7.ダラダラするはずだったのに
「あー。ダラダラしてしまった」
そろそろ何かしなきゃと思ったのは、母さんが出かけてから5日目のことだった。
だって、しょうがないよね?
60連勤だよ?
そんで親出かけたんだよ?
そりゃダラけるでしょ!
いや、むしろダラけなきゃいかんでしょ!
前世と違って娯楽もないし、食べる必要もないので、休みの日にできることは限られる。
ベッドでごろごろしたり、リリといっしょにデビリンをモフったり、近場の森を散歩したりするくらいしかないんだけど、やっぱお休みっていいよね。
なんかすごいリフレッシュできた感がある。
森林浴っていいものだったんだね。
前世ではアウトドアとか全然興味なかったけど、キャンプとか行ってみればよかった。
まあ、今さらの話だけど。
さて、さすがに飽きてきたので、今日はお仕事的なのをやろうと思うんだけど、何をすべきだろう?
緊急案件はないし、どうしよっかな。
うーん――。
「リリー、デビリーン、お散歩行くよー!」
呼んだらすぐ来た。暇してたっぽい。
散歩しつつ決めよう。
早速3人で秋の森に入る。
下生えの草はもう枯れていて、割れた小さな莢がどころどころに散らばっている。
ただ、広葉樹の巨木はようやく色づき始めたところで、まだ落ち葉は少ない。
秋の真ん中で紅葉の見ごろは先ってことは、冬になってもそれほど寒くはならない場所なんだろう。
雪で閉じ込められるような所じゃなくてよかった。
今日のお散歩は、湖をぐるっと一周するコースだ。
湖の対岸の先の森が、父さんたちのメインの狩場らしい。
デビリンの縄張りのギリ外側になる。
デビリンのパトロールエリアから外れているせいで、獲物の数が多いらしい。
父さんによれば、もっと奥には大物がいる可能性が高いけど、危険なので深入りは禁止だそうだ。
「大物狙って怪我しちゃ元も子もねえからな」って笑ってた。
確かにね。
森は終わりが見えないほど広がっていて、ダンジョンの場所は森全体から見れば浅層の一部に過ぎないが、村から見ればこれまで行くことのできなかった森の奥だ。
デビリンのおかげでできた絶対安全地帯を拠点に、十分な猟果を上げているんだから、これ以上の危険を冒すメリットなんてないよね。
湖では、私とリリはちょっと休憩して、デビリンのおやつタイムを見学した。
おやつとは魚である。
デビリンは、ダンジョンの子になってから徐々に食事量は減り、今ではパトロールに出ても何も食べずに帰ってくることもあるのだが、やはり魚は好物らしく、定期的に食べたくなるようだ。
デビリンは湖の縁に陣取り、「デビルズアーム」という種族名の由来になった右腕をスッと上にあげ、気配を消すように動きを止めた。
いつもは引っ込めている3本の長い爪がピクリと動いた瞬間、太い腕が音もなく振り抜かれ、次の瞬間、大きな魚が草の上に横たわっていた。
爪だけが通り過ぎた水面はすぐに静かになり、一撃で仕留められた魚はピクリとも動かない。
デビリンはそれを振り向くこともなく、じっと次の獲物を狙う。
「デビリンかっこいいねえ」
リリがキラキラした目でつぶやいた。
確かにかっこいい。
なんか武士っぽい?武士見たことないけど。もふもふだけど。
とにかく、達人オーラが半端ないのである。
もふもふ武士は、シュパっともう2匹の魚を仕留め、あっという間にきれいに平らげた。
忘れてたけど、あの魚も魔物なんだよね。
一度ダンジョンで吸収した時には、2DPにしかならなかったけど、前世のサーモンサイズの魔物って考えればけっこう怖い。
昔、私が川で噛みつかれた鰯サイズの魔物の攻撃も何気に痛かったから、戦ったら勝てないだろう。
でも、こちらにはデビリンがいる。二口でペロリだ。
あ、そっか。
脅威度Aランクのデビルズアームって、本来はこのあたりにいる魔物じゃないらしいけど、デビリンはずっとこの魚といっしょに魔石も食べてきたわけで、それがここまで進化した原因かもしれない。
もぐらだって魔石食べて魔物化したし。そういえば、アレまだいるのかな?
