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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その演奏会で何が起こったかを彼女は知らない
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その表彰の最功労者を、民衆は知らなかった

 僕たちは緊張しながら壇上に上がった。

 リエラが土気色の顔をして呆然としていたので手を引いて先導してあげる。

 リエラ死ぬな。栄光への道だよ。今死んでどうするの!?

 いつ死ぬの? 今でしょ!! なんて状況じゃないよ今はっ!


 アルセたちも壇上に上がる。

 その姿を見た民衆がああ、あのチームか!

 といった顔をした。


 戸惑いもブーイングもない。

 むしろ納得した雰囲気が普通に場を支配した。

 というか、笑顔のアルセに手を振る女性陣が見受けられる。

 頑張れリエラ、倒れないよう支えとくからもうちょっと踏ん張って!


「まず、このパーティーのリーダー、カイン・クライエン!」


 カインの功労はエリックさんと一緒だった。ネッテが国王に報告したので僕らの功労は誰がどれ程かしっかりと調べられているようだ。

 第三部隊を率いて第一部隊救出を行ったとか付け加えられていたけど。

 そんなことしてたのカインさん? あ、いや、戸惑ってる。この話は寝耳に水だな。


「ネッテ・ルン・マイネフラン、前へ」


 カインが下がるとネッテが国王の前に向う。

 ネッテの功労はカインと同じだ。

 ただ、民衆の反応は少し違う。

 何しろ家柄が司会者によって暴露されたのだ。

 誰からともなくマイネフラン? と呟きが漏れていた。


 ネッテが少し複雑な顔をしていたが、国王はにやにやとしていることから、彼女の名を暴露したのはワザとらしい。

 王城に戻らないじゃじゃ馬娘に対する悪戯でも成功したような顔だ。


「クーフ、前へ!」


 ネッテの次に呼ばれたのはクーフ。

 大柄のミイラが動きだし、国王と対峙する。

 どう見ても見下ろす形になっていたので、クーフが国王の前で膝を折って臣下の礼をとってみせた。


 魔物のような容姿ながら、彼は魔族として紹介されていた。

 一応、元人間ですよ。しかも王族。

 彼の功績はカインたちと一緒だ。

 今回クーフは目立った功績が無かった。ゴブリンを蹂躙してただけだ。討伐規模は多分一番凄かったと思うけど。ああ、レッドオーガ倒したくらいか、功績は。

 ネフティアがぶった切りまくってたからそこまで強い敵だとは思えないだけか。


「エンリカ・エル・ぱにゃぱ前へ!」


 クーフと入れ替わるように前に出るエンリカ。

 彼女の功績は大してない。でも、出産直後に参戦し、魔王とも対峙した姿を司会者がまるで英雄か何かのように民衆に話して聞かせる。

 すごいな。まるで見て来たかのようだ。

 ゴブリンキングに矢を突き立てるさまはもはやどこの英傑だよと感心するほど話し方が凄かった。

 あれではただのエルフではなく本当に救国の英雄だ。


 誰も彼もが国が崩壊すると諦めた時、ただ一人、彼女だけは自分たちの姫を守るように立ち、ゴブリンキングに最後まで矢を放ったとか、英雄譚みたいで民衆が聞き惚れてたぞ。

 これからエンリカは街中歩くの大変だな。


「バズ・オーク前へ!!」


 司会者も熱が入ってきたのだろうか、声が張りあげられている。

 ここからはなんか凄いことになりそうだ。

 照れながら戻るエンリカに代わり、威風堂々歩きだすバズ・オーク。

 右瞼に走る剣の痕が歴戦の英傑を思わせる。


 オークだ。誰かが言った。

 魔物として危険視される存在なのだ。皆が不安感を覚える。

 なにせ粗暴な魔物が国王陛下の御前に現れたのだから。


 しかし、彼の功績が司会者に話され始めると、民衆の視線は一変した。

 猜疑心溢れる眼から英雄を見るような瞳に変わる。

 それもそうだろう。

 彼の今回の功績は大きい。

 なにせ南門に向えば弱小騎士団を指揮して精強な兵士にしてしまい、ゴブリン達を一掃。

 現れたオーガを相手に一人切り結び打ち倒す話は司会者の身振り手振りで盛大に誇張され、北門に向えばゴブリンキングと闘い町を守るのに一役買った英雄として伝えられたのだ。


 司会者の声が止まる頃には盛大な拍手でバズ・オークは迎えられていた。

 国王から賛辞を受けて照れ顔のバズ・オーク。それに代わるように前に出たのは……


「リエラ・アルトバイエ前へ!!」


 リエラはなぜかカインに言われたのではなく、自ら王国の危機を察知して一人王国を救うために舞い戻った英雄にされていた。

 勇敢にゴブリンマザーのいる北門へと向いゴブリン、オーガを蹂躙したとか。

 うん、それ全部葛餅の功績だ。


 身に余る功績を賛辞され、土気色の顔をさらに青白くしたリエラが僕に支えられながら元の場所に戻る。

 頑張れリエラ。まだまだ先は長いよ!

