第5話 世界で一番甘い約束(最終話)
あの「審判」の日から、学校の空気はガラリと変わった。
美月と拓海くんは、全校生徒からの冷ややかな視線と自業自得の噂に耐えきれなくなり、間もなくして揃って別の学校へと転校していった。
私を苦しめていたあの息苦しい世界は、信じられないくらいあっけなく、綺麗に消え去った。
私に話しかけてくるクラスメイトも増えたけれど、私は相変わらず、教室の隅で静かに過ごしている。
ただ一つ、以前と違うのは――。
♢
放課後。茜色に染まる夕暮れの屋上。
フェンスに寄りかかって遠くを見つめている、引き締まった背中。
「蓮くん、お待たせ」
声をかけると、最恐と恐れられる総長・蓮くんが、私だけに向けられる世界で一番優しい顔で振り返った。
「遅い。待ちくたびれた」
「ごめんね、日直の仕事があって……」
近づくと、蓮くんは私のカバンをごく自然に自分の左手で持つと、空いた右手で私の右手をきゅっと握りしめた。
大きな、節くれ立った、温かい手。
「なぁ、実結」
「うん?」
「お前、もうあいつらのこと、気にしてねえか?」
少しだけ不器用そうに、心配そうに覗き込んでくる蓮くんの瞳。
私はその胸にそっと頭を預けながら、小さく首を振った。
「うん。全然気にしてないよ」
私は最高の笑顔を蓮くんに向ける。
「だって、蓮くんが私を信じて、守ってくれたから」
それが私の本心。
「……私ね、あの時、本当に嬉しかったの。蓮くんが大好きだよ」
ずっと胸の奥に閉じ込めていた本当の気持ち。
言葉にして伝えた瞬間、自分の顔がカッと熱くなるのが分かった。
蓮くんは一瞬、驚いたように目を見開いたけれど、すぐに甘く切ない笑みを浮かべる。
そして私の腰を強引に引き寄せた。
「……お前、そういうこと急に言うなよ。理性がもたねえだろ」
「えっ……?」
驚く暇もなかった。
蓮くんの端正な顔が目の前に迫り、
唇に、
柔らかくて少しだけ強引な熱が降ってきた。
「ん……っ、」
夕日に包まれた誰もいない屋上で、何度も、深く、溺れるような甘いキスを交わす。
繋いだ手から、彼の、私だけへの狂おしいほどの執着が伝わってくる。
ようやく唇が離れたとき、
蓮くんは私の額に自分の額をコツンと当てて、
熱い吐息を漏らしながら囁いた。
「もう誰にも邪魔させねえ。一生、俺の隣にいろ。
お前を泣かせる奴がいたら、
俺が世界中を敵に回してでもぶっ潰してやるから」
「うん……ずっと、隣にいさせてね」
地味で、灰色だった私の世界。
これからは、私を世界一愛してくれる冷徹総長の色に、
どこまでも甘く、染まっていく――。
(完結)




