後日談・その集う者たちを、彼らは知らない
SIDE:ノヴァ
「よぉ、今日のリーダーやることになったアルヴァンだ。変わった容姿だが、亜人かい?」
「種族は呪人だ。今日はよろしく頼む。もしかしたら、なんだが……今回の討伐対象、知り合いかもしれない。私は彼を前にしてしまうと役に立たないかもしれないが、彼の最後を見届けることだけはさせてほしい」
「知り合い? まぁ思い入れがあるってことでいいんだろ? 気にすんな、あんた以外にも見学とか素材目的で戦闘には一切参加しないハイエナ共もいるから。そいつらに比べりゃ随分マシだ。実力は期待していいのか?」
「そこそこだ。近接戦闘特化、剣での攻撃しかできんがね」
「魔法は得意じゃないのか?」
「身体強化系は得意だぞ?」
「ああ、そっちタイプか、近接特化系に多いよな」
何故かアルヴァンに目を付けられて目的地まで隣で話し合いながら向うことになってしまった。
いろいろ思い悩んだりする必要がなかったのでむしろよかったかもしれないが、結構話好きで私には対応力がなさ過ぎて困るんだ。
しかし、コイツ、気のせいか私のプライバシーにどんどん踏み込んできてないか?
なんか、ちょっと怪しく思えて来たんだが?
でもリーダーやるくらいだし、それなりに人望はあるってことだよな?
「で、出たぞーッ!!」
不意に、冒険者の一人が叫んだ。
森の中に入っていた彼の元へ、木々をなぎ倒しながら迫る一匹の熊型生物。
一瞬、くまっぴょろん? と思ったモノの、迫る熊は微妙に違う気がした。
多分だが、別の熊だ。
安堵と共に、ならば遠慮は無用、と武器を構える。
冒険者たちが次々と攻撃を行う中、熊に迫ろうとした私の背後に、殺気。
「え?」
「死ね、人外ッ」
先程までにこやかに会話していたアルヴァンが、私の背に向け、剣を振り下ろした所だった。
不意打ちに反応は既に不可能。
逃げるにしても身体が動ける状況ではなかった。
致命的な状況で致命的な一撃。
アレは、私の命を奪える一撃だ。
ああ、クソ、こんな胡散臭い奴信じるんじゃなかった。
人類至上主義者だこいつっ。
しかも亜人系すら排除するタイプの、本当に人以外排除するタイプの面倒すぎる……
キンッ、私に迫っていた凶刃が防がれた。
横合いから入ってきた男が、アルヴァンの剣を跳ね上げる。
「き、貴様ッ」
「悪いな、友人を殺されるのに、黙って居られるもんじゃねぇんだ」
友……人?
目深に被ったローブをはためかせ、乱入して来た男はアルヴァンに斬り掛かる。
「クソ、人類の敵めッ」
斬りかかってきたアルヴァンが毒づく。
しかし、ローブの男は気にした様子もなくアルヴァンを切り裂いた。
「がはっ、お、おのれ、人類の敵、め……」
「ふん、人類至上主義は構わんが、こいつは人だ、お前こそ至上なる人類を殺そうとしただろう人類の敵め」
あ、こいつも人類至上主義者だった。
前門の人類至上主義者、後門の人類至上主義者。
逃げ場、はない。
どうしろってんだ!?
どさり、倒れ伏すアルヴァン。
いいのか、同じ人類至上主義者なのに、同類殺しちゃったぞこのローブ。
「全く、無防備すぎるぞノヴァ」
「え? なんで名前を知……まさか!?」
ローブの男は目深に被っていたフードを取り去る。
そこにあった男の顔は……
「カリオン!?」
「ああ。一応、熊の魔物討伐と聞いてな。くまっぴょろんの可能性があると知って居ても立っても居られなくなってな」
「記憶が、あるのか?」
「バグとやらが取られた当初は混乱していたが、離れて落ち付いてくると記憶が、溢れだすんだ。お前達と過ごした日々が。意外と、嫌いじゃ無かった。だから、せめて暴れる熊は俺の手で殺そうか、とな」
なんだよ、なんだよっ。
やっぱりカリオンはモザイク棒人間の時と一緒じゃないかっ。
「さぁ、ぼおっとしてる暇はないぞノヴァ、くまっぴょろんじゃないが、アレをさっさと倒してしまうぞ。話は後だ」
積もる話もあるだろう。
ただ、カリオンがまた話が出来る状態でいてくれたのは、嬉しい誤算だった。
「クソ、意外と強いぞコイツ!」
「リーダーは何処行ったんだ!?」
リーダー不在なせいで混乱気味の冒険者たち、各自指示なく各自の判断で動いてる形だ。
リーダーはカリオンに斬り殺されたのでもう復帰することも無い。
仕方ない、責任もあるし、アルヴァンに代わって指示を行うか。
「あ、う、うわあぁぁぁ!?」
あ、不味い、冒険者の一人がベアクロー受けて瀕死だ。
ソレを守ろうとした冒険者が今、殺されようとしていた。
ここからじゃ遠すぎる。
私とカリオンが焦るその刹那、
森の茂みから熊の魔物に飛びかかる黒い影。
「「くまっぴょろん!?」」
見紛うことなくくまっぴょろんだった生物を見付け、私達は思わず声をハモらせたのだった。




