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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十六章 魔王、魔王、長男、
192/200

143話 『魔王に見つかったらどうなるかの一例』

「僕は今、泥の体では出来なかった遊びを楽しんでいるよ」


 泥人形に乗っ取られている桜が、言葉通り楽しそうな表情で弟妹へ語る。

 彼女はタピオカミルクキャラメルコーヒーを飲み終わり、次はタピオカトロピカルミックススムージーを飲んでいる。テーブルの上にはチーズケーキとショートケーキとブルーベリータルトとシュークリームとアップルパイ。

 泥人形の頃には出来なかった、美味しい物を食べたり飲むという行動に興味深々であるらしい。

 既に満腹に近いが、構わず詰め込んでいる。

 桜本人が気付いたら、さぞ怒り狂うであろう。


「食べるコトは勿論。笑うコト。眠るコト。些細な全てが面白い。泥のように簡単にこねくり回して変形したりは出来ないけど……でも、そんな不便ささえも楽しい」


 そう言ってもりもりと食べる桜に対し、テルミと莉羅は相変わらず警戒の目を向けている。

 ただし二人の手にはオレンジジュースのグラスが一つずつ。桜が弟妹の分も注文したのだ。

 スイーツがたくさんあるのも三人分のつもり。結局、桜が全部一人で食べているのであるが。


「どうしたんだい。一緒に食べようよ。みんなで食べると仲良くなれる――それはこの地球(ほし)の人達も同じだよね?」


 泥人形は、生まれ故郷で学生達とランチを取っていた時の事を思い出し、小さく微笑んだ。

 テルミと莉羅は、言われるがまま仕方なくジュースだけを飲む。兄妹同時にストローに口を付け、同時に吸い、同時にゴクリと飲み込み、同時にストローから口を離した。


「あはは、さすが兄妹だね。仕草がそっくりだ」


 と笑われ莉羅は何だか少し気恥ずかしなり、「……むー」と唸りもう一度ストローに口を付け、ジュースを勢いよく飲んだ。

 テルミは動じず、ただ『今の桜』の言動を注視する。今は見るしか出来ない。


「もっと、生物にしか出来ない事を色々やってみたいんだ」


 桜はお喋りを続けている。


「子供も作ってみたいな。当然出産も。せっかく女性(さくら)の身体なんだから」


 その突然の発言に、テルミと莉羅は大いに慌てた。


「やめてください! 姉さんはまだ十代……いやそもそも本人の意思と無関係に、勝手に姉さんの身体でそのような……」

「じゃあ、(ぼく)とテルミで一緒に子供を作ろうか」

「ぶふぉー」


 莉羅がジュースを盛大に噴き出し、咳き込んだ。

 テルミはハンカチを取り出し、妹の上着を拭く。

 兄が拭きやすいように服を摘まみ上げながら、莉羅は無表情で桜をじっと睨んだ。


「悪質な、冗談は……えぬじぃ……!」

「冗談? でもこの星の生物も、血の繋がった姉弟同士で子を成すコトは出来るはずだよね?」

「出来るけど……問題は、生物学的な、トコじゃ……ない……もん」


 前のめりになって否定する莉羅の頭を、桜は小さく笑いながら撫でた。

 泥人形も桜と共に十八年間この星の常識を学んでいたのだ。問題点が倫理にあるなど勿論分かっている。ただ莉羅をからかっているだけ。

 莉羅もそのからかいに気付き、そして「無視する」という宣言を早くも破ってしまった事にも気付き、不貞腐れてまたストローに口を付けた。


「さっきも言ったでしょ? 僕は桜の望みを叶えてあげたいって」


 桜は莉羅の髪から手を離し、ふと真面目な顔になる。


「テルミ。桜はキミと子供を作りたがっていた。姉弟なのに。いや桜くらい優秀な女性だからこそ、同じ遺伝子に惹かれているのかもしれないね。とにかく桜はキミに何度も何度も要求していたはずだけど? ふふっ、性行為の寸前までやったコトもある」

