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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その二人の婚約を彼らは知りたくなかった
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その記憶がどこにいったのか、彼らは知らない

「やあ、すまないね、なぜか倒れていたようだよ」


 数時間後、意識を取り戻したリカードさんとルイーズさんがエンリカに連れられてやってきた。

 無駄に笑顔なのが怖い。

 まるで最初に出会った時のように物凄い穏やかな顔をしている。


「さぁさ、食事を再開……あら、もう終わってましたのね」


 ルイーズさんはそう言って食器を下げて洗いに向う。

 その間に席に着いたリカードさんは、バズ・オークを視界に収めても全く反応しなかった。

 もう、折り合いがついたのだろうか?


「あ、あの、それでリカードさん、エンリカの婚約のことは……」


「はて? エンリカの婚約? 娘はまだ彼氏もいないのだが?」


 記憶消えてるっ!!?


「い、いやいやいや、だからエンリカがバズ・オー……」


「ぐぅぅぅぅっ?」


 オーク、その言葉に目敏く反応したかのように急に苦しみだすリカードさん。

 どうやら忘れた訳ではなく記憶に封印を掛けたようだ。

 おそらく今は彼らもなんとか折り合いをつけようとしている最中なのだろう。


 焦燥感がすごい。危機迫る表情にカインは思わず押し黙る。

 なんかこのまま発狂してバズ・オークに踊りかかりそうな危うさがある。

 眼が見開かれそのまま飛びだしそうだ。

 怖い。怖いよリカードさんっ!?


「カイン、止めましょう。今は、そっとしとくべきよ、きっと、彼らも闘っているの」


 ネッテも察したらしくカインの言葉を止める。


「そ、そういえばリカードさん、妖精酒に付いてお聞きしたいんですけど」


 ネッテがそうだ。とばかりに別の話に話題を変える。


「ぅぅぅ……ん、妖精酒? なにかね?」


 先程までの唸りが嘘のように普通に笑顔のリカードさん、その落差が物凄い怖い。

 大丈夫かこの人。精神疾患出来ちゃってるぞ!?


「いえ、妖精酒は妖精と交渉することで手に入るんですよね。その妖精とはどうやってコンタクトを?」


「ああ、近くに妖精郷があるんだよ。そこに向うか、時々村にやって来て悪戯していく妖精を捕まえて妖精酒になるか羽を毟られるかの交渉を行うんだ。大抵妖精酒を選ぶよ」


 そりゃ一生モノの傷を負うか風呂に入って出汁を飲まれるかなら後者を取るに決まってる。

 というか、そう考えると妖精酒って変態の飲み物だよね。

 でもマムシ酒とあまり変わらないか。

 ちなみに、妖精さんは魔法で水中でも息が出来るのだとか。すごいな妖精。


「さて、あとはメインに用意していたオークの丸焼を……あら、オークどこ行ったかしら?」


 不意に聞こえたルイーズさんの呟き。

 バズ・オークが身震いしていたのは気のせいだろう。

 包丁を持つルイーズさんの怪しい笑みが怖いです。


「まぁ、そうだな。もしも娘を嫁にやるのなら、この森に出没するあの悪魔。ロウ・タリアンを倒せる奴だろうな。もしも倒したのならば、私としても申し分はない。たとえ、オークであろうとな」


 ふいに、リカードさんがぽつりと漏らした。

 ルイーズさんの言葉に意識を向けていたので余り聞きとれなかったが、リエラはしっかりと聞いていたらしい。

 おそらく、リカードさんが辿りついた苦渋の決断なのだろう。

 だが、条件が出た以上、エンリカさんは確実に向うでしょう。


「ロウ・タリアン?」


「この森の深部に存在すると言われてる伝説級の魔物です。姿を見た事はありませんが、橙色の武器で突き刺して来たり、白い大剣を振りまわしたりするそうです。倒した相手に接吻を行う恐ろしい魔物だと聞いています」


 なんだそれ? 脅威なのか? いや、魔物にキスされるなら確かに怖いか?


「ロウ・タリアンの生息域なら妖精郷が近いよ。何度か見たし、私案内しようか?」


「そうだな。ついでに妖精郷とやらに寄ってみるか」


「あら? エンリカ、もう出かけるの? 泊っていけばいいのに」


 今泊ったら、おそらくバズ・オークの姿がこの世から消える。

 次の日の食卓にオークの丸焼が並んでいることだろう。

 恐ろしいので泊れません。


「せっかくの御好意ですが妖精郷にも行ってみたいので」


「う、うん。お母さん、私達、向こうで泊るよ今日は」


 エンリカもさすがに危険を察したのだろう。

 エルフ村での宿泊を諦めたようだ。


「そう? 残念ねぇ。明日の朝も、母さん、腕に縒りを掛けるつもりだったのに。オークづくしは無しかしら」


 この人、本気だ。

 本気でバズさんを調理する気だ。

 いや、違う。この人、視線がバンリに向いている。孫を食べる気か!?

 ひぃぃ!? エルフ怖い。肉食エルフ怖いっ。


「さ、さぁそろそろ妖精郷に向おうぜ」


「うむ、あまり長居するのも悪かろう」


「じゃあ、リカードさん、ルイーズさん、お世話になりました」


 危険を察したカインとクーフ、そしてネッテが用意を素早く整え外に出る準備を整える。


「じゃあ母さん父さん、行ってきます」


「ああ、行ってらっしゃいエンリカ」


 笑顔で送り出すリカードさん。その視線は今までとは違い不気味な笑みに見えた。

 殺気が、バズ・オークへの殺気が漏れてます。

 そろそろ覚醒しようとしているのか、再び半狂乱リカードさんが。


「ちょっと、出てくの構へんからウチ放したってぇ!」


 空気を読んでないマルケだっけ? 妖精さんは未だにネフティアに掴まれたままでした。

 可哀想だったのでネフティアの頭を叩いて放すように伝えてみる。

 おお、解放した。いい子だねネフティア。


 頭を撫でてやると、少し嬉しそうにしていた。無表情ながら最近ようやくネフティアの感情の起伏が分かるようになってきたよ。

 うん。アルセもネフティアもいい子だな。

 殺伐とした大人の笑みを見た後だからか余計癒されるよ。

ロウ・タリアン、昔流行ったアレをもじった名前で書いてたのですが、アレの元になる映画の名前と被ってたらしいのでこちらの名前に変えました。

後の方に記述してあるロウ・タリアンのステータスの方にも多少追記します。

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