後日談エピローグ・その予言がある事を、彼は知りたくなかった
「あ。そう言えばアルセ神様。その娘、名前決まったです?」
「ええ、ル―セになったわ」
「……ル―セ? あれ? ル―セ。アルセ神様、なんかその名前、予言にありませんでした?」
アカネさんが妻登録という意味不明な事をしている間、暇を持て余したセインがアルセに話しかけて来た。
ル―セってついさっき付けた名前だよ?
「あれ? そういえば?」
え? アルセ、本当に予言ってあるの!?
「なんだっけ?」
「ちょっと待ってください。黒の聖女が予言したものは確かこの辺りに聖書として……あ、ありました」
書棚から一冊の本を取り出して来るセイン。
そういえばそこに書棚あったね。まず使ってるところ見たことないから普通にインテリアとしか思ってなかったよ。
「えーっと、アーデの書がここまでだから、あった、ここですル―セの書」
え? 待って。アーデの書って何?
「えーっと嘆きは祈りの場で始まる。妻は悲しみ男は驚く、異界より戻りし者は異界へ旅立つ。げに哀しきは残されし妻たちか」
あの、それって、なんか……今じゃない?
「ははは、そんなバカな?」
ふいに、僕の裾がぎゅっと掴まれた。
おや? と思ってそちらを向けば、ル―セが困った顔で僕の裾をむんずと掴んでいた。
まるで、今から異世界行く気満々ではないですか?
え? マジで?
刹那、ぱぁぁっと足元が光り輝いた。
不意をついた光に、リエラもグーレイさんも反応出来てなかった。
僕は咄嗟に手を伸ばす。
「え? ちょまっ」
誰かに触れて、光が消える。
そして……
SIDE:アルセ
「って!? またなのかい!?」
「ええぇ!?」
グーレイとリエラが困った顔でげんなりしてる。
正直またか、と思うけど、あの人だから大丈夫かなってなんか安心しちゃう。
駄女神さんに連絡入れて、次の転移先を捜索して貰おう。
全く、まだまだ安心させてくれないなぁ。
ル―セにはアーデよりも様々な権能を与えておいた。
なんとなくこうなる予感がしたから単独でもちゃんとサバイバルできるようにしておいたのだ。
だから、多分大丈夫。
さって、神界戻ってサポートしなきゃ。神様業は大変だ。
「え? ちょっとアルセ君、なんでそんな落ち付いてるの!? なんかセインとアリーシャとギュスターブが巻き込まれてるんだが?」
「あはは、なんかもう慣れたものだよね。神界でサポートしにいこ、グーレイ」
「じゃあ私は皆さんに知らせて来ますね。場所特定できたら教えてください。誰でも送り込めるようにしておきますよ」
リエラも今回のことで慣れたのか、あの人が居なくなっても取り乱したりはしないらしい。
必ず帰ってくると安心した顔で私と視線を合わせた。
「大丈夫だよね。アルセが付いてるんだもの」
「ル―セもいるし、向こうのこと、逐一見られるようにするね。とりあえずこの教会の二階に専用の鏡型テレビ置いておくよリエラ」
「録画機能もお願いアルセ。浮気の証拠は残しとこうね」
「あはは。おっけーい」
「彼、またバグってないといいけれど……全くせわしないなぁ」
皆して笑い合う。あの人の安全は全く確保されてないけれど、私達はなんとなく確信していた。
きっと、皆揃って何でもなかったように帰ってくるだろう。
それに、予言って確かまだ何個かあったから。
SIDE:???
「あらー、これはまた」
僕は今、異世界に居た。
また異世界である。
うん、まあその、なんだ。
なんで……こうなった?
「おー?」
辺り一面砂だらけ。
砂漠の古代遺跡っぽい場所にある祭壇に、僕らは転移させられていた。
「お、おお? 何だお前ら!?」
そして、おそらく僕らの召喚者と思しきターバン巻いたおっさんが一人。
その近くにはラクダが一頭。フタコブラクダはくっちゃくっちゃと口を動かしていらっしゃった。
いや、召喚者が驚くってどういうことだよ?
完全に召喚事故だろこれ。
なんでまた変な場所に召喚されちゃったの僕。
「あー、異世界だよ、巻き込まれたよギュスターブ」
「そのようだなアリーシャ。ところで、あの男は何処だ?」
ん?
「そういえば、召喚された本人が見当たらないような?」
「何言ってるです二人とも、○■Эさんここに……名前言えません!?」
ああ、またかぁ……
折角戻ってきた僕は、三度異世界へと強制移動させられた。
一度異世界に召喚されたからか、召喚されやすくなってるんだろうか?
しかも召喚されるとバグるのも仕様らしい。
「むむむ、どうやらセインとル―セ様だけがバグさん見えるみたいです」
これはまた変なバグり方しちゃったみたいだなぁ。
僕は遠くを眺めてみる。
どう見ても見渡す限り砂漠です。遠くに蜃気楼見えます。暑いようです。暑さは感じないけど。
さて、また異世界かぁ、ちゃんと生還出来ると、いいなぁ。
僕は新しくパートナーとしてやってきたル―セに視線を向ける。
にぱっと微笑む幼きアルセの御姿に、彼女と一緒ならきっと大丈夫。そんな思いが湧きあがるのだった。
その彼の名を誰も知らない~その彼女の名を誰も知らない編~完結です。
拙い小説ですが御愛好頂きありがとうございました。<(_ _)>