「ぶぶふぉー」


 莉羅の口から、再びオレンジジュースが飛び出した。




 ◇




 一方その頃。

 インモラルな心中をぶっちゃけられてしまった、本物の桜は、


「ぴゅにゃろーぴゅにゃろー(半泣き声)……! こ、この心の保湿クリーム(ガーディアン)である安山岩・タコ世紀末様が……貴様をと、とおさな……」

「天破活殺!」

「もうヤダぴゅにゃろー!」


 相変わらず、邪魔者ならぬ邪魔タコ達を蹴散らしていた。

 タコロボット達はもう桜にはどうしても勝てない事を悟り、及び腰になっている。

 だが邪魔せずにはいられない。それがガーディアンの辛い宿命なのである。


「タコには飽きたわ……早く出口に着きなさいよ。もう! もう! あほんだらボケェ!」


 自分の深層心理に悪態を付きながら、先へ進む桜であった。




 ◇




「テルミはどうだい。桜と子供を作りたいだろ?」

「ぼっ、」


 変な質問に、つい噛んでしまったテルミ。

 大きく息を吸い、冷静さを取り戻す。


「僕はそんなこと考えていません。姉弟なんですよ」

「へえ。そうなんだ」


 首をかしげながら、桜はチーズケーキを平らげた。

 フォークを置き、軽く背伸びをし「うーん」と気持ち良さそうに唸る。大きな胸が服に圧迫され、窮屈そうに布が伸びる。


「桜には『望み』が多かった。でもそれは夢とまではいかないものばかり。つまり長期の具体的将来像では無く、漠然とした刹那的な望み」


 突然真剣な目になり、『桜』が『桜』の事を語り始めた。

 テルミと莉羅は黙って聞く。


「勉強で一番になりたい。スポーツで一番になりたい。格闘技で一番になりたい。乗馬で一番になりたい――同じ望みを長期的な目標、つまり夢として掲げる人もいるけどね。でも桜は違う。単にテストや競技をやっているその間(・・・)だけ他人に負けたくないと思うだけさ。他の望みは……そうだね、人気者になりたい。取り巻きを引き連れて歩きたい。弟とセックスしたい。そして――これが一番、漠然としている望みなんだけど……」


 一寸溜め、勿体ぶって言う。



「ヒーローになりたい」



 次の瞬間、「きゃあああ」という悲鳴。

 テルミが声の方へ振り向くと、人だかりの中に男が倒れている。


「た、大変です。病人でしょうか……」

「いやああああ!」

「えっ?」


 更に、別方向からも悲鳴が上がった。

 やはり人だかり。そして先程とは別の男が倒れている。


 また悲鳴。

 三人目の倒れる男。

 悲鳴。次は女だ。

 そしてまた男。最後は悲鳴も上がらなかった。


 計五人が突然倒れたのである。

 彼らは皆、サングラスと大きめの風邪マスクを顔に装着している。


 何が起こっているのか分からず、誰を最初に助ければ良いかも判断出来ず、テルミはとにかく最も近い、二番目に倒れた男の元へと向かおうとする。

 しかし足を踏み出した途端に野次馬内から興味深い声が上がり、テルミはついそちらへ顔を向けた。


「死んでる……けど……こ、こいつは指名手配中の暴力団員……脱獄犯の山田じゃあないか!」


 その台詞に、野次馬達が一歩後ずさる。

 死体が脱獄犯であると見抜いたのは、居合わせた刑事二人組、その歳を取っている方だ。

 最初に倒れた男を介抱するためサングラスとマスクを取った所で、指名手配犯であると気付いた。

 刑事は警察手帳を周囲に見せ、野次馬達に「スマホで撮るな!」と威嚇する。


 若い方の刑事が、「もしかして……いや馬鹿な……」と呟きながら、他の倒れた男女の顔をどんどん確認していった。残り四人も全員既に事切れている。


「……先輩! こいつら全員同じ組の奴らですよ。組の代紋入りバッジ付けてる! やっぱりここで落ち合おうとしてたんですよ!」


 やっぱり、という台詞。

 この刑事達はタレコミの情報を元に、ここで張り込んでいたのだ。


「ぬぁにぃー!? でもそれがどうして一緒に死んだんだよ」

「分かりません! あっ分かった! 俺分かっちゃいました! 自殺じゃないっすか自殺ぅ。逃亡生活に疲れた者達が集まって、毒を飲んだ」

「あっそうか……うん、いやあ俺も今そう言おうと思ってたんだ。俺の方が先に推理してたんだけどなー」

「いやでも自殺なら、こんな中途半端に離れた場所で個々に毒を飲むのはおかしいか。一つの部屋に集まって練炭を焚いても良い訳ですし。となると、暴力団の暗殺者がどこかに隠れていて、狙撃した……」

「お、おおおそうだよなあ。これはね、これは暗殺かもー……な。うん。俺も最初にそう思ってたんだけど、お前が気付くかどうか試してたんだよなー」

「おっとでもでもやっぱり待ってくださいよ。みんな外傷がありません。やはり服毒自殺……」

「うーん。うん。だよねだよね。俺が思ってたのと同じこと言うんだもんなーお前。成長したな」


 そこでようやく、近くの交番から常駐警察官達がやって来た。

 野次馬達に死体へ触れないよう注意し、現場保存を開始する。

 まもなくパトカーや、一応救急車もやってくるだろう。

 


「桜はヒーローだから」



 桜が、ポツリと呟いた。


「重大犯罪者達が集まっているトコを発見したら、手を出さずにはいられないはずさ」

「……あなたが殺したのですか?」

「うん。楽に死ねるよう、心臓を止めてあげたんだ。感知能力(テレパシー)で、彼らが凶悪犯だってことはすぐに分かったからね。この感知能力、桜はまだ取得していなかったけど」


 桜は横目で、死体と警察関係者達を眺める。


「殺人。強盗。麻薬売買。売春あっせん。その他いっぱい。色んな悪さをしてる人達さ。今日もこれから悪いコトしに行くつもりだったみたい。一人二人なら見逃してもいいけど、五人も集まると……桜なら絶対に見逃さない」


 戸惑っているテルミに目線を向け、桜は小さく可愛らしい動作で首を傾ける。


「でしょ?」


 桜は涼しい顔で、ブルーベリータルトを食べ始めた。


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