その男がどこへ行くのか、誰も知らない
「沼地に落とされた恨みぃっ!!」
エルフ兵の一人がアニアに向けて斬りかかる。
慌てて逃げるアニア。
うひゃあ!? とか、あいつちょこまか逃げてうっとおしい。
「俺は貴様らのせいで初めてをドリアデスに奪われたんだぞ!!」
悔しさ滲ませ斬りかかるもう一人の兵士。
妖精全般が悪戯好きのようで、彼らは隣人ということで毎日のように恰好の獲物として狙われているようだ。
つまり、アニアが悪い訳ではないが、妖精は憎い敵だということらしい。
アレだね。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってヤツだ。
がんばれアニアー。
きゃっきゃと笑うアルセと共に、僕はゆっくり歩きだす。
ネフティアと共に、僕ら三人はエルフニアへと入るのだった。
「ってコラそこの二人ッ! 私を見捨てて行く気かぁ!?」
アニアが僕らを売った。
おのれ妖精! 大人しく斬られておればいいものを!
「あ、貴様等っ! 勝手に村に入ろうとしてるんじゃないっ。畜生っ、この妖精がぁ!!」
「俺の初めてを返せぇぇぇッ!!」
口でこちらに注意を与えつつも、攻撃するのは結局妖精だった。
仕方なく僕らはその場で止まって妖精が討伐されるのを見学する。
「って、コラァ、だから私を助けてってばぁ。私達の仲でしょっ。ねぇっ」
必死にふよふよ飛びながらこっちに近づいてくるアニア。
来るな、寄るな。アルセを巻き込むなっ。
「なんだネフティア、お前先に着いてたのか。居なくなってたから焦ったぞ」
森の茂みを掻きわけて、カインたちが現れたのはそんな時だった。
目の前で繰り広げられる謎の闘いを見て呆然とする一行。
その中に、エルフであるエンリカを見付けた兵士たちは驚いた顔をしていた。
「エンリカじゃないか! 戻って来たのか!?」
「ケヴィンにルイッグ。二人とも警護の仕事任されるようになったのね。おめでとう」
にこやかに笑うエンリカに、顔を赤らめ照れ笑いするケヴィンとルイッグ。
しかし、ルイッグさんよ。あんた既に初めては……いや、言うまい。
そもそもすでにエンリカは人妻だしね。
きっと幼馴染とかで仲のいい二人なのだろう。エンリカも屈託のない笑みで再会を分かち合っている。
そしてその隙を突いてアニアがアルセの頭の上に退避した。
こらアニア、アルセに近づくな。穢れる!
僕はアニアを掴みあげペイっと投げる。「にゃぁ!?」と謎の声をだしたアニアをネフティアがキャッチ。またもむんずと掴み取った。
持つの気に入ったの? まぁいいかアニアも大人しくなりそうだし。
なんかネフティアが捕ったどーっ! と叫びそうな程にアニアを天に掲げて誇らしげにしていらっしゃる。効果音必要かい? テッテレー。僕が言っても誰にも聞こえないけどとりあえず。
じたばたもがくアニアは既に籠の中の鳥だった。
さすがに握力の高いネフティアの手からは逃れられないようだ。
しばらく押して引いてを繰り返していたが、ビクともしないので疲れてしまい、両手両足だらんとぶら下げ疲れた顔でアルセを睨む。
お門違いですよアニアさん。
「あれ? ネフティア、ドリアデスと一緒に来たの……って、あれ?」
「あああっ!? ネッテさん、この子、アルセじゃないですよ!?」
最初に間違いに気付いたのはリエラだった。今更かいっ!?
ネッテが手を引くドリアデスを見て驚きの声を上げる。
それに気付いた皆が注目するのは頭に生えたチューリップ。
いや、気付こうよ皆。かなり明確な違いだよ?
というか、バズ・オークと辰真が物凄い焦った顔でアルセとドリアデスを見比べている。
おい、アルセの護衛共、なんだその顔は?
未だにどう違うのか分かってない気がするのは気のせいか?
そして二人は違いを見付けて慌ててアルセのもとへと寄って来て、土下座です。
アルセは意味が分かってないようで首をこてんと傾げてました。
「エンリカ、あの三人とは知り合いか?」
「三人? 確かにアルセちゃんとネフティアちゃんは知り合いだけど? もう一人ってどこにいるの?」
「あの青白い肌の少女の手に掴まれているだろう。妖精だ」
言われて視線を向けるエンリカ。
「知らないわね。妖精の知り合いなんて居ないわ」
なぜか底冷えするような冷たい声だった。
あまりの声にケヴィンとルイッグが怯えるように背筋を正した程だった。
「そういや、お前昔妖精のせいで」
「おい、馬鹿よせ! 死にたいのか!」
どうやら黒歴史並みの何かが妖精によって起こされたらしい。エンリカも妖精を恨んでいると。
やっぱり妖精は危険だな。可愛らしい容姿なのは認めるけど。
仲間にするのは危険だろう。
「ところで、村に入っても大丈夫?」
口調を戻したエンリカが笑顔で尋ねる。
知り合いの友人たちが案内されて来たのだ、問題などない。むしろ顔パスである。
「「どうぞ!!」」
二人は同時に道を開けてエルフニアへの扉に手を向けた。
促されるようにエンリカが歩きだす。
カインたちも一緒に歩きだした。
ネッテはドリアデスの手を離してごめんね。と言いながら別れを告げる。
意味の分かっていないドリアデスはこてんと首を倒した後、ルイッグに視線を向ける。
にこやかに微笑み近寄るドリアデス。
脂汗塗れになるルイッグ。手を引かれる。
抵抗はなかった。困った顔のまま、ドリアデスに手を引かれて森に消えて行く。
どうやら奴は、既に抜け出せる段階を越えていたらしい。成仏しろよ。
いやケヴィンさん、明日までには帰ってこいよって、それでいいんすか?
アニア
種族:妖精 クラス:ピクシー
・妖精郷に住まう妄想好きのピクシー。
好奇心旺盛で悪戯好き。バッドエンドの妄想を垂れ流す性癖がある。
ネフティアに気に入られたようでよくむんずと捕まえられている。
装備:妖精の靴・妖精の服・妖精の腕輪・ミニマムテルトード
スキル:悪戯
ミニミニ光線
ハッピーダンス
ハッスルダンス
フェアリーダンス
種族スキル:ピクシーパンチ
妖精の粉
飛行
妖精の輪
惑わしの草地
ケヴィン・ポア・ぱかにゃ
クラス:弓使い
・妖精の悪戯で沼に落とされた過去を持つ青年。エンリカの顔なじみ。
ルイッグ・エレ・にゃにゃにゃ
クラス:弓使い
・ドライアドに初めてを捧げたらしい青年。エンリカの顔なじみ。
ドリアデスに連れて行かれたのち、一日行方不明。




