AE(アナザーエピソード)・リエラたちの奮戦を僕は知らない
「ドルァッ!!」
「GAAAAAAッ」
ゴブリンマザーの拳と辰真の拳が激突する。
体格差をモノともしない辰真だが、力は拮抗しているらしい。
間違いなく、強い。
ゴブリンマザーは相手が手を抜けないと知ると、背中から棍棒を取りだした。
振るわれた攻撃を、さすがに躱す辰真。
剛腕から繰り出された一撃は、おそらく辰真でも喰らった瞬間瀕死になる威力だろう。
「ゴルァ!!」
真・メンチ怪光線が光る。
ゴブリンマザーはその巨体からは想像もつかない俊敏さでこれを躱すと、足払いのように棍棒を水平に薙いで来る。
舌打ちしながら飛び上がる辰真。
その前方から迫る巨大な拳に、さらに舌打ちしながらポンパドールを突き出す。
放電するポンパドールが唸りを上げる。が、足場のない辰真は拳の威力を相殺しきれず吹っ飛ばされた。
ゴブリンの群れに激突し、数匹を屠って威力を殺すと、頭部から流れて来た血が目に入る前に腕で拭き取り起き上がる。
ぺっと口の中に溢れた血を吐きだす。
どうやら口内を切ったらしい。
「メリエさん、援護を!」
「任せなさい! 私の活躍、後でカイン様に知らせてよ!!」
辰真が戦線離脱した間にゴブリンマザーが他の人に危害を加えないよう、リエラとメリエがフォローに入る。
「ラ・グラ!」
メリエの雷撃。ゴブリンマザーがいらだたしげに吼える。
そこへリエラが走り込む。
「はぁぁっ!!」
気合い一閃、ゴールドダガーの一撃が浅く胴を薙ぐ。
許さんとばかりに反撃の拳がリエラの頭上から振り下ろされた。
それに反応するのは葛餅。アルセソードでゴブリンマザーの拳をいなす。
しかし、浅い傷を付けただけでそれ以上食いこまない。
剣がヤバいと気付いたのか、葛餅は軟体化して剣を自分に取り込み武器破壊を逃れる。
「おるぁあああああああああああああああ!!」
威嚇・激で相手のヘイトを自分に集める辰真。ゴブリンマザーが辰真に注目すると、辰真は即座に走り出す。
邪魔をしようとするゴブリンが出て来たが、直ぐにフォローに入ったツッパリたちがこれらを撃退、漢の花道を開けて行く。
総長、任せた。あんたがやってくれ。
そんな期待を一身に受け、辰真は出来た道を一直線に駆け抜ける。
拳を握り、ゴブリンマザーのみに集中する。
「ドルァッ!!」
「GAAAッ!!」
棍棒を振り上げるゴブリンマザー。拳を引き絞る辰真。
「シェ・ズルガ!」
メリエの魔法が一瞬早く決まった。
体勢を崩されたゴブリンマザーに辰真が接敵。膨れた腹に、渾身の爆裂アッパーカット。
あり得ない程の爆音が響いた。
やった! その場の皆がそう思った。
次の瞬間、ゴブリンマザーの棍棒が振り下ろされる。
技後硬直の辰真の頭蓋に、剛腕の一撃が直撃した。
「辰真――――っ!?」
「いかん!? そこの四人、援軍、中央ギルドと別の門で闘っている皆に援軍を要請してくれ。ここがメインだ、急げ!!」
騎士団長がいち早く我に返り兵士四人に指示を飛ばす。
ゴブリンマザーは確かに大ダメージを受けたらしいが、それでもまだ闘えるようだ。
総長の仇とばかりにツッパリたちがゴブリンマザーを引きうける。
リエラは慌ててツッパリの一人に救出された辰真に駆け寄ると、回復魔弾を打ち込む。
だが、さすがに意識まで回復させることは出来なかった。
「な、なんとか生還させたけど……このままじゃ……」
「オルァ!!」
ツッパリは、辰真をリエラに任せると、自分もゴブリンマザーに対峙する。
番長になっていた辰真ですら敵わない相手に、ツッパリたちだけで勝てるはずはない。
でも、彼らは5人一組一丸となりゴブリンマザーに対応していた。
残りのツッパリたちも援護したそうだったが、騎士団たちのフォローで手一杯だ。
「騎士団長さん、辰真を後方に!」
「君はどうする気だ!?」
「魔銃を使ってツッパリたちのフォローをします。誰も、死なせないッ!」
ぱんっと自分の頬を張ってリエラは気合いを入れた。
今は、誰も頼れる人が居ないのだ。
カインもネッテもクーフも辰真もいない。そればかりかあの透明人間も。今、ここに居るのはリエラと葛餅だけなのだ。
「くずもち、私に力を貸して。皆を助けよう」
リエラは再び戦場に向って行く。
メリエを見付けて合流すると、メリエは辛そうな顔でゴブリンマザーに視線を向けていた。
「強いわねゴブリンマザー。もう死に体なのに……」
剛腕の威力は明らかに落ちている。腹に痛みがあるのか、時折体勢が崩れることがある。
でも、薙ぎ払う。
五体のツッパリは皆血塗れになりながら必死に闘う。
まさに奮戦。総長のためにと彼らは死力を尽くして闘っていた。
このままいけば倒せる。
きっと何とかなる。
皆期待していた。
奴が、来るまでは……




