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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔王の脅威を僕ら以外知らない
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その絶望を、僕は知りたくなかった

「GAAAAAAAAAAAAAA!!」


 咆哮が来た。

 ビリビリと大気を震わせる大声に、エンリカがびくりと動きを止める。

 ネフティアは気にせずゴブりんに斬りかかる。

 バズ・オークもリエラの無事を確認し、地面に寝かせると、アルセソードを手にして走り出す。

 葛餅がリエラの身体を下から持ち上げゆっくりと移動を始めた。

 どうやら彼は危険を感じてリエラの背中辺りに逃げこんでいたらしい。なんて奴だ。


「こ、こんな威嚇でぇッ!! はあああああああああああああああああッ」


 エンリカの女の執念発動。というか、これがアレか。乙女の咆哮か。なんか怖いっ。

 気合いを入れて弓を引く。

 最後の一矢に全てを掛けて。射る。


 身体中に矢が突き立ったゴブりんは、気にせず剣を振ってネフティアの攻撃を受けて行く。

 技量的には同じぐらいだろうか?

 僕らから見ても物凄い攻撃の応酬で、手出しする事すらできない状況です。


「ブヒッ!」


 そんな戦場に、臆せず突進するバズ・オーク。

 アルセが見ているためかその動きはかなりいい。

 渾身の一撃がゴブりんのわき腹を捉える。

 さらにエンリカの一撃が側頭部を貫通。

 ネフティアが続くようにゴブりんの肩に工具を落とす。


 耳障りな音と共にゴブりんの肩口に傷が付く。が、そこまでだった。

 ぎりぎり間に合わなかった魔剣に受け止められ、跳ね上げられる。

 両腕共に真上に跳ね上がったネフティアに襲い掛かるヤクザキック。


 ネフティアが吹き飛んだ。

 さらに返す刀で薙ぎ払われた魔剣の攻撃。バズ・オークが慌ててアルセソードで受ける。

 だが、威力を殺しきれずにこれもまた吹き飛ばされ、そして……折れた緑の剣先が宙を舞った。

 アルセソードが……折れた?


「あなたっ!!?」


 不味い、非常に不味い状況です。

 吹き飛ばされたネフティアは復活の気配を見せない。

 バズ・オークは折れた剣を支えに立ち上がり、なんとか構えを取るが、その動きは満身創痍。

 一歩踏み出そうとしてバランスを崩し、再び倒れる。

 悔しげに呻くが、立てない程にダメージを負っていた。


 周囲のゴブリンたちが彼らに群がらないのは王が闘っているからに過ぎない。彼が自分の闘いが終わったと周囲に言えば、きっとこれからゴブリンの蹂躙劇が始まるのだろう。

 だからそれまでに、倒すしかない。

 ゴブリンキングを、僕が!


 アイテムボックスを見る。

 あいつに効きそうな武器なんて一つしかない。

 やれるか? チャンスは一度きり、武器も一度しか使えない。


「アルセ、少しだけでいい、アレの動き、止めてくれるかな? っていっても分からないか。やるだけやってみるよ。君を守るために」


 アルセの頭を撫でて、僕は覚悟を決める。

 皆を守る。

 誰も彼も見ていなくてもいい。僕は、アルセを、リエラを、そしてこの国を、きっと守るためにこの世界に来たんだ。

 そう、思いたい。


 僕はこいつを倒すために来たんだって。

 お願いだから神様。僕に、奇跡を!

 頬をはたいて僕は走る。


 誰にも知られない存在。

 誰も気付かない存在。

 そんな僕だからこそ、たった一撃、絶対に無防備な相手に一番無抵抗な瞬間に、最大級の一撃を叩き込める。


 アイテム。取り出し……クリスタルソードッ!!

 それはまさに最高の瞬間、絶対の死角から致死の一撃として放たれた。

 ゴブりんの首に食い込みその首を狩り取るように抉り込む。


 後少し、もう1センチ。薄皮一枚の距離。

 ソレを残し、パキンと折れた。

 ゴブりんは首を少し後ろに下げて、魔剣を食いこませていたのである。

 結果、クリスタルソードはゴブりんの首を狩ることはなく、彼の持つ魔剣コルトワージュを破壊してその生涯を終えた。


「ゴブッ」


 ついで、僕の身体に衝撃が来た。

 攻撃ではなく、何だこの剣は。といった感じに振り払われた腕により、クリスタルソードの破片と共に吹っ飛ばされたのだ。


 攻撃ではなかったのでそこまで威力は無かったけれど、僕の身体が動かなくなるほどのダメージはあった。

 地面を転がり擦過傷を作る。

 ようやく止まった僕だけど、さすがにこれ以上攻撃は無理そうだった。

 寝ていたい気持ちに喝を入れてなんとか立ち上がる。


 ゴブりんは先程の一撃を警戒して周囲を見回している。

 ダメか……武器は破壊したけど、あいつ単体でも脅威だ。

 せめて、せめてネフティアが復活してくれれば……


 ネフティアを見る。

 だめだ。彼女は倒れたまま動かない。

 もしかして死んでしまったのか? そう思われる程に静かに横たわっている。

 打ちどころが悪かったのかもしれない。


 打つ手がない。

 僕らにはもう……ゴブリンに敗北するしか、ないのか?

 こんな絶望。知りたくなかった。

 こんなことなら、もっと、もっと武器を集めるべきだった。仲間を集うべきだった。力を、手に入れるべきだったんだ。


 僕は弱い。姿が見えないというアドバンテージ以外、何も無い。何も出来ない。

 こんな時こそやらなきゃいけないのに……くやしい。もっと、もっとやれることはないか?

 何か、何かあってくれ。起死回生の何か、神様っ。


 ゴブりんは未だ無事に立っているエンリカとその横に居るアルセに向い歩きだす。

 最後の敵を倒す。それで自分たちの勝ちだ。

 そう思っているのだろう、口元が歪んでいた。


 嫌だ。こんな結末は、僕は何のために来たんだ。

 こういう絶望を回避するためじゃないのか?

 お願いだ。この世界に神様が居るのなら、奇跡を。

 誰でもいい。誰か、誰か僕らを助け……


 無数に倒れた仲間たち、その一角で、は静かに立ち上がった。

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