142話 『魔王に見つかるな! 姉大脱出ゲーム』
「よし、右!」
そう叫んで桜はシンデレラ城上空の穴に入り、すぐさま右へ歩を進めた。
何故叫ぶのかと言うと、ディ●ニーリゾートがあっても尚一人きりであるこの状況が、ちょっと寂しいからである。
穴の中は意外と明るかった。と言うか、普通に電灯が点いていた。しかも見慣れた光景だった。
何故ならば。
「ここ、うちの道場じゃないの」
真奥家に隣接する道場と、同じ間取り、同じ板張り床、同じ天井。つまりは同じ建造物なのであった。
「なんで夢の国の上に自宅があんのよ。フロリダと日本の長いトンネルを抜けると実家であった。みたいな。全然長くなかったけど」
後ろを振り向くと、今通って来た大穴からは相変わらずエレクトリカルなパレードソングが流れている、無人の遊園地だ。
そして前を向くと、いつもの道場。ただし無人ではなかった。
「ゲーヒョ、ゲヒョゲヒョォー(笑い声)! よくぞ来たゲヒョ。悪の組織ピョッカー大幹部である、このメカ・タコゾンビ様が守るゲートに! ゲヒョ!」
ゲヒョゲヒョうるさい変な生物がいる。
生物なのかも定かでは無い。というか特撮の怪人ぬいぐるみにも見える。
頭がタコで、身体が人間。全身が金属で出来ており、所々わざとらしく塗装が剥げてゾンビっぽい柄になっている。
「何あんた誰? うちにこんなペットいたっけ」
「ペットじゃないゲヒョ。メカ・タコゾンビ様」
「いやだからそれ何?」
桜は最初こそ驚いたが、よく見ると機械っぽい身体なので「ネバネバやヌメヌメはなさそうね」と考え、思い切って近づき触れてみた。
カチカチでひんやり。本当に機械だ。
「でもあんた、どっかで見た覚えがあるような……ないような……? 忘れちゃった」
「このメカ・タコゾンビ様は、貴様の深層心理が生み出した心の消防士さんでゲヒョ!」
「ええー……あたしの深層心理どうしちゃったのよ」
こんな魚介類だか半魚人だか分からない、気持ち悪いロボットを作り出してしまうとは。
桜は生まれて初めて自分のセンスを疑った。
「心配すんなゲヒョ。多かれ少なかれ、他の皆も心の中で生み出すキャラクターはどうせこんなカンジでゲヒョ」
「そうかなあ……? そうよねえ……多分」
桜はとりあえず無理矢理納得した。
「それにこのメカ・タコゾンビ様は、貴様がゼロから作り上げたキャラではないんだゲヒョ。桜がどっかで見かけた、『基本的にどうでもいいし、忘れちゃったけど、何となく心の奥底で印象に残ってるもの』が元になっているんでゲヒョ~!」
「ああそうなんだ」
桜は、造詣センスの問題じゃなかった事に安堵する。
「でもどうりで全然思い出せないワケよね。莉羅ちゃんに付き合って観た特撮番組の敵キャラとかかしら?」
「ゲーヒョヒョヒョヒョヒョ!」
「あははははー」
と、和やかに笑いながらも、
「でもあんたが『どうでもいいし忘れちゃったもの』って説明するのは、あんた自身のアイデンティティを否定してるわよね……」
そんな悲しい考えを抱きつつ、桜は改めてメカ・タコゾンビ様に尋ねる。
「メガたこ助さあ」
「メカ・タコゾンビ!」
「メカゾン。あんたはあたしの深層心理内で作られたキャラなのよね。ってことは、あたしの味方よね?」
「ゲヒョ……ゲヒョッヒョ……ゲーッヒョッヒョッヒョ!」
「いや笑ってないでさ」
するとメカ・タコゾンビ様は「ゲッヒョ!」と叫んで、桜の顔目掛けてキレの良いパンチを放った。
それを桜はすんなりと避け、「ちょっと何すんのよタコ」と口を尖らせる。
「確かに生み出したのは貴様ゲヒョ。でもこのメカ・タコゾンビ様は『今現在桜の肉体を支配している者』の味方なのゲヒョ!」
メカ・タコゾンビ様の非情な告白。
それに対し桜は、
「あっそ。そうなんだあ。ふーん。」
と冷ややかな目で呟き、あくびをした。
「あんまり驚かないゲヒョね? 裏切られてショックじゃないゲヒョ?」
「ついさっき会ったばかりのゲテモノ怪人に、裏切られてショックも何も無いわよ」
「なるほど然りゲヒョ」
桜の暴言まじりの回答に、メカ・タコゾンビ様は特に気を悪くなどはしなかった。