 表彰式はもうすぐ終わるけどね。


 次に前に出たのは辰真。

 彼の功績は凄まじい。

 リエラと共に北門に向い、ゴブリンマザーと対峙、敗北はするものの、部下のツッパリたちによりゴブリンマザーは撃破され、さらに絶望に沈みそうなエンリカを救うため、上位進化してゴブリンキングと互角の闘いを行ったことを事細かに説明されていた。

 特にゴブリンキングとの戦いは一層熱の入った司会者の話で、なんかそのまま辰真がゴブリンキング倒すんじゃね? ってぐらい圧倒的になっていた。


 輝かしい栄光を讃えられ、戸惑いながら頭を掻く辰真。

 臣下の礼とか出来てないけどそこは魔物だからという理由で見咎められることはなかった。

 辰真が戻ると、ネフティアが呼ばれた。

 自分も呼ばれると気付いてなかったのか、ネフティアは首を捻りながら国王の前に。


 司会者がネフティアの功績を讃える。

 東門に颯爽と現れオーガとゴブリン軍団を蹂躙せしめた現世に降臨せし美しき戦女神。

 その美貌と神々しき姿を存分に語った司会者。

 南門でもオーガにレッドオーガと一人で無双していた話を大げさに語っていた。

 周囲を見れば、どこかで見たようなお婆さんがありがたやとか呟きながら拝んでいらっしゃる。

 しかも騎士団の連中も似たように崇拝っぽい視線を向けてるし。

 教団でも創設したのかあんたたち……


「そして、彼らのパーティーに存在する最高の功労者を発表しよう!」


 少し溜めて、司会者は厳かに告げた。


「その姿は最弱なる者に似ていた。誰も彼もそれが強力な存在であると知らなかった。だが、彼の隠された実力はついに日の目を見ることになったのだ! 採掘されるだけだった存在が動きだし、ついに魔王ゴブリンキングを打ち倒す程の実力を持った! 紹介しよう! この度我らが国を救った救国の大英雄にして新種の魔物! ミミック・ジュエリーの葛餅様ッ!!」


 なぜか葛餅だけが様付けされていた件。

 リエラの頭に乗った空色葛餅がぷるんと震える。

 理解しているのか居ないのか、リエラから離れる気配が無いので、僕はリエラを連れて再び前にでる。


 まるで自分が賞賛浴びているような気分なのだろうか、リエラが物凄く辛そうだ。

 葛餅はまさに、救国の英雄だった。

 何せ全滅に等しかった状況で敵の首魁を討ち取ったのだ。

 オリハルコンチェーンソウで一刀両断した姿は、見た者から伝えられ、もはや英雄譚として物語みたいになっていた程である。


 街中では吟遊詩人が歌い、人形劇では鉱石勇者の伝説とかいう題で子供たちに人気を博している。

 今のところ、一番の出世頭だろうか。

 そう、誰もが思っていた。


「そして最後にぃっ。アルセ姫、前へ!」


 アルセが普通に姫扱いされてました。

 アルセは直接的な闘いは行っていない。

 サポートとして東門でマーブルアイヴィを使ったくらいだ。

 なのに、司会者はかなりの功労をあげつらった。


 曰く、ツッパリを率いゴブリン討伐に参加した。

 曰く、マーブルアイヴィを使い東門のゴブリンを一掃した。

 曰く、この類い稀なる英雄たちをこの国に集めてくれた。

 ツッパリたちも、葛餅も、戦乙女も、バズ・オークも、アルセがいたからここに集まり、彼女の指示で国を守ってくれたのだと、なんか拡大解釈されてました。

 しかも、前からアルセがこうなると知っていて、わざわざ苦労して英雄たちを集めてくれたとかよくわからないことに。


 いや、アルセに先見の明とかないから。基本欲望に忠実に日々を生きてますから!

 そして最後の最後に何もやっていないはずなのに、全部の功績がアルセがいたからということにされて賛辞を送られた。

 国王様曰く、オリハルコン像が立つらしい。


 町の中央の噴水にアルセ像だって……

 しかもこの国の国獣としてアルセイデスを登録するとか。

 国獣ってなんぞ? そんな大層な生物じゃないですよ?

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