その少女たちの危機を、僕は知らなかった
「バズ・オーク、新しい剣よぉ!」
僕は思わず叫びながらアルセソードをぶん投げた。
気分は焼き立てパンを投擲するパン工場の助手である。
ざしゅっと突き立つオーガの肉体。
それに気付いたバズ・オークは即座にアルセソードを手にして引き抜く。
引き抜くと共に転がるようにして距離を取った。
一瞬遅れてオーガの拳が宙を薙ぐ。
「ぶひっ!」
気合い一閃バズ・オークの一閃が振われたオーガの腕を切り裂く。
おおぅ、オーガの身体ならなんとかアルセソードでも切れるようだ。
というか、強度的にはオーガの一撃で破壊されかねないが、切れ味は勝っているみたいだ。
「GAAAAAAAAAAAAAA!」
「ブヒッ」
腕を肘元で斬り取られたオーガが怒りを露わに拳を振り上げる。
凶悪な一撃がバズ・オークを襲う。
バズ・オークは臆すことなく踏み込むと、思い切り上空へと一閃。
ちっと音が鳴りそうなほどに耳をオーガの拳が掠る。
殆ど当っていなかったためか、ダメージにはならなかったようだ。
逆に、オーガの喉元がアルセソードに切り裂かれる。
けど、浅い。
呻くオーガは喉元を押さえるが、数秒後にはうっすらと血がにじむ程度にくっついていた。
バズ・オークが驚いた顔をする。
「そこのバズッ。オーガの脅威は腕力だけじゃねぇ! 超回復に気を付けろ。下手な傷じゃ直ぐ復活だぞ!!」
どっかのおっさんが声を張り上げる。ソレを聞いたバズ・オークが得心いったと剣に力を込める。
オーガの蹴り。
紙一重でかわしたバズ・オークはその蹴り足を切りつける。
しかし、固い。
腕よりも太い足を切り裂くのはアルセソードでは無理そうだ。
少し刺さったところでバズ・オークは諦めてアルセソードを引き抜く。
オーガの拳、バズ・オークが剣を引き抜くと同時に頭上から襲いかかる。
不味いと焦るバズ・オーク。そこに、
「ミュ・ズル!!」
水の魔法がオーガの顔に直撃する。
突然の一撃に驚くオーガの拳に巨大な剣が襲いかかる。
クレイモアという両手剣だったと思う。
「よぉ、豚将軍、あんたもバズだってなぁ。俺はバズラック。『天元の頂』っつぅパーティーのクラン長だ。よろしくな!」
「ブヒ?」
「オラッ! エンリッヒ、オルタ、負けてらんねぇぞ! オーガをぶっ倒すチャンスだ、しっかり気張れ! ナポ、今のフォローはナイスだ。続けてくれ。ハードモットは今回後ろを気にする必要はねぇ! 存分に暴れまわれ! ベロニカ、苦戦中の奴から助けて行ってくれ! ここで俺らの存在アピールすんぞ!! マイネフランに『天元の頂』ありってなぁ!!」
どうやら冒険者パーティーが完全復活してフォローに来てくれたようだ。
かなりベテランのパーティーなのだろう。その動きは洗練されていて、カインとネッテの闘いを見ているようでもあった。
「あなた、一気に倒しましょ!」
「ブヒァ!!」
一気呵成に攻め立てられ、さしものオーガ達も成す術なく沈んでいく。
凄いや。僕やアルセが手伝う必要すらなかった。
特に一部血の海になってる場所とか……ネフティアさんやり過ぎです。
オーガばかりかレッドオーガもいたみたいだけど普通に血の海に沈んでるし、何時の間に来ていつ殺されたのか全く分かりませんでした。
おそらくバズ・オークにアルセソード投げてる背景あたりでやって来て即死したんだと思う。
しかも、自分のやることは終わったとばかりにネフティアはチェーンソウの電源を落として謎の踊りを踊っている。
見た人のやる気を10ぐらい削ぐやる気をなくす踊りだ。
なんだろう。あの動きを見てるとカバディという遊びを思い出してしまうんだけど。
動きが独特過ぎる。いや、アルセ、真似しないで。頼むからあんな訳のわからない踊り覚えないで。アルセは清いままでいてほしいんだ。
強敵は大体倒した。
後はゴブリンが数十体居るけど、第二部隊の人たちが合流しだして来たので僕らはもう用無しみたいだね。後は騎士団と冒険者連合で何とかなりそうだ。
「お願いしますっ、手が余っていれば北にっ! このままでは北門が突破されます! 誰か!!」
兵士が一人、叫びながらやってきたのはそんな時だった。
北門。それはツッパリやリエラが向った場所。辰真が居るのに危険?
僕はアルセを抱え上げる。
「アルセちゃん!? 行くのね! あなた、私は向こうへ行くわ!」
「ぶぶひ!?」
「奥さんか、豚のクセにエルフの妻とか隅に置けねェな。行って来い。こっちゃもう俺らでも十分だ」
バズラックに言われ、バズ・オークも北に向う。その横を走り去って行くネフティア。次の戦場が彼女を呼んでいるようだ。
アルセを抱えた僕を先頭に、僕らのパーティーが北門へと辿りつく。
そこで見た光景は……
青いゴブリンに首を掴みあげられ、死に掛けているリエラだった……




