第1話 すれ違う想いと、暴走する罠
私、星野 実結。どこにでもいる、地味で目立たない高校2年生。
そんな私には、絶対に誰にも言えない秘密がある。
それは、学校一の人気者で、実は裏で街の有名チームを率いていると噂の最恐ヤンキー、蓮くんに片思いをしていること。
「実結、また蓮くんのこと見てたでしょ?」
休み時間、そう言って可愛らしく微笑んだのは、私の親友の美月。
学年一の美少女である美月は、私の恋を応援してくれる唯一の理解者だ。
「ち、違うよ……! 私なんかがあんな雲の上の人と、どうこうなれるわけないし……」
「もう、実結は自分に自信がなさすぎ! 私が協力してあげるから、絶対に大丈夫だよ!」
美月は私の手を握り、ひまわりのような笑顔を浮かべた。
私は「なんて良い友達を持ったんだろう」と、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
でも、この時の私はまだ知らなかった。
美月の笑顔の裏にある、ドス黒い企みに。
♢
その日の放課後。
私は美月に頼まれて、誰もいない夕暮れの第2図書室で、蓮くんの親友である拓海くんを待っていた。
美月いわく、「拓海を通じて蓮くんの好みをリサーチしてあげる」とのことだったのだけど……。
ガラッ、と激しくドアが開く。
「……待たせたな、実結」
入ってきたのは、いつもチャラチャラして女子に囲まれている拓海くんだった。
でも、今の彼の目は、いつになく真剣で、どこか焦っているように見える。
「あの、拓海くん、美月は……?」
「美月なら来ねえよ。俺がお前に話したくて、場所を変えてもらったんだ」
拓海くんが一歩、私に近づく。
その迫力に圧倒されて、私が思わず後ずさると、背中が本棚に当たった。
すかさず拓海くんの手が、私の顔の横の本棚に叩きつけられる。激しい音が室内に響いた。
「っ……拓海くん……?」
「お前さ、なんであいつばっか見てんの? 蓮には美月がお似合いだって、周りもみんな言ってるだろ」
「それは……」
私が答えようとすると私の視界がぶれる。
なに?
何が起こったの?
頬に痛みだけが残っている。
「あいつじゃなくて、俺にしとけよ。……俺なら、お前を絶対に泣かせたりしない」
拓海くんの顔が、信じられない近さまで迫る。
心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
私、殴られた・・・?
私は蓮くんが好きなだけのに。どうしてこんなことに――?
その時。
図書室のドアが、今度は静かに、だけど冷徹な威圧感を伴って開いた。
「……そこで何してんだ、拓海」
低く、地響きのような声。
入り口に立っていたのは、ポケットに手を突っ込んだ、蓮くんだった。
その鋭い三白眼が、拓海くんの手と、私の怯えた顔を交互に捉える。
蓮くんの纏う空気が、一瞬で凍りつくのが分かった。
「蓮……ッ」
拓海くんが気まずそうに手を引く。
私は助かった安心感と、
大好きな蓮くんにこんな不純な現場(に見える状況)を見られてしまった絶望で、頭が真っ白になった。
蓮くんはゆっくりと私に歩み寄ると、私の手首を乱暴に掴んだ。
「実結、行くぞ」
「え……あ、でも……!」
蓮くんは拓海くんを冷たく一瞥すると、そのまま私の手を引いて図書室を連れ出した。
夕日に染まる長い廊下を、手を引かれて早足で歩く。
繋がれた手から、蓮くんの体温が熱いほど伝わってきて、泣きそうになる。
(蓮くんは……なんで私を助けてくれたんだろう?)
♢
学校の裏門まで来たところで、蓮くんが急に足を止めた。
振り返った彼の瞳には、明らかな怒りと、それ以上の切なさが混ざり合っている。
「お前……あんなチャラついた奴に、簡単に迫られてんじゃねえよ」
「違うの、私はただ、美月に言われて……」
「美月、美月って……! お前はいつも周りのことばかりで、自分のこと全然分かってねえだろ!」
蓮くんが私の両肩を掴み、壁に押し付けた。強引な、でも、どこか震えているような抱擁。
「それで拓海に、迫られてたのかよ」
「え……?」
思考がフリーズする。
「アイツのこと。好きだったのかよ」
蓮くんが、私を見ている……?
──私は
♢
その頃。
誰もいなくなった第2図書室の影から、一人の少女が姿を現した。
スマホを片手に、邪悪な笑みを浮かべているのは――美月だった。
画面には、先ほど拓海くんが実結を押し倒すように見えた、絶妙な角度で撮られた写真が写っている。
「ふふ、上手くいった」
「これで実結は、学校中から『蓮くんを利用して拓海を誘惑した最低な女』って呼ばれることになる。蓮くんは、私のものなんだから……」
夕闇の中、美月の冷たい笑い声が響いていた。




