人知れず危機を迎えていた男の存在を彼女らは知らない
ツッパリのお礼参りは返り討ちに終わった。
ガンつけの末、番長はツッパリに逆戻りしてプライドを粉砕されて散ったのである。
アルセの笑顔最強説浮上。
話を聞いて様子を見に来た町人から王国を救ったアルセイデスとして賞賛されていた。
本人は意味が分からず首を捻っていたけど。
なんか、町の中央にある噴水の銅像がアルセ像に変わるらしい。
町長が重役さんたちと話しているのが聞こえた。
アルセが英雄になっとる。
皆揃ってギルドに戻ると、ここでも賞賛の嵐で出迎えられた。
いきなり厳ついおっさんにアルセが拉致られると、そのまま人の波を伝うようにして胴上げされるアルセ。
本人楽しんでるようできゃっきゃきゃっきゃと笑みを浮かべている。
ちょ、泣いてる人もいるんですけど。
というか、バルス、いつの間に合流した?
気が付いたらユイアの後ろに人知れず合流してるし。
「皆さん、さすがです! 皆さんならやってくれると信じてました!!」
コリータさんがウザったい件。
手揉みしながら近づいてくる。ちょっと怖い。
「凄いですね。ツッパリ倒したからですか? アルセイデスの技能に発光とか除草とか二つ名に微笑みの草姫とか追加されてますよ!」
なんか、ツッパリを笑顔で撃退したせいで二つ名が付いたらしい。何その微笑みの草姫。って。
アルセは姫だったのか?
そのアルセ姫は今髭面のおっさんにお髭じょりじょりされてます。
痛いのよ髭がとか言ってほしい。喋らないけど。
あ、長耳のお姉さんに奪われた。頬ずりされるアルセ。困った顔ながらさっきよりは嬉しそうです。
やっぱりちょっと痛かったらしい。
そしてまたひったくられ若いお兄さんとお姉さんのカップルからおやつを貰っている。
「アルセはしばらく安全そうね。リエラ、彼女のこと見といてね。私は今回の報酬受け取ってくる」
「わ、わかりました。って、クーフさんとバズ・オークさんはどこか行くんですか?」
「やり残した小用があるのでな。悪いが少し出てくる。武器屋で解体もあるしそのまま宿に戻る予定だ」
「分かりました。アルセは私達で見てますね」
と、多分僕もアルセの保護に入っているのだろう。でもここで問題は起こるまい。リエラの他にもユイアやバルスもいるし。
というわけで、僕はクーフ達に付いて行くことにした。
理由? いや、わかるでしょ。彼らの行き先は彼の捜索ですよ。
「あの、私も付いて行きます」
と、エンリカが仲間に加わった。
そしてギルドを出てからの会話なのでバルスたちはエンリカが居なくなったことに気付いていません。あいつらアルセに夢中だよ。
僕はクーフ達の背後を付いて行く。
案の定町を出て森へと入って行く面々。
エンリカはどこに行くのか分かっておらずちょっと不安げだ。
バズ・オークと一緒に居たいがために向う場所を聞かずに付いてきたようだ。
今更ながらどこに向うか聞いていた。
そして、忘れられた男のことを教えられるエンリカ。
ちょっとカインに同情的な視線になっていたのは仕方ないと思う。
クーフがいるし足手まといがいないせいか、物凄くスムーズに目的地に付いた。
これまでに闘ったのはヘルピングペッカーが一匹とウッドウルフが六匹、葉っぱ人間三体だ。
やっぱりこの近辺は葉っぱ人間が跳梁跋扈しているらしい。
他にも数体居たんだけどクーフの一撃で吹き飛ぶ葉っぱ人間見てにょきにょきっと慌てるように逃げていた。
案内役はバズ・オーク。
鼻を引く付かせてカインを探している。
エンリカも周囲を警戒しつつも近づく魔物に矢の一撃を見舞ったりしていた。
あ、そういえば冒険者に一度出会ったよ。
バルスみたいに突っかかって来そうになったけどエンリカを見て剣を収めていた。
やっぱりエルフは普通に亜人として認識されているらしい。
互いに挨拶を終えて別れた。
別れ際にオークとエルフが一緒に居ることに付いて何か噂していたけど、僕は聞かなかったことにする。
下卑た話題だ。エンリカが顔を赤らめていたけどバズ・オークから距離を取ろうとはしなかった。というか、むしろ期待するかのように近づいていた。チクショウエロ豚め!
「ブヒ」
「そろそろです。葉っぱ人間が多数いるらしいので気を付けてください」
「葉っぱ人間が多数? 奴ラの集落か?」
クーフが用心しながらそぉっと叢から覗きこむ。
僕もついでに覗き込む。
……あ。これ映画で見たことある。
太い丸太の下に無数の枝が敷き詰められ、その周辺を踊るようににょきにょき言っている葉っぱ人間ども。そして太い丸太に縄で巻かれたカイン。どうやら絶賛気絶中のようです。
葉っぱ人間の一人が松明を持って踊りながらカインの前へとやってきた。
うん、これ確実にカイン焼く気だ。
ソレを察したクーフ達が各々突撃のために武器を構える。
今回、クーフも拙速を取ったようで柩ではなく巨剣を柩から取り出していた。
さぁ、カイン救出作戦開始だ!
 




