6.腕利き冒険者(笑)
「チェルさん!」
到着を待ち構えたていたリリが、馬車から降りたレイチェルさんに駆け寄る。
「リリ、ちょっと大きくなったな。元気そうでよかった」
そう言う彼女は、また一回りシュッとした。
モニタで一回り、サロンで三回り、その後にまた一回り。合計五回りくらい痩せて、初めて会った頃とはもうシルエットが別人だ。
けがをした膝も調子がいいのだろう。リリをぶら下げて、スタスタとこちらに歩いてくる。
「お久しぶりです。今回はありがとうございます!」
「おお、ミリ。お前は全然変わんないな。でも前よりちょっとしっかりしたか?」
「昔からしっかりしてますけど?」
「そうだったか? ちょっと記憶にないな」
軽口を叩き合いながら、冒険者さんを連れて、私たちは宿の食堂に向かう。
顔合わせは場所は、村の集会所でも良かったのだが、物珍しさに集まってくる村民を避け、この猟師宿に逃げてきた形になる。
ロン毛の細マッチョ兄さんがやたらキョロキョロしてて気になる。
会議メンバーは、村側が、ビレン男爵を筆頭に、コンテ村長、猟師リーダーのダッタおじさん、温泉代表の私、オブザーバーのネーさん、マスコット枠リリの6人。
冒険者側が、引率のチェルさんと4人の冒険者。
4人はBランクのパーティーで、「実力は保証するよ」とのことだが、詳細はまだ教えてもらっていない。チェルさんのことだから、何かサプライズがあるのかもしれない。
村のメンバーの挨拶が終わり、冒険者の番になった。
「じゃあ、お前ら、自己紹介しな」
「はい! はい! 俺! 俺から!」
細マッチョのお兄さんがすげー主張して勢いよく立ち上がった。
「よっしゃ一番取った!
俺は……、名乗るほどの者ではないっ!」
名乗れよ! じゃあ、なんで最初に手を上げた⁉ あとムダな溜めの意味!
スーパン!
チェルさんが、なぜかドヤ顔でふんぞり返る細マッチョの頭を思いっきりひっぱたいた。
「あー、ごめん。あたしから紹介するわ。
このバカはジャンゴ。大剣使いのバカで、あたしのバカ弟子だ。
バカだが腕は確かで、個人のランクはAだ。
バカじゃなかったら、Sランク行くんじゃないかと噂されてるが、バカなので無理だ」
ここで問題です。今バカって何回言ったでしょう?
って言いたくなるほど、静かに怒ったチェルさんはバカを連呼した。
人物像はわかった。要するに「強いバカ」ってことね。
「じゃあ、次はアル」
指名されたガチムチの男性が、スッと立ち上がる。
この人も見るからに前衛。
攻撃型のパーティーのようだ。
「魔導士のアルバートです」
違った!まさかの後衛!
「うちのパーティーは、前衛がバカで後ろを守らないので、魔法職にはタフさ必須なんですよね。
僕は体力だけはあるので、適任ってわけです。
個人のランクはB。魔法は火と風の2属性が使えます」
常識人だ。暑苦しさもない。
村の人たちもホッとした顔をしている。
後衛で、全体の動きも見えているだろうから、連携や作戦を相談するならこの人だな。
「次は私ですね。
Bランクの斥候、カーチャです。ハーフリンクです。時々軽戦士もやります。
以上。
次はリーダー。大きな声で簡潔にね」
カーチャさんはハーフリンク族。身長はディオさんくらいだが、こっちは大人の女性らしい落ち着きが感じられる。穏やかな表情で、寡黙だけどとっつきにくさはない。
最後に立ち上がったのは、一般人っぽさに親近感を覚える普通のお姉さん。
この人がリーダー?
なんとも意外性のあるパーティーである。
「一応リーダーのマリアベルです。ヒーラーを担当しています」
聞き取れたのはここまで。特徴ある鼻声だ。
カーチャさんが「大きな声で」と言った意味はすぐにわかった。
「……安全…………、デバ………。…………ケッ……、…………猫……、精霊様の………」
声ちっちゃ!しかも話長っ!
あと、よく聞こえないけど、途中から何か関係ないこと喋ってない?
