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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その二人の婚約を彼らは知りたくなかった
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その妖精の守り神の仕事を、僕は知らなかった

「いーやー。殺さないで売らないで辱めないでぇ。いたいけなピクシー捕まえてあんたいったい何する気!? きっと私売られるのね、奴隷として売られて観賞用の瓶に入れられて飼われるのね。そして碌な餌を与えられずに衰弱して最後には死んじゃうんだ。そして酒瓶に入れられて酒と一緒に飲まれるのよ。妖精酒にされるのよ。きっとそうだわ。でもいいの。無防備に友達になろうと近づいた愚かな私が悪いのよ。良い人間さんだと勘違いして殺されるの。ああ、なんて可哀想なアニア。きっと私は不幸な星のもとに生まれたのねっ」


 なんか一気にまくし立てたと思ったら普通に自分の不幸妄想を語りだして泣きだした。

 なんだこの珍妙な生物は?

 いや、ちょっと可愛いけどさ。なんていうの、面倒臭い生物だということは理解した。


「きっと妖精としての尊厳は剥奪されるのよ。羽から取れる妖精の粉を死ぬまで奪われ、涙は取られ、身体は辱められるのよ。こんな小さな美少女、人間たちはきっと放っておかないわ。ああ、私何をされてしまうの。もう普通の妖精には戻れないのね。ああ、なんてこと。まさかこんなに唐突にピクシー生が終わりを告げるなんて。せめて、せめて最初は優しくしてくださいっっ」


 僕は無言でネフティアの腕を掴むと、指を引き離し、妖精を解放した。

 ネフティアから受け取って未だに妄想を続ける妖精を適当な木に持っていく。

 背丈の低い木があったので、その幹に妖精を置いて僕はアルセ達のもとへと戻った。


 未だに妄想を垂れ流す危ない妖精を放置する。

 なんか子供に聞かせられない言葉を吐きだして一人悶え出したのでこれは仕方ないだろう。アルセ達に相手させる訳にはいかない。

 アルセとネフティアを立たせて僕は歩きだす。


 アルセがもう少し水が欲しそうだったけど、帰ったらまた水吸い上げていいから。

 ネフティアも、そんなモノ欲しそうな目をしない。

 妖精さんなら他のにしなさい。あんなもの飼ったらだめです。捨ててきなさい。


 再び森に入る。

 僕とネフティアは周囲を警戒しながら歩く。

 アルセはいつも通りだ。

 地面に落ちていた木の枝を拾って嬉しそうに歩いている。


 アレだね。ガキ大将が仲間連れて山道歩いてる、そんな感じ?

 アルセは木の枝フリフリ時折こちらに笑顔を向けて周囲の木々に枝を打ち付ける。

 多分意味はない行為なのだろうけど、とりあえずなんか当てたいのだろう。


 そんな遊びを行いながらしばらく歩いた時だった。枝を振って当った木が、ギロリと動いた。

 よくもやってくれたな。そんな恨みがましい顔でこちらを振り向く。

 僕は即座に魔物図鑑を使った。

 どうやらこいつはトレントらしい。


 マイネフラン近くの森にいたトレントとはちょっと違うな。

 こっちの方が凶悪そうだ。

 まぁ、僕やアルセが動く必要はないんだけど。


「ちょっとぉ、放置ってどういうことよぉっ。って、おおう、トレントじゃん。あなたたち気を付けなさいよ、そいつは身体を揺らしてイガグリ落として……」


 ギュイイイイイイイイイ


 ネフティアさんは樵の才能はない。

 力任せに振り抜かれたチェーンソウにより、トレントが即座に伐採された。

 倒れた木は真横に倒れ、周囲の木を薙ぎ散らす。

 トレントの巻き添えとか、可哀想に。


「すっご、一撃で倒してるし!」


 というか、ついさっき捨てて来た妖精が追い付いて来た。


「おー?」


「二人ともこっちの方は危ないよ。エルダートレントの縄張りだからさ。こっち来なよ。妖精郷に案内したげる。私を捕まえなかった快い人みたいだし、場所教えてあげるよ?」


 妖精郷じゃなくてエルフの集落に行きたいのですが。

 僕はアルセを操ってエンリカの絵を地面に書いてみせる。

 似顔絵だけだけど、それを見たアニアは直ぐに気付いてくれた。


「これ、もしかしてエルフ? もしかしてだけどエルフニアに行きたいの?」


「おー!」


 アルセが同意の声を上げる。

 一応アルセもエルフの集落に行くことは覚えてたのね。

 知識の芽生えのおかげかな?


「むぅ。仕方ないなァ。エルフ集落はあまり行きたくないんだけど……案内だけならしてあげる」


 その言葉に、ネフティアがグッドマーク。

 君、ほんと喋らないね。

 今まで一度もネフティアの声聞いたことないぞ僕。


 そんなネフティアは歩きだそうとして、ふと足を止めた。

 チェーンソウを構えて油断なく周囲を警戒する。

 なんだ? と思ったのは僕だけじゃないらしい。アニアもどうしたの? と慌てて周囲を見回す。


 居た、あれか!?

 それは巨漢の男に見えた。

 ゴーレムじみた緑色の厳つい男。

 オーガが一番似ているだろうか? 頭には月桂冠? なんか草で出来た冠をしている。


「ああ、あれか。二人ともちょっと待ってて。多分妖精が襲われてると勘違いしただけだと思うから」


 と、アニアがふよふよと飛んで行く。


「スープちゃ~ん。なにしてんの~」


 能天気な声を掛けていくアニア。それを見た男は何だ問題はないのか。といった顔をして踵を返した。

 それを見たアニアがこちらに戻って来る。


「アレはスプリガンっていう妖精の守り神なのよ。ふふん。私に危害を加えようとは思わないことね。もしも傷でも付けようものならスプちゃんが黙っちゃいないんだからね!」


 不遜な態度のアニア。やはり面倒臭そうだったので僕はアルセとネフティアを促して歩きだす事にした。「ああ、待ってぇ」というアニアの声は当然無視した。

 トレント

  種族:妖樹 クラス:トレント

 ・自立歩行する木。

  本能の赴くままに動くだけの存在。

 ドロップアイテム・木材・木の実・木彫りのお守り


 スプリンガン

  種族:妖精 クラス:守護者ガーディアン

 ・妖精たちを守護する魔物。

  妖精に危害を加えているところを彼らに見られると、地の果てまでも追って来る。

 ドロップアイテム・怨嗟のメダル・呪われた棍棒・妖精の敵認定書

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