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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔王の脅威を僕ら以外知らない
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その英雄の存在を、彼らは知らない

 空中に浮かんでいた葛餅は、重量に耐えきれず僕が倒れた事で地面に落下する。

 というか、もう、殆ど地面に付いてたから僕が装備してる意味が無い状態で、葛餅自身がゴブりんにトドメを刺したみたいなもんだけど。


 実際に、大急ぎで引き返してきたカインたちが見たのは、身体を伸ばした葛餅がオリハルコンチェーンソウを使ってゴブりんの首を切り落としたところだった。

 想像を超えた状況に、沈黙が、全ての時が止まったような空白が出来た。


 少し遅れ、司令塔を失くしたゴブりんの身体が大地に伏す。

 その音で、我に返った騎士団が歓喜の叫びをあげていた。

 順次我を取り戻す人間たち。

 葛餅の偉業を湛えながら気合いを入れなおす。


 次に気を取り戻したのはゴブリンたちだった。

 ゴブリンキングにゴブリンマザー。自分たちを指揮する存在が共に討ち取られた以上、彼らは烏合の衆だった。

 まだ1000匹以上存在していたし、オーガやレッドオーガの姿もあったが、皆慌てたように逃げ出していた。


「動ける者は追撃に移れッ!! 回復魔法が使える奴は重傷者から優先して回復! 急げ! ゴブリン共を今この場で殲滅してしまえ!! 生かせばまたゴブリンキングが生まれると思え!!」


 騎士団のおエライ人が即座に号令し、部隊を率いて動き出す。

 付いて来ていた冒険者たちも動きが良い。ベテランが何人もいることからして、おそらくゴブリン討伐第一部隊の人たちだろう。

 ついで、カインたちが慌てたように葛餅に駆け寄ってきた。


 地面を這っている葛餅は、チェーンソウのスイッチを押して電源を止める。どうやらネフティアが使ってるのを見て扱い方は覚えてしまったようだ。ほんと、高性能だね葛餅くん。

 いち早く駆け付けたカインがすげぇな葛餅と声を駆け、ネッテが葛餅を抱き上げる。


「よくやったわねくずもち。あなたがゴブリンキング倒したのよね。大金星よ!」


 ぷるぷる震える葛餅を、ネッテは撫でる。なんか葛餅も嬉しそうだ。

 そして、クーフが遅れてやって来て葛餅に視線を合わせる。


「まさかゴブリンキングを倒すとハな。お前は英雄だくずもち。ミミック・ジュエリーにしておくには勿体無い働きだな、勇気ある者よ」


 クーフのべた褒めに、葛餅は本当に焼かれた餅みたいにぷくっと膨れて左右に揺れ出した。喜ぶ犬の尻尾みたいだ。

 そんな仲間たちにちやほやされる葛餅の姿を、ツッパリたちに支えられて立ち上がった辰真は呆然と見ていた。

 膝を突いて前のめりに倒れ、あれ? 自分、何のために闘ってたんだっけ? といった顔をしている。


 そりゃ、まぁ、ごめん辰真。お前の独壇場だったのに横から掻っ攫うようにしてしまって。

 折角の功績全てが葛餅の物になってしまったような状況に、そして僕らの殆どが気絶していたせいで起きた時には葛餅がゴブリンキング倒したことを教えられて納得してしまっている。

 リエラとかバズ・オークとか……辰真の功績? え? 彼起きてたの? 状態だ。


 辰真は両手を付いてOTZ。

 折角皆を守ろうと頑張った自分の闘いは、闇に葬り去られたのである。

 その心中は、リーゼントが黒から赤、赤から黒に戻り、元のツッパリに戻ってしまったことから容易に察せられるだろう。

 マジごめん。まさか僕が辰真の自信を砕くことになってしまうとは。


 ツッパリたちが俺らは総長の晴れ舞台、しっかり見てやしたぜ。みたいに励ましてるけど、辰真の心傷は深かった。

 さらに一回り小さくなってブサイクな顔に……ぎゃあああああ!? 辰真が下っ端に堕ち込んだ!?


 そこへ、アルセがやって来る。

 自分の力不足とあんまりな結果に嘆く辰真の頭に手を置くと、慰めるように撫でていた。

 それに気付き、辰真は顔を上げる。

 そこにあったのは笑顔のアルセ。


「おー♪」


 それはまるで、私は見ていたよ。あなたの活躍を。

 かっこよかったよ。そう言われているようだった。カシャッ。

 その笑顔を見ただけで、辰真の姿が再び光り輝く。

 元のツッパリ姿に戻った辰真は、漢泣きしながら改めて緑の姫に忠誠を誓ったのだった。


 アルセ……僕の知らない間に成長したね。

 父さんは、父さんは感涙で前が滲んで見えないよっ。

 そんなアルセたちのもとに、エンリカ、そしてネフティアがやってくる。


「ありがとね辰真。あなたの御蔭で私達は助かったのよ。私とアルセちゃんを救ってくれたのは紛れもなくあなただわ。確かに、トドメはくずもちに持ってかれちゃったみたいだけどね」


 最後に苦笑して、エンリカが辰真を立ち上がらせる。

 そこにネフティアがグッドマーク。こいつ、途中で意識取り戻して見てやがったな。

 じっと見つめていると、視線を感じたのだろうか、ネフティアはさっと僕から顔を逸らして口笛を鳴らそうとする。でもやれてなかった。


 大方ゴブリンキングの攻撃が強過ぎてこれ以上喰らいたくないとか死んだふりしてなんとかしようと思ってやがったのかもしれない。それとも僕みたいにチャンスを狙ってたのかな?

 いや、あの様子からしてそれはまずないだろう。

 むしろ油断させて自分だけ逃げるつもりだったのかもしれない。

 ネフティア、意外とせこいぞ。今度から強敵相手に敵前逃亡しないよう見張っとかないと。

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