8.母帰る
――落ち着きますた。
興奮してリリの肩をつかんで「カロリーゼロだよ⁉」って言ったら、「かろりーぜろ?」ってキョトンとしたので、「どれだけ食べても太らないってことだよ!」って説明したら、「ミリねえは太らないよ?」って返されて、我に返った。
そうでした。おいらは太る心配はないんでした。
でもそれは、胸とか身長とか胸とかの成長を犠牲にしてのことなので嬉しくはない。
むしろちょっと凹む。
母さんの痩せた原因がわかったことが、収穫っちゃ収穫。
彼女の主食はDPパン。一日10個は食べるけど、消化過程で魔素に還るのでカロリーはゼロ。
メインのおかずは肉。それも赤身。良質なたんぱく質である。
村の野菜でビタミンも摂れている。
異世界マヨは鮮度の関係でダンジョンには置いていないし、スイーツもない。
完璧とまではいかないけれど、立派なダイエットメニューだ。
画期的だ。私には関係ないけど。
前世にあったら、あんな苦労はしなくて済んだのに……。
はあってため息をついたところにコアちゃんの声が響いた。
『では、マスターにはもう一度ダンジョンについてのお勉強をしていただきます』
「へ?」
『しばらく時間が経って色々忘れているようですし、見落とした部分もあることがわかりましたので、しっかり学び直しをお願いします』
「え? 今学び直したよ?」
『不十分です』
「今秋休みだし。
冬は暇そうだから、そこでやるっていうのはダメ?」
『は?』
ダメですかそうですか。
その後、コアちゃん先生のスパルタ補修は3日間続いた。
うん。勉強にはなった。
でも、答えを間違った時のコアちゃんの『は?』が若干トラウマ。あと、休憩の時にずっとデビリン愛を語るのも、ちょっとヤンデレっぽいのでやめてほしい。
分体のリリがいることもあって、昔に比べてコミュニケーションは減ってしまったけど、
これからはコアちゃんとの時間もちゃんと取ろうと思いましたよ。
そんな秋休み後半をなんとか乗り切り、デビリンをもふりながら精神力の回復にいそしんでいたら、母さんが帰ってきた。
村のお手伝いを終えた父さんとお姉ちゃんもいっしょだ。
「はい、まずはお待ちかねの魔石ね」
とりあえず宿の食堂に荷物を下す、お茶を飲んで一息つくと、母さんが小さな布袋をトンとテーブル置いた。
「見ていい?」
「もちろん!」
ニマニマしてるということは、いい買い物ができたっぽい。
期待しつつ、袋から魔石を取り出す。
「おお、すげえな!」
最初に取り出した一番大きな魔石を見て、父さんが思わず感嘆の声を上げた。
「この一番大きいのが、ミノタウロスの魔石ね。3万タシュ。かなりのレアものよ」
母さんがドヤ顔で解説する。
ゴルフボールくらいの大きさの球形。色はうっすらと赤味掛かった半透明。
なんというか、実に魔石っぽい。近所で拾ったものと全然違う。
その他に魔石は3個。
深緑のビー玉サイズが1個と黒と黄土色のパチンコ玉サイズが各1個あった。
「中くらいのはトレントのやつね。1万タシュ。
黒いのはゴブリンメイジの魔石で5千タシュ、含まれる魔力が多いらしいわよ。
黄土色のがオークで3千タシュ。オークの魔石の中では大きいほうだって。
この3つは値切れなかったけど、品質優先で買ってきたわ」
「全部で約5万か。高えな」
「何言ってんのよ、ヒュー。これでもすごくお買い得だったのよ。
ミノの魔石なんか、普通だったら一つで5万以上するのを安く譲ってもらったんだから」
「そうなのか! じゃあ安いな!」
父さんの残念さはさておき、元冒険者の母さんがぼったくられることはないのは確かだ。
でも、重要なのは値段ではなく、この魔石が何DPになるかだ。
皆の許可を得て、中魔石を除く3個をコアちゃんにDPへの変換をお願いする。
中魔石は看板娘として頑張ったリリへのご褒美だ。
さっきからずっとロックオンしてたしね。
もうニッコニコである。実にかわいい。
私は玄関先のテラスに魔石を並べ、それらが全て吸収されるのを見届けた後、宿に戻り、コアちゃんから聞いた結果を皆に知らせた。
「全部で900ちょいか。ミリ、これってどうなんだ?」
「いや、父さん、私もわかんないってば。
でも、悪くないと思う。トレントのより大きかった森の水晶でも40DPくらいだったから。
やっぱり、魔物の魔石のほうが魔力が詰まってるんだね」
DPの内訳は、ミノタウロスの魔石が840DP、ゴブリンメイジの黒いやつが52DP、オークのが21DPだった。
リリにあげたトレントの魔石が残っているけど、大きさから見て100~200ってとこだろうから、それを合わせたら1000は確実に超える。
ダンジョンの保有DPも1万を突破した。上出来だと思う。
「でもよ、考えてみたら、もう1万タシュ足してミノの魔石もう一個買ったほうが儲かったんじゃねえか?」
「あ、確かにそうか!
