表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公女さまが殿下に婚約破棄された  作者: 杜野秋人
先輩が殿下に婚約破棄されたっす
9/9

なんのかんので幸せ………なんすかね?

 結局、公女さまに請われるままに男爵家の普段の生活の話とか使用人や従業員の紹介とか、領内の代官に引き合わせたりとか、色々やらされるハメになったっす。何故だか旦那さまにもお教えしてやれって言われて、それでホントに公女さまに常に連れ回されるようになったっす。

 そうこうしてるうちに、公女さまは旦那さまについて商売のイロハまで学ぶようになったっす。つうことはやっぱこれ、そういうこと(・・・・・・)っすよね。


「公女さま」

「なあに?というかアントニアと呼んでいいと言っているでしょう?」


 いや無理っす。畏れ多くて名前呼びとかホント無理っす。


「もう、構わないと言っているのに。わたくしたちは義姉妹(しまい)になるのだから」

「………やっぱ、ご主…タイチさまを狙ってる(・・・・)んすね」


 まあ薄々分かってたっす。たまにご主人が様子を見に領邸にやってくるたびに嬉しそうにして、いっつもお茶に誘ってらっしゃるっすもんね。

 それ見てるの何となく辛いんで、そういう時はそっと離れて終わるまで見ないようにしてるっすけど。


「ごめんなさいね」


 なんでか公女さまに謝られたっす。


「貴女が彼に想いを寄せているのは知っているわ」


 …………………へ?


「けれども、わたくしも彼のことを好ましいと思ってしまったのよ」


 呆然とする自分に向かって、手元のティーカップに目線を落として、申し訳なさそうに謝られたっす。

 いやいやていうか!その前に!なんて言ったっすか!?


「そんなに驚くことないわ。貴女を普段から見ていれば彼を想っていることくらい分かるもの」

「そそそそそんなに態度に出てました!?」


 そりゃあ小さな頃から歳も近くて一緒に育って、将来は彼の片腕として役に立てるよう励みなさいって教えられて来て、ずっと同じ時を過ごしてれば当然っつうか。

 でも態度に出さないようにずっと気を付けてたんすけど!?ご主人は商会の跡取りなんだから、絶対にどっかの貴族のご令嬢と政略結婚するもんだと思ってたし!

 それがまさかの公女さま、公爵家だったっつうのは魂消(たまげ)たっすけど、だからなおさら隠したまま墓場まで持って行こうとしてたのに!


「安心なさい、気付いたのは多分わたくしだけよ」

「えっ?他の人は………?」

「心配いらないわ。タイチさまはもちろん、使用人の皆も旦那さまも誰も気付いてないもの」

「そうですか、そりゃ良かっ………いやじゃなくってですね!?」


 じゃあなんで公女さま(アナタ)にバレてるんすか!?


「同じ殿方を慕う恋敵だもの、見てれば分かるわ。だからわたくしはね、貴女にもきちんと許可を取りたいの」

「いやいや許可だなんてそんな!?」

「あら、当然でしょう?ずっと傍にいた貴女からすれば、わたくしは突然横から現れて愛しい人を攫う悪女(・・)なのですから。恨まれても仕方ないわ」


 だから貴女にもきちんとお話して、認めてもらわなければいけないと思うの。

 公女さまはそう言って、真っ直ぐに見つめてきたっす。その目がとっても真摯で、強い意志を秘めていて。

 それ見て、敵わねえなあ、って思ったっす。それまで誰にも言わずに自分ひとりで抱えて、そう、ご主…タイチさま本人にさえ言ったことのないヘタレな自分なんかじゃ、到底太刀打ちできねえって気付いちゃったっす。