機械仕掛けのタコ頭を左右にリズムよく振りながら、首から下の人型部分で格闘の構えを取る。
「このメカ・タコゾンビ様は、『今の桜』の意識が行き渡らない部分を守護しているのでゲヒョ」
「なるほど。『今の桜』って呼び方はムカつくけど……だから『大魔王の力』に見つからないように進んだ穴の先に、タコ野郎がいたってワケなのね」
「ワケなのでゲヒョ」
そして二人は対峙した。
戦う理由は一つだ。わざわざ言うまでも無いかもしれない。
だがメカ・タコゾンビ様は親切にも、その理由を述べる。
「ここは通さんゲヒョ! 最強の怪人、メカ・タコゾンビ様がいる限」
「うっさい」
「ゲヒョー!」
口上を言い終わる前に、桜のラリアットが炸裂した。
メカ・タコゾンビ様のタコ頭は体から分離し、メカ部品や火花をまき散らしながら道場の天井に突き刺さる。
床に残った身体部分は、バチバチと音を立て煙を上げている。
桜は右手をグッと握りしめ、
「爆砕!」
とお茶目に叫んだ。
するとメカ・タコゾンビ様の身体は木っ端微塵に砕け散り、爆発。
「み、見事だゲヒョ……ウギヒョッ」
メカ・タコゾンビ様の頭パーツが天井から落ち、お次は床に突き刺さった。
「首だけでも生きてるんだ。タフねあんた。さすがメカ」
「ゲヒョヒョヒョ……良い気になるのも今の内だけゲヒョよ……このメカ・タコゾンビ様を倒しても、第二第三のガーディアンが貴様を必ずやひっ捕らえるゲヒョ……」
「へえ。あんたみたいなのが、まだまだいるってコト? あたしの潜在意識ながら超メンドクサイわね」
◇
メカ・タコゾンビ様を退け、先を急ぐ桜。
すると彼女の前に、さっそく第二のガーディアンが現れた。
「レーホョホョホョ(笑い声)! 心のお巡りさんであるこのメタル・タコタイガー様が、貴様を絶対に通さんでレホョ!」
新たな守護者。
それは頭がタコで、身体が人間。金属製。
「さっきと同じじゃないの!」
「違うレホョ。ほら虎柄シマシマでレホョ」
桜の指摘に、メタル・タコタイガー様は平然として答える。
メカ・タコゾンビ様と違い、タイガーという名に相応しく全身が黄色と黒の虎柄であった。
「確かに柄は違うけど……あんた、さっきのタコの親戚か何か?」
「違うレホョ。ただの色違いレホョ」
「それ自分で言っちゃうんだ……」
と、戦い前の会話はこれまでにして。
メタル・タコタイガー様は格闘の構えを取った。
「ここは通さんレホョ! このメタル・タコタ」
「滅殺!」
「レーホョー!」
メタル・タコタイガー様は爆発四散した。
「み、見事だレホョ……だが、このメタル・タコタイガー様を倒しても第三第四の」
「ああもうそういうの良いから。じゃあね」
二度目なので戦闘後の会話をする気も無い桜は、さっさと次の場所へと移動した。
◇
そして、
「キューフォヌッフォヌッ。ヌファッ(笑い声)!」
すぐさま第三の敵が現れた。
やはりメカ・タコゾンビ様の色違い。
今回は金属では無く、半透明のガラスに近い素材で出来ている。
「キューフォヌッフォヌッ。よく来たなファヌッフィ。心の弁護士さんが守るこの地へと!」
「何その笑い方。相当無理してない?」
「してないキューファニャッファナッ」
「無理してるでしょ」
無理しているのだ。
「してないキュファ! とにかく聞けフォヌ。俺様の名は、クリスタル・タコレインボ……」
「天誅!」
「ぐへええあ……あっ、フォヌウウウ!」
「さらば、クリスタルたこなんとか。最後までイマイチキャラに徹し切れなかったヤツだったわね」
◇
「グッチェグッテェグテェ(笑い声)! 心の雨戸であるこのシルバー・タコサクリファイス様が」
「討伐!」
「グッチェー!」
「ジョーヂジョヂジョヂ(笑い声)! 心のカビキラーであるこのプラチナ・タコ曼珠沙華様が」
「殲滅!」
「ジョーヂー!」
「マルッタマルッタ(笑い声)! 心のマジックテープであるこのプラスチック・タココンサルタント様が、貴様を捕縛するでマルッタ!」
「なんで全員タコのロボットなの!? あたしの心理どうなってんのよー!」
桜はプラスチック・タココンサルタント様を爆破させつつ、己の精神を疑うのであった。