「ぐぉああーう」
デビリンが「お待たせー」みたいに鳴いて、私たちはお家へと引き返す。
ポテポテと歩きながら、冬場の稼ぎどうしようかなって考える。
ハンターチーム、冬はお休みって言ってたからなあ。
途中、以前に川に石英を撒いたことを思い出してチェックしたけど、魔石化にはまだ時間がかかるみたいって、鑑定士リリさんの結論だった。今年はダメか。
父さんとお姉ちゃんになるべくダンジョンにいてもらうようにすれば、維持費の足しにはなるけど、DPの目減りは避けられない。
母さんが隣町で買ってくる魔石で不足分を賄えればいいんだけど。
まあ、今考えても仕方ないので、私は私のできることをしましょうかね。
てなわけで、秋休み6日目にして、私はようやくコアちゃん先生の元に参じたのである。
何について勉強すればいいのか、いまいちはっきりしないので、とりあえずマニュアルを読む。
魔物図鑑で中層のフロアボス候補としてデビルズアームが推されていたり、火山階層のパーツに温泉があったりといった、見落としていた情報を拾ってゆく。
温泉は大喜びしたけど、使用するエネルギーが大きいせいか、火山階層の増設には最低2000DP、パーツの温泉単体でも400DPもかかるてめ、あえなく断念した。
蒸気の吹き出し口なら1個100DPで設置できるから、サウナなら作れるかもしれないけど、私、サウナ特に好きじゃないしなあ……。
忘れていたこともちょこちょこあったし、やっぱ時々は復習しないとダメだね。
で、そんな中で引っかかったのが、ダンジョン運営の本筋とは関係のない補足情報として書かれていた「再現」の機能だ。
「ダンジョンに吸収したもののうちの一部は、ダンジョンの魔力を使用して疑似的に再現することができます」とだけしか書いてなかったけど、それってすごいことなんじゃない?
「ねえ、コアちゃん。この再現っていうの何が出せるの?」
『複雑な加工品は無理ですが、例えば、今まで吸収した魔物の素材なら出せますよ』
「そうなの?じゃあ、魔石も出せる?」
『はい。出すことだけなら可能です』
「じゃあ、その魔石を吸収したら、DP増えるよね⁉」
『は?』
勢い込んで言ったら、なんか思いっきりバカにされた。
『――いいですか、マスター。複製はダンジョンの魔力を使うんですよ?
例えば10DPになる魔石を複製で作るなら、12DP相当の魔力が必要になります。
それをもう一度吸収したとしても2DPの赤字です。意味がありません』
「そうなの?」
『はい。そんな方法でDPを増やせるならとっくにやっています!』
「わかりました……」
わかったけどさ、そんなお説教みたいに言わなくてもいいじゃん。
「じゃあ、複製って役に立たないわけ?」
『いえ、そういうわけでもありません。
現在でも、宿で出しているパンは複製で作っています。
魔力を持たせる必要もないので、1DPで20個ほどできます。
1個当たり0.05DPですね』
「お買い得だ!」
『はい。ちなみに複製物は魔力でできているので、時間がたてば溶けて魔素に還り、その一部はダンジョンの魔力回復に使われますので、効率が悪いというわけではないですね』
ん?なんか、さらっと重要なことを言われた気がする。
「コアちゃん、てことはダンジョンパンって栄養がない?」
『はい。マスターが食べればわずかにDPに戻りますが、人間の栄養にはなりません』
つまり。
私は立ち上がって叫んだ。
「カロリーゼロじゃん!!」




