後日談・その異世界旅行を、彼らは知らない
SIDE:ノヴァ
アーデの大樹、その周囲は花畑が広がっている。
虹色に煌めくキャットハムターがちょろちょろと動きまわっているし、アーデの大樹の上部では「ワタシハトリーッ」という鳴き声が毎朝と夕方に鳴り響いている。
偶に樹の根元をゆらゆらと踊るくねくねしたレインボーカラーの生物もよく見かける。
呪いこそ掛けられることは無いがあまり見て良いモノではないのだろう。
緑の蔦で出来たアーデ共和国、その中央はアーデ公園となっており、人々の憩いの場となっていた。
管理者は国であり、三体の虹色の魔物達でもある。
といっても、その国の誰もがアーデの大樹に対して何かをするようなことはない。
その大樹が大切なモノだと本能で理解できているからだ。
ただ、この世界を破壊しようとかしてるキチガイ共はいつの時代もいるもので、そういう奴等からアーデの大樹を守るために、くねくねちゃんたちは生涯を掛けて守護することになったようだ。
くねくねちゃんとしては異世界に行きたかったらしいけど、それでも彼女はアーデの守護を優先させたらしい。
その心情は、私には分からない。
分からないのだ、私は人ではないから、人の感情も、魔物の感情も。
カリオンは、結局あの後自国に逃げ帰って以後、見かけなくなった。
くまっぴょろんは野性の魔物だ。
結局意思疎通はできなくなり、近くの森に消えてもう、見かけなくなった。
三人で楽しくやってたつもりだった。
バグのせいであの二人は私に付き合っていただけだと知らされた気がして、私は何をしていたんだと、今はずっと自己嫌悪している。
ただ、なぜか私の傍で黄昏てるパッキーと地面に埋まっているゴールデンオカブが、いや二人とも既に光る虹色なのでゴールデンではないのだが。
ともかく、私が黄昏ていると、そっと隣に来ているのだ。
意思疎通は言葉がわからないので出来てない。
ただ、同情されてるのか、仲間と思われてるだけなのかは分からないが、よく傍にやってくるのである。
傍にいる、といえばギガス兄弟か、ラウールの傍を離れず世界各地に向かう旅行に同行してしまった。
今思えば私も一緒に行ってしまえば良かったかもしれない。
ここで元モザイク棒人間の二人を待つよりかは、建設的な生活ができたかもしれないのだから。
呪人である自分は呪いを振り撒く以外何もできない。
その呪いも神々が呪いを振り撒いてると日常生活できないだろう? と封じてしまったので、今の私はただ魔法や呪力が吸収できるだけの人型生物でしかない。
「あ、居ました呪人さん」
「……ん?」
不意に聞こえた声に、後ろを振り向く。そこに居たのは……確かカッパー?
「何か用か?」
そもそもグネイアス王について行ったのでは?
「何故ここにいる?」
「伝言を受け取ったのでついでに届けに来ました。私、グネイアス王から影としての仕事解約されたんです、なのでアーデ共和国の方でギルド受付嬢として働こうかなって。そしたら仕事探しに行ったギルドで貴方を呼んでくるように言われて」
「私を?」
「はい、なんでも、最近この付近に出現し始めた熊の魔物討伐について、らしいんですけど……」
「すぐ行くッ」
くまっぴょろん? いや、そんな訳は無いか? でも、でももしも……
「あ、それと呪人さん、シルバーさん知りません? 一緒にギルドどうかなって誘おうと思ってたんだけど」
「シルバーさんか、確か少し前まではこの共和国にいたんだが、丁度良い国を見付けたと言ってこの前出て言ったよ。唯一知り合いだった私に伝言だけ告げて去って行ったさ」
「シルバーさん……大丈夫かなぁ」
しかし、カッパーがギルド嬢か。
この娘に務まるのか?
アレは対人業だろう。裏方で情報集めが主な彼女は確か、引っ込み思案で人に話しかけられると恥ずかしさから煙玉投げて自身は消えるとかやっていたのでは?
「あはは、今もまだ偶にやってしまって怒られちゃいます」
怒られるだけで済むのか。
そんな事を思いながら冒険者ギルドへと顔をだす。
気のせいか、店内が凄く広い、というか、機能的になってる?
もしかして、アーデ共和国って、住む家についてアーデに意見告げればある程度作り直してもらえるのか?
「失礼、熊の討伐と聞いたんだが」
「呪人ノヴァ様ですね、話は聞いております。くまっぴょろんという同僚の可能性があるとか? 残念ではありますが、向こうは理性の無い魔物であるため、討伐に関しては取り下げできません。参加は可能ですが、邪魔をしてはなりません、それでも、ご同行いたしますか?」
「……っ。頼む。せめて、せめて最後位は、見届けさせてほしい」
「了解しました」
くまっぴょろん、お前は……本当にただの魔物に戻ってしまったのか?




