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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔王の脅威を僕ら以外知らない
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AE(アナザーエピソード)・豚将軍の指揮を僕は知らない

「くそったれッ!」


 バズラック・チャイコビッチは思わず愚痴をこぼさず居られなかった。

 ゴブリン討伐第二部隊としてベテラン冒険者パーティーのリーダーとして参加。

 中堅冒険者が多い第二部隊は、第一部隊が露払いした場所を通りながら食べ残しを喰らうだけの簡単なハイエナ作業のはずだったのだ。


 普通に進軍すれば、確かにそれで良かった。

 だが、これだけ大集団になると、相手のゴブリンが雑魚と化すためついつい欲が出てしまう。

 結果、彼らは進軍予定地から大きく離れて森の中央部へと進んでいた。


 そして出くわしたのが、オーガの集団だった。

 あり得ない。皆が同じ気持ちだった。

 正直な話オーガの力は一体だけでも凶悪な魔物なのである。

 それが集団、こっちは軍勢を率いていると言ってもさすがに一体一体の質が違えば集団で戦っても負けることだってある。


 現に、恐怖に怯えた第二部隊は壊滅の憂き目に遭っていた。

 バズラックは自分のパーティーと共にいち早く転進して逃げた。

 伊達にベテランの域に片足を突っ込んでいる訳ではない。

 自分に対する危機への過敏さはかなりのものだった。


 だから、彼らのパーティーは全員が五体満足で撤退出来ていた。

 彼の他にも幾つかのパーティーが撤退していたが、皆追っ手を撒くために散り散りに逃げているためバズラックが認識できているのは、自分たちの六人パーティーと撤退する時に付いて来た口うるさい騎士団の副隊長だけである。


「なんてことだ。まさか本当にこいつらの言った通り壊滅するなんてっ」


「おエライ騎士様は自分の敵う相手を見極めもできねぇんだからしゃぁねぇやな。とにかく、拾えた命は大事にするもんだ」


「しかし、私だけこうして生き延びているなど、騎士としてこれは許されるのか? 敵前逃亡にあたらぬだろうか?」


「アホなこと言ってんじゃねぇ。オーガの群れだぞ、それがいきなり咆哮なんぞ叩き込んで来た日にゃ体勢崩された所にあの剛腕のラリアットだ。死ぬぜ? 生き延びただけでも英雄もんだ」


 オーガとはそれ程に厄介な存在だった。

 そして、なぜそんな生物が王国の近くの森に出現しているのか全く分からない。

 とにかく生き伸びて報告する。それしかバズラックができることはなかった。


「いいか騎士様よ、とにかく今回見た事を国王様に伝えるんだ。あんただけが情報を持ってる。これは戦場で死ぬより大切な使命だ。生きて情報を持ちかえる。あんたにしか出来ねェ役目なんだからな!」


「わ、わかっている。しかし、追って来ているんじゃないのか!?」


「んなの知るかっ。俺らだって必死に逃げるしかできねぇんだよ。逃げながらオーガを撒くなんざ無理だ。トレインになろうがそりゃあ運がねぇだけだ。それでも俺らはこの情報を持ちか……オイ、嘘だろ?」


 開けた街道へと辿りついたバズラックは思わずその光景に立ち止まっていた。

 自分たちがゴブリン討伐に向う時には誰もいなかった城門前。そこに、無数の人だかりが出来ていた。

 否、緑色の肌を持つ子供大の生物たちと死闘を繰り広げる防衛用に居残っていた騎士団たちである。


「どうなってる!? いや、まさか、ゴブリン共、討伐隊が組まれるのを予想してやがったとかいうのか!? 過疎った王国を攻めようとしてやがる!?」


「バズ兄ぃ、不味いわ! やっぱりトレインしちゃってる。オーガが何匹か付いて来てる!!」


 魔法使いの女性が告げる。

 最悪だ。バズラックは思わず頭を抱えたくなった。

 だが、ここで立ち止まっていれば挟撃されるだけだ。


 自分たちのパーティーを確認する。

 ベテランの仲間たち六人+副団長一人。

 計七人だが一点突破するだけなら十分だ。


「エンリッヒ、先頭を頼む。オルタは俺と左右に配置。騎士様とナポにゴブリンの指先一つ当てんなよ。ナポは騎士様を護衛しながら魔法でフォロー。ハードモットは後衛を頼む。ベロニカ、索敵と遊撃だ」


 バズラックの言葉に頷く面々。

 目の前で繰り広げられる激戦向けて、バズラックたちは突撃を敢行した。

 重戦士という重い鎧に身を包み巨大な盾で皆を敵から守るエンリッヒ。

 双剣使いのオルタとロングソードで彼らの隊長にまでなった指令塔のバズラック。

 彼ら三人が中核としてゴブリンの群れに突っ込み、他の仲間たちに危機が迫らぬよう必死の抵抗を始める。


 魔法使いのナポはひたすら下級魔法を使い連続使用で仲間に危機を与えそうな敵を的確に潰して行く。重斧使いダブルアクサーでドワーフのハードモットが後方から来る敵を相手取り、彼ら全員の取りこぼしを斥候役のベロニカが処理していく。


