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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その演奏会で何が起こったかを彼女は知らない
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その楽器の存在を、音楽家すら滅多に知らない

 長い、本当に長い順番待ちだった。

 リエラはただひたすら控室でえづいていた。

 リエラの代わりという訳じゃないけど、僕らはしっかり演奏会を見させて貰った。

 見たような楽器もいくつかあった。


 あの、何て言うの、ホルン? なんかラッパがカタツムリみたいに丸まった奴。

 この辺りはラッパ関連の楽器がよく使われているらしい。

 あとはハープとかかな。


 変わったところでは縦置きの太鼓みたいなのをタムタムタムタム叩きまくってる人もいた。

 ちょっと南国風の肌の黒い人だったけど、ノリが良かったので評判は良かった。

 ああ、マラカスっぽいのもあったな。かなり不評だったけど。


 他の楽器と組み合わせられれば良かったけどマラカスだけでタムタムさんの後はキツかったようだ。

 他にも楽器を持たずアカペラを挑むツワモノもいた。

 しかも無駄に上手いんだこれが。

 貴族のお兄さんだったけど、どうやら音楽家を目指している人らしい。


 そんな、無数の貴族と代理たちが演奏を繰り広げ、聞いている人たちも疲労がピークに差しかかっていた頃。ついにフィオリエーラが壇上に上がった。

 リエラ達の代わりとばかりに見学に来たアメリスとアルセに視線を向け、ニヤリと微笑む。

 手に持っているのは……リエラのとこに置かれていたバイオリンと同じモノ!? パクリやがった!?


 しかも練習をしていたのだろうか? 物凄く上手い。

 これは予想外だ。これではリエラがあのバイオリンで演奏しようにもフィオリエーラと比較されてしまう。

 下手すればフィオリエーラの凄さをリエラが弾くことで補強させる結果になりかねない。

 まぁ、バイオリンは弾かせないんだけどね。


 そして、続いてダンデライオン家代表宮廷楽師のご入場。

 上手い曲だ。

 僕はそんな曲を聞きながら控室へと向う。

 そろそろ準備に入るはずだ。


 そして控室に入った僕が見たのは……

 後光の差したリエラ様でした。

 初め見た時本当にぱぁっと後光が差したような穏やかな顔のリエラが座禅を組んでいた。

 先程まで土気色でげぇげぇやってたのに、一周回って悟りの境地を開いた顔をしている。


 横にいたネッテの方がむしろげっそりしていた。

 これ、一体何が起こったの?

 アルセも首を傾げている。


「ああ、アルセ、来たのね……リエラは一応、体調万全よ」


 いや、どう見ても異常です。


「そろそろ時間ですね。参りましょう皆様方」


 凄く優しい口調でリエラが答える。

 なんだこの浄化されそうな優しい声は!?

 リエラがリエラじゃなくなって……ちょぉぉ!? リエラ、待ってリエラ、それは死亡フラグだよ!!


 なんとリエラはなんの戸惑いも無くトライアングルを手にして動き出そうとした。

 慌てて僕は彼女を押し留める。

 あら? と心底不思議そうに小首を傾げるリエラ。

 僕がトライアングルを取り上げポシェットにしまうと何をする気ですかといった困った顔をする。


 僕は彼女の肩を両手で掴む。

 ポンポンと二回叩き、そしてアルセの身体を抱え上げると親指をアルセ自身に向けて僕に任せなっ、とジェスチャーをする。


「お任せしても、いいのですか? 私はもう、トライアングル一本でも立派に務めあげるつもりだったのですが」


 口調、口調がおかしくなってる!?

 正気に戻ってリエラさん。

 その姿は神々しいまでに素敵だけど元のリエラさんに戻ってください!


 だが、僕の声は届かなかった。

 リエラはその様子のまま戦場へと歩きだす。

 心配そうに彼女の後を付いて行くネッテにアルセを預け、僕はリエラと共に舞台へと向うのだった。

 いくよリエラ。君を国外放逐になんてさせない。僕が代わりに演奏する。君は、ただそこにいてくれ! 僕が完全に演奏できるのは二つだけだけど、全力で感情込めて演奏するから!!


 リエラの登場。

 丁度演奏を終えた宮廷楽師がこちらに一瞥して舞台を後にする。

 それににこやかな笑みを返してリエラは聖女のように堂々と舞台へと姿を露わした。


 リエラの神々しいまでの姿を見た人々は感嘆を洩らす。

 まるでアイドルが現れたような凄い熱狂が僕にまで伝わってきた。

 このプレッシャーは半端ない。

 でも、リエラは既にそのプレッシャーで潰される場所には存在しない。

 全ての重圧から解放された聖母の笑みを湛え、皆に笑顔を振りまいていた。


 しかし、何も持たず壇上に上がった少女に、人々は首を捻る。

 またアカペラが行われるのだろうか?

 そんな思いがよぎっていた。

 しかし、次の瞬間、彼らは驚きに目を見張る。


 笑顔を振りまく少女の背後に、突如漆黒の重量物が出現していた。

 グランドピアノ。

 遥か昔に存在したとされる伝説級の楽器である。

 現存では再現不可能とされる、民衆はおろか、音楽家たちの間ですら滅多に知る者の存在しない楽器。

 宮廷楽師も国王の傍でそれを見て眼を剥いていた。


 僕はリエラを椅子に座らせる。

 調律代わりに適当に弾いて貰う。

 後はそのままの状態を維持して貰えばいい。


 さぁ始めよう。

 僕の演奏会を。

 志半ばで諦めた演奏会の続きを。

 親に言われるまま始め、気付いたら弾ける曲はその時好きな二つだけで、有名な楽曲は覚えきれなかった。演奏会にでて、恥を掻いて止めた。でも、今は弾く曲は決まってない。だから……

 気持ちを込めて弾くよ。

 リエラを救うために!

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