その植物の恩恵を、彼らは知らなかった
「ウッドボアです、気を付けて!」
木でできた猪みたいのが突撃して来ていた。
一直線に向う先にいたのはエンリカ。
弓を引いて一気に矢を飛ばす。
眉間に突き立つも、気にせず突進してくるウッドボア。
即座にエンリカを掻っ攫うようにバズ・オークが退避する。
木に激突して破砕するウッドボア。
プルプルと頭を振るとくるりと身体を入れ替え、次にリエラに向って走り出す。
驚きながらもアルセソードを装備した葛餅を構えるリエラ。
「いいかリエラ、自分の避けられるギリギリまで敵を引きつけろ。逃げる時に一撃加えるんだ」
「はいっ」
カインの声に返答するリエラ、迫り来るウッドボアをしっかりと見定め、飛んだ。
右に躱すと共に斬りつける一閃。
空を切るものの、そこは葛餅がフォローしてくれる。
「ちょっと早かった!?」
「最初ならそんなもんだ。当ってダメージ喰らうよりはいい。それより体勢を……マジィッ!?」
リエラが横っ跳びに逃れて斬りつけた瞬間、ウッドボアはくんっと折れ曲がるようにリエラを追って走り出す。
接触直前、ウッドボアの頭上から叩き潰す柩の一撃。
地面に潰されたウッドボアだが、クーフの一撃でも仕留めきれなかった。
よろめきながらも起き上がり、興奮しながらリエラにまだ向おうとしてくる。
そこへ、ギュイイイイイイイイイイイイイイイイ。と響き渡る伐採器。
無慈悲な工具がウッドボアの体躯を水平に切り裂いて行く。
ネフティアの一撃で、ようやくウッドボアを撃退できた。
タフだ。物凄いタフな魔物だった。
しかも木で出来ているので食料にすらなりません。
木材加工に使えるくらいか?
とりあえずクーフが柩に詰め込んでいたんだけど……彼は忘れていた。
柩は既に許容量オーバーだってことに。
入り切らないようで押しだされて来る。
仕方ないので僕がポシェットにしまっておいた。
アルセを使ってしまっておいたのでアルセがポシェット使いだと勘違いされてるけど、まぁ今さらだよね。
「ちょっと詰め過ぎなんじゃないクーフ?」
「むぅ。やはり皆の食糧やらでもう入らなくなっていたか。こうやってみると柩もあまり入らんな」
十分過ぎると思います。
「そういやアメミルドだっけか、あいつらの柩もそん中入ってんだよな?」
「うむ。スマッシュクラッシャーの遺体もまだかなり解体しきれていナイ」
「そりゃ一杯になるだろ。もう一つの柩柄使わねぇの?」
「持てる奴がいるなら使うのだが……」
いませんね、確実に。
「というか……凄いですねぇ皆さん」
なぜかついて来たプリカさんが今の戦闘を見た感想を漏らす。
「ウッドボアなんてベテランの弓兵でも年に一匹狩れればいい方ですよ。罠を駆使して」
タフな上に矢が効きづらいのでエルフ達にはかなり嫌われる魔物のようだ。
カインたちなら問題無く倒せるけど、このパーティーも結構上位組に食い込む実力だしね、驚くのも無理はないと思う。
「アニア、妖精郷はまだなの?」
「もうちょいもうちょい。あ、そっちは右側ね」
今、僕らはアニアに扇動されるままに妖精郷を目指していた。
一応、エンリカやプリカが知ってるらしいけど、餅は餅屋ということでアニアに道案内を頼んだのだ。
「でもプリカ、良かったの?」
「んー?」
「御家族に何も言わずに来ちゃったでしょ? 冒険もまだダメなんじゃないの?」
「そうなんだけどー。ほら、エンリカがいるし、この人たちが居れば大丈夫かなぁって」
僕はそんなプリカたちに、アルセに魔物図鑑を持たせてとある場所を指し示す。
「どうしたのアルセちゃん? あ、これ、私?」
「プリカのステータスね。何コレ……」
「ちょっとエンリカ見ないでよぉ。恥ずかしい」
「オルァ?」
辰真が何してんだ? とばかりに寄って来る。
いや、お前来ても意味ないからさ。
「命中率阻害・小!? どういうこと?」
エンリカが先に気付いた。
エルフにとって命中率の阻害は致命的だ。
「ええー、なんでそんなスキルついてるのぉ? 私が弓上手くならないのってそれのせい?」
僕はアルセの指を動かして別のスキルを指し示す。
大食漢、並列思考、幸福患者。
「オルァ……」
辰真も呆れていた。その言葉を聞いたエンリカが理解したらしい。
「ねぇプリカ、もしかしてだけど、弓引く時何思って引いてる?」
「ええー? えーっと、今日の食事何しようかなとか? オリーのシチュー美味しいんだよねーとか?」
「……あなたの弓が上手くならない理由、わかった気がするわ……」
残念なエルフ。それがプリカでした。
エンリカも結構残念思考だけどね。
「お、おい、エンリカ、アレ、アレなんだ!?」
カインの焦った声が聞こえた。
何かと皆でそちらを見れば、巨大なブロッコリーが周囲の木々を地面に押しだすほどの勢いで聳え立っていた。
その根元から、ぽこり、ぽこりと顔を出しては抜け出してくるブロック・オリーたち。
「オリー・クイーン……こんな所にいたんですね」
オリー種大量発生の原因が、そこにいた。
ウッドボア
種族:妖樹 クラス:トレント
・最初はボア種に木が寄生して生えた。年代を重ねるごとに共生を始め、そのうち一体化したらしい。
今では猪の形をした木として知られている。
繁殖はせず、実を産み落として増えて行くらしい。
ドロップアイテム・ウッドボアの実・木材・木肉
オリー・クイーン
種族:自立野菜 クラス:オリー
・二足歩行のブロッコリー。
自ら動くことはなく、根元からブロック・オリーを派生させるだけの迷惑存在。
しかし、これが討伐されてしまうと近辺のブロック・オリーが死滅するため、それを食料としていた人や魔物に多大な影響を与える。
ドロップアイテム・巨大ブロッコリー




