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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第3章 弱小辺境ダンジョンの新事業

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3.おじさんみたいなおばさん

 モニタを受け入れて10日。

 プログラムも残すところ1/3となった。


 心配していたトラブルもなく、計画は順調に進んでいる。

 成功体験者の母さんがいるせいか、この世界では馴染みのない栄養学の講義も、みんな真剣に聞いてくれる。


 今回はダンジョンパンは使っていないが、糖質制限の食事と水中ウォーキングの効果は、

劇的ではないが確実に出はじめている。


 ジュリアンさんの面接をパスした3人は人柄も良く、休憩時間にはいっしょにお茶をするくらいに打ち解けていた。


「――でね、ギリギリまで引き付けてからあたしはサッと身をかわして、一撃で翼を断ち切ったんだよ。

 飛べなくしちまえば、ワイバーンなんて大きなトカゲと変わらないからね。

 あとは後ろで準備していた魔法使いが火魔法を連続で叩き込んで弱らせて、最後はあたしが首を落としてとどめを刺したってわけさ」

「やったー!チェルさん勝ったー!」


 リリが両手を突き上げ、そのままレイチェルさんに抱きついた。

 同じテーブルには私の他に3人の女性が座っている。

 リリたちを微笑ましそうに見ているふたりが今回のモニタさん、悔しそうにしているのがディオさんである。


 チェルさんことレイチェルさんは45才の元A級冒険者。大剣使いである。

 前衛職のリアルな冒険譚はリリのハートをがっちりとつかんだ。


 魔道具好きの商会のお得意さんで、王都から転移陣を使ってちょくちょく買い物に来ているそうだ。

 35歳で膝のケガで引退し、現在は王都で高位冒険者御用達の宿のオーナーをしているのだが、ケガのせいであまり動かなくなったところに、宿で出す美食の試食で太ったとのことで、ディオさんからモニタ話を聞いて飛びついた。

 それ、試食じゃないよねと思ったが、お金持ちの太客候補なので特に指摘はしない。


 残りのふたりは、オルテンシアさんとラーラさん。


 オルテンシアさんはグレイヘアの快活な老婦人。リムズデイルの先代鍛冶ギルド長の奥さんで、火魔法使いである。

 高魔力だったが冒険者にはならずにドワーフの幼馴染と結婚し、魔法の才能を工房に注ぎ込んだ。

 元ギルド長の名声は、オルテンシアさんの火魔法がなければ得られなかったというのは、鍛冶業界では有名な話らしい。

 旦那とともに引退し、今はひ孫にメロメロだそうだ。


 ラーラさんはモニタ最年少の22歳のD級魔導士。

 リムズデイルの衛兵の娘で、現役の冒険者だ。

 リーダーのケガによるパーティー休業中に実家で我儘放題してたら、ボディも我儘になった。

 活動再開までに痩せないとクビとのことで、他のふたりと必死さが違う。

 空き時間の自主トレも相まって、モニタ3人の中では一番の体重減を実現している。

 目標クリアのめどが立ったためか、開始時に比べると少し余裕が出てきたかな。


 個人差はあるけど、なんとか全員が成果を出しつつ、モニタは無事終わりそうな感じでホッとしている。


 気が緩んだそんなある日の午後、私はディオさんとお風呂に入っていた。


「ミリちゃん、まだですか?」

「まだですよー。あと5往復。止めたら最初からやり直しですからねー」

「が、がんばるです」


 ディオさんが悲壮な顔で巨大浴槽の縁にタッチして、またザブザブと浴槽中央へ歩き出す。

 夜はモニタさんたちが使うため、ディオさんのトレーニングは明るいうちに行うしかできない。だが、ここ何日か仕事が忙しく、運動が全くできなかったということで、今日はちょっとハードメニューなのだ。


 母さんは体を動かす仕事だし、お風呂ついでの軽いトレーニングも毎日のルーチンになっていて、体型維持が出来ている自信からか、ディオさんが少しリバウンドすると盛大に煽るのだ。

 ディオさんのためを思って言ってるのよね?って聞いたら、そんなことは全く考えていなかった。単にマウント取るのが楽しいらしい。

 まあ、結果ディオさんのやる気が出るからいいけど、いい年をした大人としてどうかとは思う。


 そんなわけで、ディオさんが自分から言い出したトレーニングなので、私がいる必要はないのだが、お目付け役をお願いされたので、入浴ついでに往復回数のチェックだけしているわけだ。


 ちょっとのぼせてきたのでお湯から出て、体育座りでゆっくりとカウントダウンを続けていた時だった。


「素晴らしい風呂じゃないか、ディオ!」


 突然、バリトンボイスが風呂場に響いた。

 イケボが洞窟に反響してさらにイケボである。


「よし、早速入らせてもらおう!」


 声の主はその場で服を豪快に脱ぎ捨てると、前を隠すこともせず堂々とこちらに歩いてきた。

 うわーっ!裸で突撃?誰だよアンタ!てか、せめてガニ股やめろ!見えるだろが!


