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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第3章 弱小辺境ダンジョンの新事業

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6.辺境貴族ども、およびその周辺事情

 家族会議を始めてみたが、結論は最初から決まっているようなものだった。


 そもそもダンジョンを使って商売をしようと思ったのは、生き残るためだ。

 冒険者が来そうもない立地と、あっという間に攻略されそうな防衛力しかない中で、ようやく見えた光がダイエット事業なのだ。

 それを捨てることはできない。


 家族のみんなからも、反対意見は出なかった。

 母さんは「あの領主様は領民想いで有名だからね。信用できると思うよ」とのことだし、

 ファーレン領を一番よく知るディオさんも「何かあったらディオが守るです」って言ってくれた。

 途中戻ってきたお姉ちゃんは、「さっさと契約してサインもらってきて」とか言い出すし、父さんに至っては「任せる」の一言で獲物の解体に向かってしまった。


 よし、勝負に出るか。

 さっき、ユードラさんを利用して儲けてやるって決めたしね。


 私とディオさんが商会に戻ると、ユードラさんともう一人が待ち構えていた。

 小柄で優しそうなお嬢様って感じだ。ニコニコ笑ってる。 


「ヴァネッサ、私の娘だ。

 契約書を持って来させた」


 準備がよろしいことで。

 娘さんの第一印象はとてもいい。


「こんにちはー、こちらになりますー」


 緊張感のない喋り方で、ヴァネッサさんが契約書を差し出す。

 ここでグダグダ言ってもしょうがないので、さっさとサインする。

 内容は「ファーレン領とビレン領の税に関しての情報の秘匿」一点だったので特に迷うような箇所もなかった。 


 そのまま同席するらしいヴァネッサさんも、こちらの情報についての契約を結ぶ。

 うん。ちゃんとしてる。


「では始めようか」


 ユードラさんが領の秘密とやらを話し始める。


「最初に言っておくが、私は君たちを国に売るつもりはない。そこは安心してくれ。

 あの温泉を含むダンジョンの価値は、恐らく君たちが考えるよりずっと大きい。

 ダンジョンが成長すれば新しい温泉も生まれるかもしれない。

 そんなお宝を、国に取られるわけにはいかん。

 あいつら、商売が大きくなるとすぐに口を出してくるからな。

 ただの商会ならここまでする必要はないんだが、国が最終的な管轄権限を持つダンジョンに限ってはそうもいかないんだ。

 それに対抗するためには必要なことだと理解して欲しい」

 

 いきなりの国への敵対宣言。

 心強いけど、話が大きくなりすぎてちょっとビビる。


「そこでこちらの事情の説明になるわけだが、この近辺の情勢を知らないとよく理解できな話になる。ディオはいいとして、ミリ君はその辺は大丈夫か?」

「いえ、全く知りません!」


 胸を張って答える私にユードラさんは苦笑し、「じゃあ、ちょっと長くなるが」と前置きして話しはじめた。


「君のダンジョンはビレン男爵領になるわけだが、その男爵領は今から50年くらい前に新しくできた領地なのは知っているな?

 亡き初代男爵は、隣国との戦いで大活躍した平民出身の英雄だったのだけれど、本当はこんな辺境じゃなくて、もっと豊かな場所に領地を与えられるべき人だったのだ」


 初耳だったが、「聞いたことがあります」みたいな顔でうんうんと頷いておいた。


「とても純朴な人で、国に対して思うところなどあるはずもないのだが、その力を恐れて、疎まれてしまったわけだ。

 叙爵を口実に、王都を追い出されたんだ。

 王都から近い場所もダメ、豊かな場所もダメ、辺境の中でも紛争が多い国境だとまた手柄を立てられてしまうかもしれないからダメ。

 というわけで、森と山脈のおかげで魔物以外外敵のいない今のビレン領に押し込められたのだ」

「なるほど……。それで、あんなに何もないんですね……」

「うむ。ただ、男爵自身は爵位と領地をもらえて喜んでいたんだがな。

 山地の出身だから、平らな土地があるだけでよかったらしい」


 ユードラさんがフルフルとかぶりを振った。


「王家も少しはバツが悪かったらしく、開拓奨励のためという理由をつけて、3代にわたって貴族税を徴収しないと約束したのだが、元王領とは名ばかりの、実質は未開拓の荒野だからな。

 まともな領民も収穫の見込みもないのに、税の優遇なんて意味がないだろう?