母さん、そういう時にケチるよね」
「メイジーは関係ないんだから黙ってなさい!」
「関係なくないもん!」
「うるさい!
ヒューも適当なこと言わない!
ミノの魔石なんかもっと都会に行かなきゃ売ってないの!
今回は、友達から安く譲ってもらったからたまたま手に入っただけなの!
すっごくラッキーなんだからね!!」
「そ、そうか。なんかすまん」
父さんは謝ってるけど、ミノタウロスの魔石が一番DP化の効率がいいという指摘は正しい。
定価の5万タシュでもそうなのに、4割引きでゲットしてきたのだからめっちゃお買い得だったわけだ。
「ありがとう母さん!
私だったら、こんなに上手に買い物できなかったよ!」
「でしょ? よかったわ」
「うん。でも、そのお友達もよく譲ってくれたね」
「あ、うん。
えと、それでね、その友達のことなんだけど」
太っ腹なお友達の話をしたら、母さんは急にキョドりだした。
「あ! エイダ、まさかあいつか⁉」
母さんの言葉を遮って、父さんが叫んだ。
「あ、あいつって誰よ?」
「いるだろ、ディオなんとかいう魔道具作ってるデブが」
「デブって言わない!
……ディオニシアよ。ディオニシア・ステファノプロス」
「名前長えわ!
あの強欲女がタダで2万も割引するはずねえだろ?
何かヤベーことさせられたんじゃねえだろうな?」
「いや、そういうのじゃないから!ダイエット方法教えただけだから!」
「ダイエット?」
「そう、ダイエットよ。
私が痩せたのを見て、すごく知りたがったから。魔石はそのお礼」
「――そうか。まあ、痩せたいんだろうな、デブだから」
父さんは安心したようにフーッと息を吐いた。あと、またデブって言った。
ん?じゃあ、なんで母さんはキョドった?
いやな予感がする。
「母さん、まさかダンジョンのこと話してないよね?」
私の問いに母さんはサッと目を逸らした。
「喋ったの⁉」
「……いっしょにお酒飲んででポロッと……。
あ、でも話したのは、ダンジョンに住んだら痩せたってことだけよ?
詳しい話はしてないわ」
「でも、ダンジョンって言っちゃったんだよね……」
「それでね」
「まだあんの⁉」
「ディオが来たいって」
「はい?」
「ディオがね、ここでダイエットしたいって。それで」
母さんは早口でそう言って、バッグから一枚の布を取り出し、テーブルの上に広げた。
そこには複雑な魔法陣が描かれていた。
「何これ?」
「持たされた。転移の魔法陣だって。
これに魔石をセットするとマーカーになって、ディオが転移できるようになるって」
なんかすげえのぶっ込まれた。
めまいがしてきた。
どうしよう、明後日から営業再開なのに。




