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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第2章 崖っぷちダンジョンの延命策

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6.気が付けばブラック

本日も3話更新です。

 開業して2ヶ月ほど過ぎると、村人のブームも一段落して、宿の客は1日平均3~4人で落ち着いた。

村の農作物の収穫がピークを迎え、父さんたちハンターチームもそちらの手伝いに掛かりきりになるため、明日から10日間は予約が全く入っていない。


「ミリちゃん、冬の間もここに残るの?お客さん来ないでしょ?村に来てもいいのよ?

 あ、そうだわ!冬の間だけうちの子になるっていうのはどう?デビリンちゃんも人気者だし、リリちゃんもかわいいし、きっと村の皆も喜ぶと思うのよ。宿の管理はエイダに任せれば大丈夫でしょ?」

「いい加減にしろ、ミリちゃん困ってるだろ!」


 村人のおばちゃん代表、常連の採取人ポーラさんがぐいぐい来るのを旦那さんのフレディさんが制止する。

 休み前最後のお客さんで、別れを惜しんでくれるのはありがたいが、おばちゃんちの子になるのはちょっと遠慮したい。


「お気持ちだけで。

 ありがとうございました。春にお待ちしてます!」


 営業スマイルで送り出す。


「おう、じゃあな! 行くぞ、ポーラ」

「はいはい。

 じゃあ、ミリちゃんもリリちゃんも春まで元気でね!」

「はい、ポーラさんとフレディさんも!」


 ふたりの姿が森に消えるのを見届けて、玄関脇の椅子に腰を下ろす。


「終わったー!」


 そう。この瞬間、ハンター宿は大型連休に入ったのである。


 気が付いたら、オープンから60日くらい無休だったよ!

 まあ、日々の生活に毛の生えたような営業だからそこまで忙しくはないし、宿としては休みがないのは当たり前ではあるんだろうけど、前世の感覚的にはNGだわ。


 休み明けには森の木の実やキノコなどの収穫で忙しくなるのはわかってるから、この休みはしっかりと堪能しなければならない。


 ただ、とはいってもここは異世界のダンジョン。

 マンガもネットもないから、ゴロゴロしてリリやデビリンと遊ぶくらいしかできない。

 もちろんそれも大歓迎なんだけど、確実に時間余るんだよなあ……。


 時間があるなら、ダンジョンのこれからのこととかじっくり考えるか、とも思うけど、それはいつも頭の片隅で考えてることだし、現状何の手がかりもない状態で悩んでも、何か解決策が出てくるとは思えない。

 うーん。どうしよっかなあ。


「ねえねえ」


 あー、勉強もしなきゃなんだよなあ。

 ずっとバタバタしてて、ダンマスっぽいこと何もしてなかったからさ。

 マニュアルは一応全部目を通したけど、見落としたこととかいっぱいあるだろうし、コアちゃんの講義とか受けてダンマスとしての知識を蓄えて、せめて宿のバイトは卒業したい。

 いや?でもそれって休日の過ごし方として正しいのか?

 もっとこう、楽しいことすべきなんじゃ?

 

「ねえねえ、ミリってば」

「もう、うるさいなあ。忙しいのに。

 何、母さん?」

「忙しいって、何もしてないじゃない。

 それよりもね、私痩せたと思わない?」

「……あのね、痩せて嬉しいのはわかったけど、毎日同じこと訊くのやめてくれる?」

「了解!

 それで、どう?痩せたわよね?」

「はいはい痩せた痩せた。村で一番スリムなんじゃない?」

「やっぱり?

 じゃあちょっとお散歩してくるわ」


 浮かれ過ぎてて、皮肉も通用しない。

 鼻歌を歌いながら出かけてゆく。


 イラッとはするけど、前世の私も一時期ダイエットに励んでいたから、気持ちはわからなくもない。

 ただ前世の場合、結果的に痩せたのはブラック企業の激務のせいだから、「痩せた」というより「やつれた」が正解なんだけどね。

 体重は落ちたけど、肌とかもボロボロだったし……。


 ……いや、あの会社の話はやめよう。哀しくなる。


 母さんの場合、ダイエットに成功したのは、多分ダンジョンに住んでいることが関係している。

 確かに宿の仕事で運動量は増えたかもしれないけど、村でも家事や仕事はしてたわけで、それだけであんなにすっきり痩せられるわけがない。

 宿の食事も特別なものじゃなく、肉と野菜とパンとスープという村の家庭料理と似たようなメニューだ。

 違いがあるとすれば、魔物肉が多いことくらいかな。


 まあ、私のダンマスボディは太る心配がないから、どうでもいいっちゃいいんだけど、元ダイエッターとしてはちょっと気になるから、このあたりも休みの間にコアちゃんに訊いてみるとしよう。