 ……って、女? え、女なの⁉

 確認したけど女性でした。ビビって損した。

 確認はね、しょうがないじゃん。胸は大胸筋かおっぱいかわかんないし。

 高身長で短髪でイケボ・イケメンのおばさま。どこぞの歌劇団の男役かよ!


 とはいえ正体は不明なので、固まっているディオさんに小声で訊ねる。


「誰?」

「領主」

「げ」


 振り向くと、その領主とやらはまさに浴槽に足を入れようとしていた。


「ストップ!」


 あ。思わず声を出しちった。


「ん?どうした、娘」


 ええい、言っちゃえ!


「失礼ながら申し上げます。

 この入浴施設には、こちらのディオニシアさんの定めた入浴の際のルールがございます。

 領主様にもそちらは守っていただきたく存じます」


 シレッと責任をなすりつけられたディオさんが脇腹をつついてくるけど、文句は言わせない。あんたがちゃんと鍵を締めていれば、少なくとも乱入は防げたんだかんね?


「ルールか。ディオ、説明を頼む」

「かしこまりました、領主様。畏れながらお伝え申し上げます。

 お湯に入る前には体を洗う。髪が長い場合は束ねる。布を湯船に入れない。以上3つでございます。

 守れない場合は領主様といえど入浴を認めません」


 お、意外と強く出た。てか、怒ってる?


「そ、そうか。それはすまなかった。

 でも、そんなに怒ることはないだろうが」

「怒っておりません、領主様」

「ならその言葉遣いをやめてくれないかな。背中がむずむずする」


 領主様、押されております。


「じゃあ言うですけど、なんでいきなり来るですか!

 あと、何でいきなり脱ぐですか!

 ここはユードラのお家じゃないです!

 脱いだ服は畳んでちゃんとください!

 それと、前くらい隠してください!

 もうちょっとデリカシーを持つようにいつもディオが言ってるの忘れたですか!」

「す、すまん!以後気を付ける!

 王都から戻ったから様子を見に来たんだが、目の前に大きな風呂があったもんでつい舞い上がってしまった。

 で、体を洗ったら風呂に入っていいか?

 もう脱いでしまったし、ここで帰れというのはひどいと思うのだが」

「……まあ、しょうがないので許可するです。さっさとそこの洗い場で洗って来てください。

 あ、石鹸のレシピも変えたので、ついでにそちらの確認もお願いするです」

「了解した」


 ディオさんの指示に従い、領主様は大人しく洗い場に向かった。 

 その隙に情報収集する。

 ディオさんの鍵締め忘れについても一言いたいけど、もう乱入されちゃってるのでそれは後回しにして、領主様の取説をお願いする。


 隣領ファーレン(名前初耳!)領主、ユードラ・クル・ファーレン女子爵。早世した父の後を継ぎ20代前半で領主になってから、10年ちょっとで北西部辺境の田舎の領地に魔道具産業を根付かせ、大きく発展させた名領主である(歴史初耳!)。

 都落ちした希代の天才(ディオさん調べ)元宮廷魔導士の小商会に出資し、領主自ら販路の拡大と生産環境の整備を行った手腕は、王家からも評価されている。

 一方で舞台俳優張りの「男っぷり」も有名で、多くの女性ファンを持つ。

 既婚だが、夫が童顔で小柄なのでショタコン疑惑がささやかれている。ちなみにその夫君は彼女より年上で、領の財政を仕切る切れ者である。

 子供は一男一女で、長男は友領に婿入りし、跡継ぎ候補の長女は父親似で小柄なおっとりタイプ。


 というかなり詳細な情報を、ディオさんは早口で教えてくれた。

 多分すぐ忘れるけど、今はなんとかなるだろう。

 見た目通り豪快な人物で、多少のミスは気にしないらしいので安心ではある。


 準備を終えたユードラさんが目をキラキラさせて湯船に入り、一番奥にいる私たちに向かって、ザブザブお湯を搔きわけて進んで来る。だから、前を隠せってば。


 転生後初めてのお貴族様との対面である。

 いつかそういう時が来るとは思っていたので、それ自体は諦める。

 だが、なぜ風呂場で、なぜお互い全裸なのだろう?

 そこだけは解せん。

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