後日談・そのさらに増える妻を、彼は知りたくなかった
「うわぁ。魔物が普通に街に居る」
アリーシャが驚くのも無理は無い。
グレイシアにあるこの町は、アルセの働きもあって魔物王国と呼ばれるほどに、街中を魔物が闊歩してるのだから。
「オルァ」
「あン? 何よ?」
ツッパリにガン飛ばされたクラレットが威圧を返す。
はいはい、そこまで。ほら、ツッパリさん、皆は威嚇しなくていいから。パトロールよろしく。
「おるぁ?」
「きゃんっ、ちょっといきなり触んないでよ。あいつが先にメンチ切って来たのよ!?」
「あはは、クラレットさん、アレ、そういう魔物なんですよ」
「え? あいつ魔物なの? ただ絡んできただけの冒険者かと思ったわ」
ちょっと肩押さえてご退場しただけなのに、過剰反応過ぎない?
道すがら、ツッパリの生態やこの国に存在する魔物について説明を受けるクラレットたち。
あまりのヘンテコ生態ぶりに皆白い目を魔物達に向けだした。
「のじゃーっ」
「きゃぁ!? あ、さっき話にあったのじゃ姫さんか」
中位の大きさに変化したワンバーちゃんに乗ったのじゃ姫が挨拶にやってきた。
驚くアリーシャだったものの、同じ巨大生物に乗る者同士だったせいか、なぜか意気投合し始めた。
乗り物となったワンバーちゃんとギュスターブが凄く居たたまれない顔をしているのは、まぁノリモノだから諦めて?
「凄いわね。にっちゃうが普通に闊歩してる」
と、メロンさんが抱きあげたのは……黄色いにっちゃうじゃないですか、やだー!? にっちゃんなんでこんな場所いるの!?
困惑しているにっちゃんをなんとかなだめてメロンさんに地面に置いて貰う。
僕らが慌てている理由が分からなかったようだ。
そういえば向こうの世界でにっちゃう・つう゛ぁいって見掛けなかった気がする。
似てるようで微妙に違うんだよなぁ、パンティさんの異世界って。
にっちゃんに別れを告げて教会へ。
あ、忘れてた。あいつそういえば居たなぁ。
外道勇者君が道の真ん中で胡坐掻いて居座っていた。
「何あいつ?」
「バグってあそこから動けなくなったんだよ」
彼のバグは未だに健在である。
世界にバグが満ちても彼は相も変わらずここから動けなかった。
まぁ無敵でもあるのでこのままずっと放置でいいだろう。
「ンだテメェら。見せもンじゃねぇぞコルァ」
「外道勇者君、お黙りなされ」
「うげ、バグ野郎ッ!? マジかよお前ら生きてたのか」
「勝手に殺さないでくれます? というか、君、まだバグったままなんだ?」
「そういえばそうだね。この世界のバグは一度消えたはずなんだけど……ああ、アルセ君にとって敵だったからバグ残ったままになったのか」
「チッ」
皆が嫌そうな顔をしていたので、僕は代表するように歩み寄り、外道勇者の耳元で告げる。
「ハードモット」
「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
突如、頭を抱えて絶叫を始める外道勇者。
これでよし。
「え? え? なに?」
「気にしないでくれ。ちょっと、トラウマのようだ」
グーレイさんが言葉を濁して教会へと皆を促す。
僕らが教会へと入ると、既に待っていたらしい教会メンバーが教壇前で出迎えて来た。
セインとロリデッス神父。あの口が悪いシスターさんはいないのか? あ、懺悔室からでてきた。
「来たです我が夫!」
「そういえばセインさんも妻候補でしたね」
「僕の妻、どれだけいるんだっけ?」
「とりあえず星の数ほど、かな」
「だからアルセイデス系入れちゃダメだってグーレイさん!?」
「えげつない数ね。手当たりしだいってこと?」
「まって、ブロンズちゃん待って。誤解ですよ!?」
「女の敵なのは確かだろ。とりあえず神に謝りやがれクソガキ」
「マルメラさん、その神はあいつの妻です」
「ガッデムシットッ!!」
アルセもなぜか妻に立候補してるんだよね。
何なの僕の妻の座。大安売りでもしてたのかな?
「んじゃ、とりあえずエロバグの妻になるメンバーこっち来て。登録と祝福しちゃうから」
ニャークリアさんとブロンズちゃんが付いて行く。
いや、クラレットさんとメロンさん、なんか面白そうってそう言う理由で妻になるのはどうかと思います。
おい、やめろギュスターブ、男は妻になれないんだぞ!? アリーシャと一緒に参加しようか、じゃないから!?
全く、こういうノリで登録する奴がいるから僕の妻がアホみたいに増えるんだよ。というか、オカシイな。アカネさんに渡された妻リスト、無茶苦茶増えてない?
前に渡されたのの二倍位……待って、ねぇ待って!? お母さんの名前あるんだけどもっ!?
「あらら。ほんとだ」
「いや、待ちたまえ、ここの名前……男じゃないか?」
え? 嘘だろグーレイさ……マジだ? え。どういうこと?
アカネさん、お前一体何をしたッ!?




