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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六話 その結婚式にでた食事の素材を僕らは知る気はない
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その鬼女の覚醒を、僕らは知りたくなかった

「ふぬぅッ」


 クーフの大剣とロウ・タリアンの不折の白ネギがかち合う。

 ネギ細すぎるのに、全く折れる気配がない。

 アレが噂の破壊不能オブジェクトですか?


 ネギの剣と巨大な巨人殺しが剣声を響かせ鳴り響く。

 無数に打ち合う男と女。

 あらいい男。そんな顔をするロウ・タリアン。眼が雌のそれになっているのが恐ろしい。

 もしもクーフが負けたりしたら、貞操まで危機だぞクーフさん!


「ぬあぁっ!!」


 気合いの一撃。

 クーフの攻撃を受け流したロウ・タリアンの胸を空く一撃。

 大剣を振るったせいで隙を作ったクーフはこれを避けられない。


「ドルァッ!」


 だが、クーフは動けずとももう一人の男は対応できた。

 横合いからネギを蹴り飛ばす辰真。

 二人して視線を交錯。

 さっさとケリを付けるぞ。そんなアイコンタクトがかわされた。


 そんな二人の闘いの傍では、ネッテの氷魔法がタマネギン達を凍らせる。

 どうやら玉葱同様、低温下に置かれると飛沫が飛ぶのを防げるようだ。

 葛餅に切り裂かれたタマネギンたちの様子を見て、リエラもゴールドダガーで一体ずつ葬って行く。


「プリカさん、精霊魔法を使って、今のあなたの弓だと攻撃を当てるのは難しいわ」


「やっぱりそう思います? じゃあ、シルフズトーネード行きますよぉ」


 やはり彼女は幸せそうだ。

 こんな時でも能天気な声で弓を放っている。


「ハッスルダンス踊るよ! 皆元気になってぇ!」


 アニアもクーフの参戦で攻撃補助から完全な補助行動に切り替えたようだ。

 皆の動きを良くするために踊り出した。

 ソレを見たアルセもその場で踊り出した。

 こらロリコーン紳士、アルセ見てほっこりするな。

 アルセでほっこりしていいのは僕だ。お前じゃないっ。


 そんなロリコーン紳士は威圧の魔眼でタマネギンたちを牽制する。

 動きが止まったタマネギンは無視して、襲いかかって来るタマネギンを順々に穿っていくロリコーン紳士、倒したらいちいちアルセの顔窺うのやめて下さる?


 アルセはお前なんかを褒めたりはしませんよ。

 あ、こら、お嬢さん飴をあげよう。じゃないっ。止めろ変態。

 アルセも受け取っちゃダメぇ。こいつ調子に乗るからぁっ。


 なぜか二つ要求したアルセ。ロリコーン紳士は言われるままに二つの飴を渡していた。

 そしてアルセはその一つを僕に渡してくる。

 え? 僕にくれるの? いや、この得体のしれない飴を?

 戸惑いながら食べてみる。

 うん、普通に飴です。イチゴ味の美味しい飴であります。

 理不尽だ。どっから調達したんですかロリコーン紳士さん。


「ドルァ!」


 今や二人がかりで闘うクーフと辰真は完全に圧倒しているといっても良かった。

 だが、敵もさるもの、二人を相手にしても体勢が崩れることはない。

 確かに、このまま戦えたならクーフたちに軍配は上がる。

 でも、どちらかが敗北してしまえば、盤面は一気にロウ・タリアンに傾くだろう。


 未だに気を抜けない闘いは次第激しさを増して行く。

 そんな戦場に集まろうとするタマネギン。

 彼らの邪魔にならないよう、リエラとネッテが奮戦する。


 再び悪魔の男爵芋を投げるロウ・タリアン。

 剣の平で叩き潰すクーフ。

 地面に埋まったジャガイモが急速に成長し花が咲く。


 怖。これが体内に入った状態で芽吹いたらどうなってたんだろう。

 改めてクリア・オールの魔法に助けられたんだと気付かされる。

 でも、既に魔銃が壊れている以上魔法弾が使えない。


 あの芋の攻撃を後一撃でも受けてしまえば僕らの方から死者が出かねない。

 ごくりと生唾共々飴を飲み込んだ僕は、唐突に感じた気配に全身を震わせた。

 大気が悲鳴を上げる。

 まるで化け物の産声に慌てて逃げ出す鳥のように、周囲に満ちていた真剣な空気が一気に押し潰されていく。


 粘つくような殺意。

 例えようもない怒りが渦巻きその女の周囲から空気を浸食している。

 そいつに視線を向けた僕はおもわず「ひっ」と尻餅をついてしまった。

 化け物、いや、鬼女がいる。鬼子母神も裸足で逃げ出しそうな嫉妬に狂った女がいる。


 エンリカ・エル・ぱにゃぱ。

 今、目の前でロウ・タリアンにより最愛の人の唇を奪われ、嫉妬に狂った女が覚醒した。

 口からは絶えず寝取られたという単語が漏れているが、その危機迫る顔はリカードさんを彷彿とさせる。

 親子だ。それを納得させる恐ろしさがあった。


 その化け物が一歩、歩きだす。

 彼女の周りにいた精霊たちが恐れおののき逃げ出すように、彼女の足に踏みしめられた草がしおれる。

 また一歩。纏わりついた空気が僕には暗黒に染まって見えた。


 手にした弓を投げ捨て、邪魔な矢筒を取り去り、さらに一歩、また一歩と歩きだす。

 それに気付いたネッテとプリカが声を掛けようと「エン……」と声を押し籠めた。

 二人ともあまりの恐ろしさで尻餅を付いている。

 プリカの幸福病すら吹き飛ばして彼女を怯えた顔にさせるとか、今のエンリカさんはおそらく魔王すら拳一つで殺しかねない恐ろしさがある。


 エンリカに気付いたタマネギン達が、慌てたように逃げ出した。

 急に撤退を始めたタマネギンに気付き、リエラがどうしたのかと振り返る。

 エンリカに気付いた彼女はエンリカから逃げるように一歩、二歩と後退り、尻から倒れる。

 葛餅もリエラの頭の上でガチガチに固まっていた。


 アニアも思わず踊りを止めていた。

 のたうち回るネフティアの横を、倒れたカインの傍を一歩、また一歩と歩んでいくエンリカ。

 未だに闘う二人の男と女のもとへ、嫉妬に狂いし鬼女が参戦しようとしていた。

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