その魔物たちまで行進するのを、民衆は知らなかった
南門から凱旋するように騎士団が進む。
ファンファーレが鳴り響く。
ほら、やっぱりラッパみたいなの、今も使われてるじゃん。
これ使ってたらそれなりに見栄えのいい音楽出来てたってリエラさん!
これは……紙吹雪かな? 町中に降り注いでいる。
どうも宮廷魔術師が風に乗せて町中にばら撒いているようだ。
こうやって見ると、本当に国を挙げての祭りが始まるんだなって期待が膨らんでいく。
騎士団が全て南門を抜け、冒険者たちが歩きだす。
何チームかは辞退していたが、元々参加人数が多かったのと、チームやクランの人数で嵩増ししているので騎士団と比べても十分な人数が行進に参加しているようにも見える。
ギルドの方でも、新たに昨日までにやってきた冒険者に依頼を出して行進に参加して貰ったりしているらしい。
それでいいのか凱旋……
冒険者最後尾で待っていたカインたちも歩きだす。
僕はアルセとネフティアを連れて歩きだすのだけど、これ、アルセ達見えないよね?
「む? ネフティア、その状態では周囲が見えないだろう」
気付いたクーフがネフティアを肩車した。
それを見たアルセが僕に視線を向けて来る。
いや、さすがに肩車は……やります。やらせていただきます。だからそんなモノ欲しそうな目で見ないで。
純真無垢な円らな瞳は汚れた僕には目の毒なんです。
アルセを肩車する。
おーっと感嘆を洩らすアルセ。
当然、僕は見えないのでアルセが宙に浮いて見えています。
「ぶひ!」
べしっとバズ・オークに叩かれた。
意味が分からない僕からアルセを奪い取り肩車を代わりに行うバズ・オーク。
やっぱ、僕のことバレてんじゃないか?
でも、バズ・オークは周囲から僕を隠すかのように、目立つ行動を嗜めて自分がアルセを肩車することにしたようだ。
「透明人間さん、珍しく御守から解放されましたね」
アルセの行動に気付いたリエラが近づいて来て小声で告げる。
ほんとにね。これでゆっくり祭りを見れる。
そんな僕の横をリエラが歩きだす。
その顔は青い。物凄く青い。
これから地獄が待っていると分かっているのだから仕方ないだろう。
なんかもう青い通り越して蒼白だ。
うーん。何とかしてやりたいけど僕には何も……あ、そう言えばアレがあったか。
でも、こっちの世界でいいのかねあの曲弾いてしまって。
まぁ、いっか。それならリエラも助かるだろうし。少なくともそれなりの演奏にはなるだろう。
南門を通過する。
物凄い歓声が響き渡る。
が、次の瞬間戸惑いの声が波のように広がりだした。
僕らの背後から行進して来た生物を見たからだ。
右側にリーゼント頭のツッパリ達。左側には改造セーラー服のレディースたち。
魔物の一糸乱れぬ行列を見せつけられ、町の住民たちは呆気にとられてしまっていた。
しかし、それも一瞬。一度ツッパリ大行進を見ていた住民たちが歓声を上げ始める。
ポケットに手を突っ込みながら周囲に威嚇の視線を飛ばしまくるツッパリ軍団とレディース軍団。
子供が泣きだし老人が持病の癪がと騒ぎ出すが、大した被害は無かった。
一部の子供等は指を咥えながらツッパリの間近で行進を呆然と見送っていたり、女の子が楽しそうにうらぁ。と叫んで親に注意されていた。
実は結構子供に人気のツッパリたちでした。
レディースは可愛いものには目が無いようで、一部雑貨屋で買ったらしいデフォルメされた動物のぬいぐるみを肌身離さず抱きしめているレディースも何名かいる。
お金、どうやって稼いだのだろうか?
やっぱり、巻き上げたんですか?
中央を通り過ぎる。
すでに舞台が整っていて、リエラがここで死ぬのかぁ。とかよくわからない呟きを洩らしていた。
遠い目をしていたのは末期症状だろうか?
中央通りを舞台を避けて王城まで通り、そこから左右の二手に分かれる。僕はアルセと別れ、リエラと共に右側の貴族街を通ることに。背後には辰真。
一応アルセと辰真がツッパリたちの信頼が篤いということで、レディース達をアルセが、ツッパリを辰真が率いることで行進を成功に導くことにした。
アルセ大丈夫かな? バズ・オークがいるし、大丈夫だよね。
貴族街を行進。凄い豪華な町並みだ。
流石上流階級。見物に来ている女性陣は化粧が厚く、日傘に扇子、コルセットのドレスなどなど、似たようないでたちのおばさまが多い。
一部太った魔物が見えるが、アレは人間なのだろう。周囲の貴族と似たような服を着ている。
ゴードンさんが一際綺麗な夫人さんに手を振っていた。
すごいデレデレだ。年いったおっさんがデレる姿はあまり見たくない。
あ、アメリス発見。
僕の視線が合うと、リエラと目が合ったと思ったのだろうか? こちらににっちゃんをぶんぶんと振って見せた。耳を持っての荒行である。
ちょ!? にっちゃう・つう゛ぁいが物凄い速度で左右に振られているんですけど!? アレ大丈夫なの!?
にっちゃんは物凄く迷惑そうな、でも諦めたような顔で無様に振りまわされていた。




