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いつも愛読いただきありがとうございます。第三十話になりました。今回は物作りにスポットライトをあてています。のんびり楽しんで読んでください。
時間は少し遡る。日暮れに、ヒメジは比較的大きな雑貨屋に入った。ヒメジは時間をかけて目的の物を丁寧に探したが、なかなか見つけられない。店の中の棚を一通り見て目的の物がないことを確認すると店員に声をかけた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。ご用は何でしょうか?」
「石けんを購入したいのですが置いていますか?」
「『セッケン』とは何でしょうか?」
「服や手の汚れを落とす物ですがご存じないですか?」
「ああ、それならこれですね」
店員は店の奥の棚から固形物を取ってくるとヒメジに見せた。立方体の面がでこぼこしたいびつの形をしていて、人の拳の大きさの物体を持ってきた。
(いつも見ている石けんの形じゃないな。まあ、こちらの世界で作られた物だから、見慣れている物と違っているのは仕方ないか。一つ買っておこう)
「これいくらですか?」
「少し高くて一つ銅貨一枚です」
「高いですね。もう少し安く出来ませんか」
「無理ですね。これを作るには時間がかかるのですよ」
「どのくらいかかるのですか?」
「そうですね。数週間から一ヶ月かかりますね」
「そんなにもかかるのですか」
「ええ、ですがその分汚れもよく落ちますよ」
「なるほど。ちなみに原材料はなんですか?」
「木灰と動物の脂や油です」
「木灰とは燃やした後の灰のことですか?」
「そうです。それを水に浸して、上澄みの液を使います」
「なるほどね~。上澄みの液を使うのか。それで、動物の脂や油は上澄み液と混ぜるのですか?」
「そのとおりです。弱火で加熱しながら上澄み液と動物の脂や油をかき混ぜます。数時間混ぜているととろみが出るので、それを好きな型に入れて数週間乾燥するとできあがりです」
「そんなに手間がかかるのですか。それなら代金が高くなるのも納得します。でも、私には高すぎるので、購入はやめておきます」
「そうですか。仕方ないですが、次回は購入してくださいね」
ヒメジはそれには返事をしないで微笑んでいた。
「他にご用はありますか?」
店員はヒメジに尋ねた。ヒメジは店を出ようとしていたので、
「ありませ」
まで言いかけて、ふと、口をつぐんで数秒ほど考えた。そして、店員に、
「あります」
答えた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「油脂はありますか?」
「ええ、ありますよ。ひょっとしてお客さん石けんを作ろうとしているのですか?」
「ばれましたか。その通りです」
「それでしたらこの油脂が最適ですよ」
店員が奥の棚から白い油の塊を持ってきた。
「良さそうな油脂ですね。これを一キログラムください」
「ありがとうございます。それから、木灰ですね。あいにく店には置いていませんが、木を燃やしたら出来るので、このオーク材をお使いになったらいいですよ」
店員は店の隅にある木の枝を指差した。いくつかの枝が縄でくくられて円柱の形で置かれている。
「それでは、このオーク材を二つください」
「ありがとうございます。ところで、お客様は鍋をお持ちですか?」
そう聞かれて、ヒメジはあると答えようとした。しかし、持っているのは薬作り用で石けん作りの物ではない。そこで新しい鍋を購入することにした。
「無いです」
「そうでしょう。これはいかがですか。この鍋が二つあればスムースに石けんを作れますよ」
(オール クリエーションで作るから、鍋は一つで十分だけど、二つあっても問題ないから買っておこう)
「そうですね。それじゃあ二つください。他に石けん作りで必要なものはありますか?」
「こったらまだまだ必要ですけど、このぐらいあれば事足りるでしょう」
「それでは全部でいくらですか?」
「油脂が鉄貨五枚にオーク材も鉄貨五枚で、鍋が大鉄貨四枚ですから、全部で大鉄貨五枚です」
ヒメジは懐から巾着袋を取りだして店員に大鉄貨五枚を渡した。店員は代金を受け取るとヒメジに品物を油脂、オーク材、鍋の順に品物を渡していった。ヒメジは品物を受け取るとカバンに入れていった。全部カバンに入れると、ヒメジは
「ありがとう」
店員に言って、店の出口に向かって歩き始めた。店員は、
「ありがとうございまいた。これからも宜しくおねがいします」
背中を向けているヒメジに声をかけた。
ヒメジは宿屋で夕食を食べて、自分の部屋に入った。今から石けん作りをするつもりだ。部屋で石けん作りをするために水が必要である。夕食の後で宿屋の井戸で購入した鍋に半分ほど水を入れてアイテムボックスに入れていた。それに購入した材料を出して石けん作りの準備をした。
「まずは木灰作りからだ」
オーク材を鍋に詰めるだけ入れて、
(木灰になれ)
祈りながら、
「オール クリエーション」
唱えると、一瞬オーク材が光り鍋の中に灰が出来ていた。
「上手く出来たな。もう少し作っておこうか」
再び灰の入った鍋にオーク材を詰めるだけ入れてオール クリエーションで灰を作った。
「よし、木灰はこれだけあればいいだろう。次はこれに水を加えて上澄み液を使うのだったな」
ヒメジは木灰の入った鍋に井戸で汲んだ水を全部注ぎ込んだ。少し混ぜた後、しばらくそのままに置いておいた。
「一時間ほど経ったが、出来ているかな。・・・出来ている、出来ている、上澄み液が出来ている」
ヒメジは鍋の両手をつかむと空の鍋に上済み液を入れ始めた。下に沈んだ灰が入らないように注意深く入れたので、上澄み液だけを入れることが出来た。
「ナイス。さすがヒメジ。やれば出来る男」
自画自賛をしながら、次の作業として油脂を上澄み液の中に入れた。そして、
(石けんになれ)
祈りながら、
「オール クリエーション」
唱えると、一瞬鍋の中が光って、石けんが出来た。本当ならこれを一ヶ月ほど風通しのよいところに置いておくのだが、ヒメジのオール クリエーションはそれをすっ飛ばして完成した石けんを作り出していた。作者としては、本当に作品の中で一ヶ月置いておきたかったですが、そうなると石けんの出来上がるのが物語の中盤になり、石けんの出る幕がなくなるのでご都合主義で出来たことにしました。
「できた。完璧だ。これで、服や体を洗うことが出来るぞ。やった~」
ヒメジはその場でジャンプしながら喜んだ。早速、出来た石けんを使おう。ヒメジは鍋の中にある石けんの一部をダガーで切り取って、宿屋の井戸に向かった。そこで上半身の服を脱ぎ、石けんを体にこすりつけた。
「泡立ちは今ひとつだけど、汚れは落ちている。やっぱり石けんだ」
ヒメジは濡れたタオルで、体についた石けんをふきながら落としていった。
「気持ちよかった」
ヒメジは急に笑顔になると、
「やった~。できた~」
ヒメジは両手を挙げてその場をジャンプした。これで、汚れた体や服を洗うことが出来る。ヒメジの懸案事項が一つ解決したのだ。ヒメジはすっきりとした顔を空に向けた。その時、ヒメジを祝福するようにスーと流れ星を見ることが出来た。
いかがでしたでしょうか。主人公が生活で必要な物を購入したり作成したりして手に入れる様子を物語にしました。スルーされやすいテーマですが、一度書いてみたいと思っていました。のんびり楽しく読まれたら幸いです。次回は旅の続きです。楽しみにしてください。