「恨むだなんて、とんでもねえっす」


 だから精一杯の笑顔で、公女さま…アントニアさまに告げたっす。


「アントニアさまなら、絶対にタイチさまを幸せにしてくれるって分かるっす」


 アントニアさまのお顔が、少しだけ不安げだったお顔が、次第に目を見開いていって頬が染まっていって。


「だから自分からもお願いしたいっす。タイチさまを、商会を、よろしくお願いするっす」


 そうして深々と頭を下げたっす。堪えきれずに涙が足元に落ちたっすけど、見られてないことを願うっす。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 それから半年ほどでアントニアさまはご主人を口説き落として婚約にこぎつけたっす。ご主人はどうにもむず痒そうに、照れ臭そうにしてたっすけど、その割に満更でもなさそうで。

 まああんなに綺麗で凛々しくて可愛らしい方から懸想されて、嬉しくない野郎なんていねえっすからね!ホント1回爆発しろっす!

 アントニアさまご本人だけでなく、旦那さまも乗り気だったし何より公爵閣下が大喜びで、この婚約を妬んで茶々入れようとしてくる貴族たちを片っ端から排除して回ったらしいっす。しまいには王家にまで認めさせて。………まあ王家には商会からも色々根回しして、いつの間にか“王室御用達”の免状までもらっちゃって、ヨロズヤ商会(うち)は我が国一番の大手商会になってたっすねえ。

 公爵家との縁組が認められたのって、多分それも後押しになったと思うっす。ていうかそもそも王家には横槍入れる権利もねえっすからね。



 それから約1年で、おふたりは盛大に婚姻式を挙げられたっす。自分も侍女として………じゃなかった義妹(いもうと)として、しっかり祝わせてもらったっすよ。


「これでやっと、わたくしたちも姉妹になれたわねディアーヌ!」

「はい、アントニアお義姉(ねえ)さま!」


 自分、結局正式にヨロズヤ男爵家の養子(・・)になったんすよ。形式上の制限付きの猶子(ゆうし)じゃなくって、実子に準ずる、後継者の権利も与えられる養子(ようし)にしてもらえたんす。

 だからご主…タイチさまとも正式に兄妹っす。まあそれでも血の繋がりのない義兄妹っすけどね。

 アントニアさまとの仲はすこぶる良好っす。タイチさまとは今までどおり、接し方を変えないでいられる自信はあるし、何よりお義姉さまの旦那様になるんだし、自分も負けないように先に進まないとダメっすね!


「さ、次は貴女よディアーヌ」

「へっ?何がっすか?」

「もう!何がではないでしょう?貴女だって佳い殿方を見つけて幸せにならなければね!」

「うええええ!?じ、自分はいいっすよぉ〜!」

「ダメよ!わたくしたちは皆で(・・)一緒に(・・・)幸せに(・・・)なる(・・)のよ!」

「ひえええええ!?」

「それで早速だけれど、公爵家(うち)の護衛騎士の彼とかどうかしら?貴女最近よく話してるでしょう?」


 あああのそれは剣技とか魔獣との戦闘技術とかの話をしてるだけで………!


「確認したら彼も満更でもなさそうなのよね」

「いや展開が早すぎっす!」


 そんな彼がアントニアさまの輿入れと同時に公爵家から商会へ移ってきて、それからずっと自分に甘ぁい目を向けてくるようになっちゃったんすよ!なんなんすかこれ!むず痒いんすけど!誰かどうにかして欲しいっす〜!







義妹兼使用人兼冒険者兼公女さまのお友達、そんなディアーヌちゃんに幸あれ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 男爵家完全勝利! いやパーティに出てた高位貴族はそんな実働部隊的なすぐに動いて救出なんて出来ないだろうし 低位貴族だと反感怖かったり情報なくてどっちに手助けすればいいかとか塩梅も分からない…
[一言] そこで、側室的な義姉妹は許さないのがしたたかやなw
[良い点] ディアーヌちゃんと公女様、共に親友として分かり合えて良かったです(*≧∀≦) ほろ苦いけど、次の恋頑張れ(p`・Д・´q) [気になる点] 騎士さんのアピールに、ディアーヌちゃんはどうなる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