その演奏会の期待値を、彼女は知らなかった
一部飯時に不適切な表現が使われております、御了承下さい<(_ _)>
「お、終わった……」
表彰式が終わり、リエラは僕にもたれかかるように力尽きていた。
あまりの緊張と絶望で既に彼女の身体はぼろぼろだ。
顔が土気色を通り越してなんかもう死人になっている。
死甦水飲ませたら治るかな?
「演奏会まではもう少し掛かるみたいね。大丈夫リエラ?」
演奏会のために控室が用意されていた。
アメリスが本来いるはずの控室にいるのは、リエラと葛餅とネッテ、そしてアルセと僕だけだ。
バズ・オークとエンリカは娘を引き取りにいったので、そのまま宿でゆっくりするらしい。
クーフはネフティアと屋台回りに出掛け、辰真はツッパリたちと遊びに行ってしまった。
カインはと言えば、なんかギルドに呼ばれていろいろと東西奔走してるらしい。
「ごきげんよう」
と、控室にアメリスとメイドさんがやって来る。
相変わらずぎゅっと抱きしめられたにっちゃう・つう゛ぁいがむっちむちになっている。
あれ、締めすぎじゃないかな? なんか餅を握ったみたいになってますが。
「あら? また珍しい楽器で参加するのね?」
「アメリスさん……」
「これは練習あまり出来てないから無理よ。リエラの実力で出来るとすれば、こっちの三角の棒に金属棒を打ち付ける楽器かしら」
と、ネッテが持ちだすのはトライアングル。ティーンと切ない音が響き渡る。
さすがにアメリスが怪訝な顔をした。
これはない、といった顔をしている。
「国王陛下の前で恥を掻くつもりですの? 止めはしませんけど、おそらくもう町には寄りつけませんわよ」
辛辣な心配でした。
そんなことは理解してるんですよアメリスさん。
リエラがさらに精神的ダメージを受けて追い詰められて……
「うぷっ」
ちょ、リエラさん!?
慌てて僕はリエラから逃げた。
一瞬の差でした。
えろえろえろ……となんか表現したくない状況に……
リエラさんプレッシャー掛かり過ぎ!?
これはもう、無理だな。
「だ、大丈夫リエラ!?」
「へ、平気です。あは。私、の死刑判決はいつですか?」
既にリエラの中では演奏会イコール死刑執行みたいな状況に!?
「それがね。あなたたちが今注目の冒険者パーティーだってことで、急遽トリを飾ることになったようね。順番的にはダンデライオン家の擁する宮廷楽師が演奏した後の演奏よ」
「おえぇっ」
「リエラぁぁぁぁっ!!?」
もう、リエラさんをいじめるのは止めてくださいっ。
彼女のMPはもう0よっ!!
しばらくネッテがリエラの背中をさすっていた。
その間にメイドさんがてきぱき嘔吐物の処理をしています。メイドの鑑だ。
ちょ、アルセ、木の枝で突かない。そればっちぃから。そんな満面の笑顔浮かべてもダメ!
ほら、メイドさんの邪魔してないで、おわっ。枝振りまわすなっ。飛び跳ねたらどうする気だ!?
慌ててアルセから木の棒を叩き落とす。
メイドさんはそれを目敏く見つけて即座に回収、ゴミとして処分してくれた。
リエラの吐き出した物に興味津々のアルセを抱き上げて遠ざけ、リエラとネッテのもとへ向う。
気分悪そうなリエラ。困った顔のアメリス。
こいつに頼んだの失敗だったかしらみたいな顔はしないであげて。リエラは精一杯闘ってるんだよ?
「ここですわね。ごきげんようアメリスさん」
そしてここで現れるフィオリエーラ。
お前マジ空気読めないな。
KYお断りですよ!!
パンダリーネ共々やってきたフィオリエーラは部屋の状況を一瞥するなり高笑いを上げ始めた。
その声でようやくリエラが顔を上げる。
なんか見覚えのある人物が目の前にいるのに気付いて、ああ。と気弱な声を発した。
「なかなか見どころのある冒険者がトリを飾るというから見に来てみれば、これはもう終わってますわねアメリス。今回も私の勝ちなのかしら?」
「口が回りますわねフィオリエーラお姉様。なんだかやられ役みたいで微笑ましいですわ」
「なんですって?」
ちょ、なんか不穏な空気が!?
しばらく睨み合うフィオリエーラとアメリス。
気のせいかにっちゃう・つう゛ぁいも臨戦態勢に入った気がします。
止めて、ここで突撃したら大惨事だよ!?
遠くの方から音楽と声が聞こえだす。
もう始まったのか。
死に体のリエラとネッテを残し、僕らは自然と会場の方へと顔を出しに行く。
やはり始まったようだ。
何か横笛みたいなのを吹いている男性と女性が先程まで表彰式に使われていた舞台に立ち、女性が自分の歌を披露している。
って、演奏会なのに歌なんていいの?
なんかズルいな。
でも、いいな。歌が入るだけで華々しく見えるや。
演奏会は4時間程続くらしい。
そしてリエラの演奏はその最後の時間である。
フィオリエーラ、宮廷楽師の後に最後を飾るのが彼女の演奏なのだ。
トライアングルで幕を閉じる? ブーイングの嵐どころか暴動が起きるわ。
これはやっぱり、あれしかないか。