 あ、そっか。魔物肉がダイエットにいいっていう可能性もあるのか。

 前世の羊肉みたいな感じ。なんだっけ、痩せる成分。


「あっ! ミリねえこんなところにいた!」


 私がカルニチンかカルチニンかで悩んでいると、リリがパタパタと駆け寄ってきて、手に持った紙を差し出した。


「計算終わったから、確認してください!」

「あ、はい」


 リリは、今や宿の看板娘だけではなく、経理も担当しているのである。

 理由は私より計算が早く、正確だから。

 リリの計算能力は元プログラマよりずっと優秀だったのだ。

 だって電卓も経理アプリもないんだもん。


 差し出されたのは今月の帳簿である。

 〆日はまだ先だけど、お客さんがいないことが確定しているので問題ない。

 むしろ、仕事早すぎてビビる。

 一応オーナーとしてチェックするけど、――はい、完璧です。

 ……私いらなくね?


 まあ、元の書式とか作ったの私だから、何もやってないわけじゃないってことでどうかひとつ。


 今月の売り上げは、あと8日残した現時点で86000タシュ。

 宿代が一人一泊1000タシュだから、今月は延べ86人が利用してくれたことになる。

 田舎町の安宿が一泊2000タシュ位って話だから、かなりお得だと思う。

 あ、タシュとはこの世界の通貨単位ね。


「えーと、リリ、86÷24は?」

「えと、3.583333……、だよ」

「早い!さすがリリ!」

「えへへへ……」


 照れるリリがかわいいのはデフォとして、一日平均3.6人か。

 先月は17000タシュ以上の売り上げがあったけど、それはオープン月のご祝儀みたいなものだから、これからは一日3~4人くらいを基準に考えればいいか。

 本来の目的であるDP収入は一日10前後ってとこだ。

 うーん。安定はしてるけど、もうちょっと稼ぎたいとこだよなあ。

 お金はじわじわ貯まってきてるから、そろそろ使い道も考えたい。


 まずは、リリに何か買ってあげたい。

 宿の仕事をすごく頑張っているから、ご褒美は必須でしょ。


「ねえリリ、何か欲しいものない?」

「欲しいもの?」

「うん。かわいい服とかどう?」

「服?持ってるよ?」


 なるほど、興味なしか。

 私としては、着せ替えしたい気持ちでいっぱいだが、リリが喜ばないんだったらナシだ。


「じゃあ、食べ物は?

 今まで食べた中で一番美味しかったの何?」

「美味しかったのはね、魔石!」


 うわ! そう来たか!

 そういえば、リリさんダンジョンコアだったわ。


「買って来るわよ」

「え?」


 顔を上げると、散歩から帰ってきた母さんが、玄関の扉に寄りかかって微笑んでいた。


「魔石でしょ? うちの領にはないけど、隣の領のリムズデイルまで行けば買えるわよ?

 ここからだと馬車で3日かかるけど、お休みが10日あるから余裕で往復できるわね。

 明日から収穫で、明後日から村から荷馬車が出るから、行くなら今がチャンスよ?」


 そう言えば、村に行った時に、お姉ちゃんがそんなこと言ってた気がする。

 確かに、ダンジョンではお金を持ってても使い道なんかないから、魔石に換えられるならそっちのほうがいい。


「いいかも……。じゃあ、お願いしてもいい?」


 母さんも連勤だったんだから、息抜きが必要だよね。


「任せて! 軽くなったフットワークを見せてあげるわ!

 向こうには友達がいるから、いい店を紹介してくれるはずよ!

 よし、じゃあ早速準備するわね!」


 母さんはバタバタと地下の自室に向かい、20分で旅支度を整え、デビリンの背中に乗って戻ってきた。


「デビリンちゃんが村まで送ってくれるって!」


 デビリンが小さくため息をついたということは、無理やり頼み込んだな元ぽっちゃり。


「母さん、痩せたんだから歩けばいいのに」

「それより早く村に着くほうが大事なの!

 最初の荷馬車は明日の朝出発だから、今日中に村長に話をしておかなきゃならないからね。

 じゃあ、デビリンちゃん、お願いね」

「がう!」

「行って来ます!」


 私が「行ってらっしゃい」を言い終わる前に、母さんを乗せたデビリンは森へ走り出していた。

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