後日談・その二人が付き合っていると姉が知ったことを、彼ら以外知らない
SIDE:杙家檸檬
「と、いうわけで、ただいまお姉ちゃん。ついでに私達付き合うことになりました。イェイ」
「あー、その、そう言う訳だ。これからもよろしく。うん? どうした?」
その日、元の世界へと帰って来た私達は姉へと帰還報告を行っていた。
最初こそ泣き顔で私達を抱き締めて来た姉だったが、私の告白を聞いた瞬間、弾かれるように私達から離れて、能面のような顔で陸斗を見る。
そして陸斗もそれに気付いて小首を傾げている。
うん、確信犯でしょ。
さっきまで何度も打ち合わせしたしね。
ふっふーん。お姉ちゃんには悪いけど陸斗は私のもんだからねーっだ。
「え? っと、私の聞き間違いかしら?」
「あー、落ち付いて聞いてくれ、俺達はだな、その、異世界に連れてかれてたんだ」
「……は?」
あ、お姉ちゃん目が据わった。
変な言い訳すんな浮気者って顔になってる。
でも浮気じゃないし。お姉ちゃんの彼氏でもないよ陸斗は。
「異世界で俺らは英雄の一人として召喚されてさ、俺が料理の英雄で、檸檬が食の英雄になったんだ」
「……」
あ、すっごい顔してる。お姉ちゃんのこんな顔初めて見たかも。
嫉妬とかそんなんじゃないな、なんていうか、理解不能な生物を見るような顔?
「凄かったんだぞ、檸檬の奴、魔物相手に生で喰らい付くし。そのまま食べるし。アレはちょっとどうかと思うんだけど、実際最後にはその喰い付きの御蔭で危険な魔物を喰い殺してな。その時に檸檬が死にそうになって、俺は凄く……おい? どうした? 気分悪いのか?」
心配になって顔を覗き込んだ陸斗の顔面に、ノ―モーションの拳が突き刺さった。
ぶふっと倒れて行く陸斗を放置して、おねえちゃんは私の襟首を掴み上げる。
「ちょっと、お話しましょうか、姉妹水入らずで」
「りょ、了解っす」
予想通りじゃん、陸斗のばかぁ、自分が説き伏せるとか言った癖にワンパンで伸されてるじゃんっ。
英雄能力あるままなのに一般人のおねえちゃんに伸されるってどうなの? 英雄、仕事してる!?
あ、力強っ、ちょ、お姉ちゃん待って服が、服が伸びちゃう。
家の奥、お姉ちゃんの部屋に連れ込まれた私は、正座させられてお姉ちゃんに詰め寄られる。
あー、これは下手な言い訳とか異世界云々は不要だなぁ。
異世界の話とかしても理解されないから私が適当なホラ吹いてると思われかねないようだ。
聞かれたことだけしっかりと答えよう。
陸斗とどういう関係になったか? 彼氏彼女の関係っす。
浮気? よく考えてお姉ちゃん、お姉ちゃんと陸斗はまだ付き合って無かったでしょ。
あれ? なんでそこで考え込むの!? え、気付いてなかった!?
既に彼女のつもりだったの? 告白してもされてもいないのに!? ちょっとお姉ちゃん、さすがにソレは引くよ!?
「待って待って、え? だって、私と陸斗ってば毎日会ってるじゃない?」
家隣だしね。
「食事も一緒でしょ? お風呂も偶に一緒に入るし」
今でも続いてるんだよねー。というかある時期から私も一緒に入るの拒否されてたのって自分が陸斗と彼氏彼女の間柄になってると思ってたからだったのか!? うすうす気付いてたけど陸斗は多分彼女だと認識はしてなかったよ!?
「嘘でしょ?」
「いや、落ち付けお姉ちゃん、いい、良く聞いて? ちゃんと理解して? お姉ちゃんは……陸斗の幼馴染だけど、彼女じゃ、無いのよ?」
「っ!? 確……かに?」
今、顔に手を当て必死に過去を精査するお姉ちゃんが目の前に居る。
その目は血走っており、動揺に揺れ動いている。
「あれ? あれ? あれ……?」
記憶の中で、必死に告白された場所を探す。
しかし陸斗がお姉ちゃんに告白したような記憶は全く見当たらなかった。
時間を掛けるほどに憔悴して行くお姉ちゃんが見ていられなくなってくる。
「私の、彼氏? かれし……カレシ???」
なんか追い詰められた新世界の王みたいになってるなぁ。
見てて面白いけど、恐くなってきたからここらへんで止まって貰おう。
「落ち付いてお姉ちゃん。ほら、男なんて星の数ほどいるじゃない」
「彼氏、彼氏が一杯? 私の彼氏イッパイ? イッパイ」
あれ? ちょっと? まずい、なんかお姉ちゃんが壊れそうだ。
えーっと、何か、お姉ちゃんを正気に戻すには……
あ。そうだ! アイテムボックスからにっちゃうの死骸を取り出して……目の前で齧り付いちゃえ。
うまうま。
「ひ、ひぃぃっ!? な、何してんの!? 待って止めて、生食はだめぇ!? トラウマになっちゃうぅぅっ」
あ、ごめん。美味しいから止まりませーん。
そう言えば食欲に関してだけは神様がスキル剥奪しちゃったらしいけど、食の勇者としての権能はそのままだから口に入るなら何でも食べられちゃうんだよなぁ。
食べなさすぎると暴走するのは封印されてるけど、むしろデメリットが無くなっただけだったりするし、意外と現代世界でも使えるかも?