 全員が出来る事をする理想のパーティー。

 バズラックたちは長年このパーティーで闘ってきたため、阿吽の呼吸で仲間の行動を理解できていた。

 だから、余裕を持ってゴブリンの群れを突破していく。

 しばらく行くと、不思議なことに気付いた。


 騎士団が強い。

 第二部隊に同行していた騎士団は、練度があるのに実戦は殆どしていなかったようで、ゴブリン相手の闘いではかなり手こずり、連携が崩されることも多かった。

 何より騎士団長や副長が自分の闘い一辺倒になるせいで指示が出来ていなかったのが大きい。


 だが、ここの騎士団は練度も連携も凄い。

 ゴブリンたち相手に見事に押して引いてを繰り返し、徐々にその力を削いでいた。

 なぜ? 副団長が思わず呟く。

 バズラックは近くで聞こえたその声に、どういう事だと疑問に思った。

 だが、騎士団の動きを見ればすぐわかる。


 本来、こんな優秀な動きはこの国の騎士団には出来ないのだ。

 つまり、急遽優秀な将軍が陣頭指揮を執った。だから上手く連携が出来ているのだ。

 もしかしてギルドマスターが動いたか?

 そんなバズラックの予想が、まさかの形で裏切られた。


「ブゥア!!」


「第三隊、左から回り込まれているぞ! 第四隊引け! 第三隊のフォローに回れ!」


「ぶひっ」


「バズ将軍の言葉に従え!! この戦い勝てるぞ!! そら第一隊そのまま押し上げろ! 第二隊は一度引いて足並みをそろえる!! いや、助かりましたバズ将軍。あなたが来てくれなかったらと思うと我等は突破されていてもおかしくなかった」


「ぶひぷひ」


「そんな御謙遜を。私があなたの声を理解できたからとか、そんなのエルフの嗜みみたいなものですよ。とはいえ、『妖精の酒屋』亭でエンリカさんの亭主になっていたことを知っていなければあなたをオークというだけで毛嫌いしていたかもしれませんでした。それを思うと知っていた私は本当に運がいい」


 バズラックはあり得ない光景を見て思わず目を点にした。

 騎士団に、オークとエルフ騎士が指示出しをしていたのである。

バズラック・チャイコビッチ

 ・『天元の頂』を立ち上げたクラン長。

  巨大な大剣を操る筋肉男。仲間内ではバズのアニキと呼ばれている。

  バズ・オークと名前が似ているせいか、知り合ってからは飲み友達になっている。

  種族:ニンゲンF クラス:重剣士ハイランダー

  装備:アイアンメイル、クレイモア、ドラゴンキラー


エンリッヒ・エンデンベルグ

 ・『天元の頂』の盾役。

  巨大な盾で皆を守り、挑発スキルで敵のヘイトを集める男。

  ただひたすらに耐える彼はパーティーに必須の存在である。

  種族:ニンゲンD クラス:重盾士タンカー

  装備:チェインメイル、フルプレートアーマー、アーメット、シールドソード、タワーシールド


オルタ・ピグマリオ

 ・『天元の頂』のアタッカー。

  元々撹乱要員だったが、妹がパーティーに入ってからはバズラックとのツートップアタッカーになる。

  ナイフ集めが趣味らしい。

  種族:ニンゲンC クラス:曲芸師エンターテイマー

  装備:鞣革の鎧、チンクエディア、スティレット、シカ、クファンジャル


ナポ・リティアン

 ・『天元の頂』の魔法使い。

  最古参の頼れる副リーダー。

  バズラックに唯一対等に意見出来るお局様。ただしまだ10代らしい。

  種族:ニンゲンB クラス:魔法使い

  装備:ホーリーローブ、サークレット、カッカラ、マジックバングル、妖精の腕輪


ハードモット・ホモサピエンス

 ・『天元の頂』の殿役。

  二つの斧を巧みに使い、エンリッヒと共に皆を守るドワーフ。

  彼の任務は常に後方からのバックアタックを防ぐこと。男好きという噂があったりなかったり。

  種族:ニンゲンF クラス:重斧使いダブルアクサー

  装備:スケイルアーマー、アイアンヘルム、トマホーク、ゼブラアックス、天波の斧


ベロニカ・ピグマリオ

 ・『天元の頂』の斥候役。

  罠作り、武器への状態異常能力付与など、多岐に渡ってパーティーを補助している。

  もともとニートで怪しい実験を繰り返していたので、兄に家から連れ出され一緒に冒険をしている。

  種族:ニンゲンC クラス:斥候チェイサー

  装備:チェインメイル、フルプレートアーマー、ヴァワカナイフ、タージェ

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