村チームは全員テーブルに身を乗りだしている。
「いい加減にしな」
限界に達したチェルさんが止めてくれた。
「度々申し訳ない。
でも、こいつがこのパーティーの要なのは本当なんだよ。
上級ヒーラーな上、デバフも得意でね、魔力量も並みはずれている。
個人ランクはAだ。
しかも、ものすごく離れた場所に陣取って、そこから魔法を放つから、狙われる心配もほとんどない。コントロールも精密だから、魔法が外れることもない。
あたしも色んなヒーラーを知っているが、そんなことをできるやつはこの子しか見たことがないね」
「すご……」
ホーさんが、感心の声を漏らした。
超後衛、いや「外衛」か。新しい概念だ。
魔力制御ヲタとしては、興味ありまくりだろう。
チェルさんが、思い出したように付け加える。
「ひい爺さんの代に冤罪で取り潰されたけど、もし貴族のままだったらこんな規格外は生まれてこなかっただろうさ。面白いもんだね。
ああ、それから、グダグダ言ってたのは気にしなくていいよ。自己紹介でもなんでもないから」
「そうなんですか? 猫とか聞こえたんですけど」
「ああ、猫知ってるんだね。今王都で流行っている。まあ、単なる趣味の話だよ。
誰もマリアベルの長話を止めないのも、全員猫好きなだけ。
そんなわけで、こいつらのパーティー名は『ケット・シーは神』だ」
「は?」
……サプライス、これでしたか。
「ケット・シー。精霊だよ。猫はその末裔ってことになっている」
「……なるほど。だから教えてくれなかったんですね」
「まあね。教えたら、ミリ不安になるだろ?」
「今、ちょっとなってますけど……」
「だからあたしが付いてきた。温泉にも入りたいけど、そっちが本命の用事だよ。
問題があったらあたしがフォローするし、仕事はきっちりやるやつらだから、安心していいよ」
「……わかりました」
確かに、個々のスキルが高いのは事実だし、役割分担も明確。
約2名のキャラが濃すぎるだけで、残りふたりは常識人だから、そんなに不安がる必要もないか。
強烈なインパクトのおかげで、冒険者の名前とスキルは、村人チームにしっかりと浸透した。
このあとは、村で作戦会議と連携確認をしながら、迎撃態勢を固めるフェーズとなる。
村の命運は彼らに託されたわけだ。
私は新機能の透明なカメラ球体を、村に向かう父さんに預けた。
翌日の朝イチ、村の集会所で、冒険者・領主・村人の混合チームの初回会合が行われた。私はモニタで見てるだけ。
礼儀として領主貴族のホーさんがリーダーに推されたが、「無理無理」とあっさり辞退。
その領主様ご指名で、作戦面のリーダーは経験豊富なチェルさん、現場リーダーはアルバートさんに決まった。
ホーさん、やればできるじゃないか!
猟師スキルをさっと確認した後、「ウダウダ会議してる時間はないよ」というチェル参謀の判断で、一同は、魔物を迎え撃つ西の森のほとりに移動した。
私としても、早めに新機能のテストができるのでありがたい。
テスト結果はまあまあ。
映像は問題なく送られてくるが、DPの消費がすごい。
半日戦闘をモニタすれば、1万DPくらい持っていかれそうだ。
衛星回線貸し切りかよ。
でも、うちのダンジョンは魔道具売り上げをがっつり貯め込んでいるので、よほど長期にならない限り問題ない。
最初は多少ぎこちなかった連携も、そんなに時間がかからずまとまりを見せる。
村側の戦法がシンプルだから、ごちゃつく要素が少ないためだ。
村メンバーの要はホーさん。
土魔法で泥沼を作っている。
魔物を足止めする作戦のようで、猟師チームはその泥沼周辺を足で踏んで確認している。
冒険者の4人は、森との境界線で、あちこち指さしながら何ごとか話している。
緊張気味の猟師たちと違って、落ち着いた表情だ。
まあ、彼らにとってはよくある仕事のひとつだもんな。
「万が一最悪な状況になったら、申し訳ないけど逃げるからね」ってこっそりチェルさんが言ったけど、それでいい。
温度差はあるけど、猟師も逃げ上手だから、無理に命をかけるようなこともないだろう。
どっちみち、私は信じることしかできないし、最悪になったら、ネーさんがプチってしてくれるからね。
まあ、ドキドキはしてきたけど、不安はあんましない。
連携訓練をこなしつつ魔物を待って3日目。偵察に出ていたカーチャさんが、駆け足で村外れの待機所に戻って来た。
「出てくるよー。ゴブリン5匹ー」
「ほーい、りょーかーい。
では、行こうか。
軽く肩慣らしだな。猟師チームもいつもの感じでよろしく。
まとまって行こう」
アルバートさんの緩い掛け声で、全員落ち着いて迎撃現場に向かう。
ジャンゴさんが、指示を無視し、叫びながら大きく先行する。
うん、予想通り。
村人が着くまで、ゴブリンは残っているだろうか?




