その祭りがどうなるのかを、僕らは知らない
「え? 本気っすか?」
コリータさんに呼ばれ、僕たち一行は冒険者ギルドにやってきた。
なんか長話になるからと応接室に連れて来られた僕らは、ギルドマスターとコリータさんを前に話を聞いていた。
そこで、概要を聞かされたカインは頭を掻きながら面倒そうに言った。
「ええ。本当です。国より、本日用意、明日にカーニバルを行うそうです。急なことですが商業ギルドでは既に屋台の設営準備や参加者を募集してますし、冒険者ギルドには祭り中の周辺警護依頼が来ています。といっても冒険者内でとくに活躍された方は国王陛下により中央街で表彰がありますので、カインさんたちは式典に参加していただきます。あなたのパーティーだけですよ。魔物を含めて全員が表彰されるのは」
しかも、表彰される一番の功労者はリエラの頭の上に乗っかっている葛餅様である。
魔物が最優秀な表彰されるって、いいのでしょうか?
「ついでに、貴族連中が折角だからと演奏会の日付をその日にしようと報告したらしくて、国からそちらの警護依頼も来てます。それと、リエラさんに依頼変更の指令が……」
と、更新された依頼書を渡すコリータさん。
どうやらリエラが受けた指名依頼、演奏日が変更になったようです。明日に。
演奏の練習? 出来てる訳ないじゃないですか。ねぇリエラさ……
「ちょ、リエラ!? リエラっ、気をしっかり!」
絶望して青い顔のリエラは依頼書を見たまま微動だにしなくなっていた。
余程ショックだったのだろう。
このままでは本当にトライアングル片手に演奏会参加の可能性すらでてくる。
「今回の演奏会、中央広場で行われるそうよ。しかも国王様も拝聴されるそうで、貴族と平民がこぞって演奏を聞くなんて初めてのことだからどうなるのかしらね」
大ブーイングの予感しか致しません。
それを察したリエラが遠い目をして虚空を見上げた。
「父さん、母さん、リエラは……先立つ不孝をお許しください」
「ちょ、リエラ。気をしっかりっ。正気に戻ってっ!!」
ネッテが必死に引き留めるけど、リエラはふっと儚げに微笑むとそのまま気を失った。
リエラさーーーーーーん!!?
「正直トドメを刺したようで悪いけど、事実だから」
「しっかし、ゴブリンに町が蹂躙されなくて良かったが、リエラにとっちゃ災難だよな」
「しかも……表彰の後なのよね。演奏会」
「そりゃあ……」
カインも気の毒そうに気絶したリエラを横目で見る。
表彰で注目を浴びるであろうカインパーティー。そこに存在するリエラが、後の演奏会でアメリスの代理演奏を行う。
演目はバイオリンが使えないのでトライアングル。
今回の功労者として注目される少女が手にしているのは三角形の棒。それに棒を接触させてティーン。もう一度ティーン。ティーン……場内静まり返る。空しく響くトライアングルの音。
そして演奏はひたすら一定のリズムで刻まれる金属同士の接触音のみ。
大ブーイングの嵐は確定だった。
たとえバイオリンで出たとしても曲にすらならないそれではもはや恥を掻きに行くとしか思えない。
貴族の前だけじゃないのだ。民衆も見に来るし、ネッテのお父様方もいらっしゃる。
野外で音も響きにくい。
そんな場所で、恥を掻く。分かっていながら恥を掻きに行く。
それが、はたしてどれ程のプレッシャーになる事か。
下手したらもう、この街には寄りつけない。
しかも有名人になった後だろうから、彼女のご両親にまで迷惑がかかると思われる。
絶対に、失敗できない一世一代の大勝負で恥を掻く。
そんなこと、できるはずがなかった。
だから、そのプレッシャーに耐えかねたリエラが気絶したとして、一体誰が責められようか。
僕らはただ、涙を流しながら絶望に沈むリエラを見つめるしかできなかった。
僕らは、こういう事に対して無力です。
「で……で、ですね!」
空気を入れ替えるようにパンっと手を叩いたコリータがカインに視線を向ける。
「今回のカーニバルではツッパリたちも行進に参加してほしいそうなんですよ。危険と思われた魔物が一糸乱れぬ行軍を行うという凄い現象を、もう一度町の人々に見せたいって、お願いできませんかね?」
まぁ、アルセ連れて歩けば問題は無いだろうけど。
それと辰真の方は話を聞いてるから理解は出来てると思うけど。
他のツッパリたちはどうなのだろう?
「どう、辰真。お願い出来る?」
ネッテの言葉に頷く辰真。話はしてみると了解した。
せっかくだから後でアルセと一緒に付いて行こう。アルセ愚連隊としての総長がいる方が話が通りやすいだろう。ついでにレディースたちも参加するかな?
「じゃあカインさんパーティーは冒険者列最後尾を歩いて貰いますね。その後ツッパリが最後に続くと、ギルドマスターこれで国に報告書出しときますね」
「うむ」
ギルドマスター……今回話したのその一言だけですよ?




