方に歩き出す群れの前に、駆けつけた討伐チームが立ちはだかる。
前に立つのはタイラントボア。その巨体の後ろに、やや小柄な魔猪が整然と並ぶ。
嫌な感じで統率が取れている。
まず鹿戦と同じく、猟師たちが一斉に矢を放つ。
ボスの分厚い皮膚は、やっぱり簡単にそれを弾く。
ジャンゴさんが飛び出そうとしたけど、アルバートさんが手を伸ばして止めた。
さすがに無謀すぎる。
陣形が変わる。猟師チームが自然に広がり、横から魔猪を狙う。冒険者たちは、中央に立つタイラントボアへ。
いい連携だ。
でも、ソードディアと違って、敵は群れだ。
しかも突進してこない。
固まって防御を固め、こちらの隙をヒット&アウェイで狙う。
そんな知能いらん!
ホーさんが土魔法を放つ。
拡がった泥沼に――猪たちは喜んだように駆け込んでいった。
猪に泥はご褒美。泥まみれの手下の動きが上がる。
アルバートさんは鹿の肩を裂いた風刃。だが、タイラントボアは重心をずらしてかわす。
視認できる火球は、手下猪にさえ避けられてしまう。
しびれを切らしてジャンゴさんが動くけど、剣は届かない。
前衛が厚いのだ。手下たちが壁を作り、巨体のボスに近づけさせない。
しかもさっと身を引くので、切られても傷は浅い。
気づけば、人間たちは狭い範囲に押し込められていた。
左右を手下猪に固められ、ほぼ包囲されている。
「ネーさん、これなんかヤバくない?」
「んー、ちょっとキツいかもしれへんなあ……」
いや、そんなのんきにしてる場合じゃないでしょ⁉
「もうバレてもいいから、助けて!」
「大丈夫や。念のためここに来る前に手は打っとる。まあ見とき」
焦る私を見ても余裕を崩さず、ネーさんはニヤっと笑った。
その時、モニタに中にひとつの影が飛び込んできた。
「デビリン!」
背中にはお姉ちゃんが乗っている。
「こんで決まりや」
ネーさんがつぶやいた。
背中から飛び降りたお姉ちゃんの「デビリンお願い!」を合図に、デビリンがタイラントボアに突っ込む。
種族名「デビルズアーム」が示す太い腕が振られると、固いボス猪は、あっさり横に四分割される。続いて周りを軽く一巡して残りを轢殺。
以上、終了~。
風が静かに流れた。
脅威度Aは格が違った。
「ああああああ……」
我に返って喜びを爆発させる現場の映像を見ながら、私は膝から崩れ落ちた。
最初からデビリンに頼んでおけば、なんもいらなかったじゃん!
超ラブリーもふもふお姉ちゃんペットという意識が強すぎた!
もちろん、村一丸となって防衛する意義はわかる。
でも、それならそれで、村の一員のデビリンがそこに混ざればいいだけだから、レイチェルさんを巻き込む必要なんてなかったのに。
私のアホ!
普通だったら、こんな辺境まで来てくれるはずのない「ケット・シーは神」と縁ができたのは良かったけど、それが何かに繋がってくれなけりゃ、その縁を使って、大バカとして私がジャンゴさんに弟子入りするしかない。
――まあ、あとでたっぷり反省しよう。
モニタの中で「温泉だー!」って叫ぶ声がするから、何もなければ、明日か明後日にはみんなやって来るだろう。
ゆっくり疲れを取ってほしいから、貸し切りだね。
留守番ダンマスの腕の見せ所だ。