 英雄に対する敬意の欠片もない」

「王様、最悪じゃないですか……」

「王も、とりまきの中央貴族もだな。

 当時の王はぼんくらで有名だったから、言われるままだったのだろう」


 超できる若手を上司が勝手に恐れて、アマゾン奥地の支店に左遷したみたいな感じか。

 どの世界も理不尽でいっぱいだ。


「その頃ここの領主になり立てだった私の父はすごく怒ってな、でも王家に物申す力もないから、お隣になった男爵をできるだけ助けることにしたわけだ。

 別の部隊だったけど、同じ戦場で戦ったことがあって、男爵の活躍をその目で見ていたから、余計許せなかったんだな」

「なるほど。戦友ですもんね」


 「それでな」とユードラさんがいたずらっぽく微笑む。


「父は、王家が言い訳みたいにつけた男爵領の貴族税免除を利用することにしたんだ。

 何をやったかというと、ビレン領南部、子爵領と接するあたりの土地を借りて、そこにファーレン領の農民を送り込んだんだ」


 子爵様はちょっとドヤ顔だけど、何がすごいのかわかんない。

 ごめんねバカで!


「母様、それだけじゃわからないですよー」


 私の様子を見かねて、ヴァネッサさんが笑いながら助け舟を出してくれた。


「補足するとですねー、作物を作るのはファーレン領民でも土地は男爵領だから、名目上は男爵の生産になるんですよー。そこでどれだけ収穫が上がっても、無税でしょう?

 男爵には報告義務はないので、国がそれを知る術はないんですねー。

 ここまでいいですかあ?」

「はい、なんとか」


 ゆっくりなので、ユードラさんの説明よりわかりやすい。


「じゃあ続けますねえ。

 一方で私たちファーレンもー、領内の耕作地が減ったぶん、国に納める貴族税が少なくて済みますー。

 大貴族を除けば、ふつうの貴族が納める税金は、農地の広さと麦の収穫量で決まりますからー。

 そこを逆手に取ったんですねー。

 男爵から借りた土地からの収穫の節税分は、後で土地代として子爵家に戻されますー。

 つまり、国に収めるはずの税金は、まるっと男爵領にのものになるわけですねー」

「おお! なんて賢い!!」


 前世的に言えば、タックスヘイブンの隣の男爵領を使って、自治体が率先して脱税まがいなことをしてるって感じだよね。

 やるなあ、ユードラパパ。

 ひどいことした国に法の盲点をついて仕返しとか、最高じゃないですか!


「まあ、こんな辺境の小さな領が何かしたとしても、国にとっては痛くも痒くもない話なんですけどねえ。でも何も持たない開拓民を支えるには十分だったみたいですよー」


 のんびりした喋りに焦れた様子で、ユードラさんが話を引き継ぐ。


「国から見れば、孫の代まで税を取れない男爵領はないのと同じ。場所は最果ての行き止まりだから、動向を気にする必要もない。

 当時から2度代替わりした王家では、男爵領の存在はもうすっかり忘れられているんだ。

 最近の地図には名前さえ載っていない。

 ちょっとした知識人でさえ、ビレン領近辺は未開の荒野だとしか思っていないぞ?」

「マジすか⁉」


 国、雑過ぎない?


「本当だ。

 でもファーレン領の書類にはちゃんと書いてあるぞ? 男爵領の農地を借りてるってな、小さな文字で。

 役人どもはまず読まないし、気づかない。仮に気づいて調べてたとしても違法じゃない。どうにもできんさ」

「まあ、こちらとしては杜撰な方がありがたいですもんね」

「その通りだ。杜撰で大助かりだ。ハッハッハ!」


 子爵様は笑い声を響かせた。


「ちなみに、うちは本当は金持ちだぞ?

 商会や工場からの税は、その領だけのものだからな」


 ユードラさんはニヤリと笑った。


 つまり、農業関連は国税、商工業関連は地方税ってことか。

 日本の感覚からすれば違和感があるけど、まあ、中世的にはそっちの方が理にかなってるんだろうな。


「父は、疑問を持たれない程度に、徐々に男爵領から借りている土地を増やしていってな、おかげでかなりの節税ができた。男爵領の開拓も進んだ。

 そこにディオが来てくれて、余り気味だった我が領の農地も魔道具工場にうまく転換できた。おかげでファーレン領は今ではすっかり魔道具の名産地だ。

 魔道具なら経費も価格もこちらで裁量が利くから、領のためにしっかり金を使えるようになったのだよ」

「うわあ。さすが名領主様ですね!」

「そうか? わはははは!」


 素直に感心したら、ユードラさんはさらにご機嫌になった。意外とちょろいな、この人。


 お茶のお代わりが来て、一息つく。


 お貴族様も生き残るために、色々知恵を絞ってるんだなあ。

 領地経営はダンジョン経営の何倍もすごいってことはよくわかった。


 会議はまだ続く。

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