その少女の動きの意味を、誰も知らない
「ブグヒィ!?」
僕はその光景を見た時、思わず走っていた。
アルセを放置してのダイビングクロスチョップ。
なんの気配も感じていなかったエロ豚は、エンリカに果実をあーんされた直後、喉に衝撃が走り思わず呻きをあげた。
果実を詰まらせたようで必死にもがき、なんとか吐きだしている。
ふっ。またつまらぬことをやってしまった。
エンリカが驚いて大丈夫!? と聞いているがバズ・オークはそれを無視して僕を睨む。
実際に僕に気付いているのか分からないけど、一瞬、確かに睨まれた。
「ブヒァッ!!」
「え? 何するって、そのごめんなさいあなた」
「ぶ、ぶひ!? ぶひぶひ!!」
「え? 私じゃない? でも他に人は……あら? アルセちゃんいつの間に?」
何が起こったのか理解できていないアルセがこてんと首を傾げる。
そんなアルセを見てエンリカも首を傾げた。
「何しに来たの? 他の人たちは?」
「ぶひ?」
僕はアルセのもとに戻るとゴブリンの絵が描かれた羊皮紙を取り出しアルセに持たせる。
指し示すのは四方向。
そして、子供の落書きみたいに描いたリエラの絵を見せて北を示し、ネフティアの絵を見せて東を示す。
さらにバズ・オークを指示し、南に指を向けた。
「これ、もしかしてゴブリンに町が囲まれてる!?」
「ぶひっ!?」
エンリカが先に気付いた。すぐにバズ・オークが立ちあがる。
脱いでいた装備を整え、戦士のいで立ちになると、可愛い我が子の頭を一撫でしてドアへと向う。
「あなた、御武運を」
「ブヒ」
振り返って答えたバズ・オーク。部屋を出ると、直ぐに走り出す。
これで南門もなんとかなるか。後は西門だけど……
やるしかないだろうな。
僕はアルセを抱えて走り出す。
残されたエンリカが待ってアルセちゃん。とか言っていたが放置した。
さすがにエンリカまで闘えという酷な事は言えないよ。
大丈夫、バズ・オークなら余程のことが無い限り問題は無いはずだ。
それより問題は……西門だな。
僕らとしてはゴボル平原が広がっているのでゴブリン集団は見やすいと思うし狼モドキが襲うだろうからそれなりに数が減ると思うんだけど……
石畳の通路をひた走り、西門に向う。そこには……
複数の兵士と戦うゴブリンの姿があった。
数はそれ程居ないのだが、どうにも連携を取っているように見える。
ちょっと!? 弱いはずのゴブリンたちに国の兵士が圧されてるんですけど……
よくよく観察すると、どうもゴブリンは五人が一組になって闘っているようだ。
ゴブリンにしては統率された動き、そのせいで兵士達が苦戦しているのだろう。
見慣れない集中攻撃型の陣形に、彼らは満足な闘いが出来ない様子だ。
これは、不味い。
僕とアルセが入った程度でどうなる状況じゃないぞ!?
どうしよう。そう考えていた時だった。
アルセの葉っぱが光を放つ。
まぶし。とばかりに目を顰めた瞬間、抱き上げていたアルセが蔦に変化した。
あ、いや。アルセが僕の拘束から抜けだしました。変わり身の術ですか!?
ちょ、どこ行くのアルセ?
その向う先は……戦場だよっ!?
アルセさん、待って、そっちはらめぇ!!
嬉々とした表情で走るアルセは、戦場を駆け抜けて行く。
しかも近くを通るゴブリンの真下から無数の蔦が伸びあがり、彼らの動きを奪って行く。
おお、凄い。ゴブリンばっかり動きを止めて……ちょ!? 待った。アルセさん、そのごついおっさんは兵士さんだから! スキンヘッドでゴブリンっぽいけど兵士さんだからぁっ!!
若干名の犠牲者と共にゴブリン達をまたたく間にマーブルアイヴィで縛り上げたアルセは、しっかり走ったせいだろうか? 物凄くすがすがしい笑みを浮かべながら僕に抱きついてきました。
褒めて褒めてといった顔をしていたので頭を撫でておく。
凄いなアルセ。よくこんな凄いことできたね。でも、危ないからあんまり戦場にはいかないでね?
劣勢状態だった兵士たちも、突然の援護に戸惑いながら動き出す。
身動きを封じられたゴブリンにトドメを刺すだけの簡単なお仕事です。
完全出来高制、報酬は0円。
なのに皆さん楽しげに参加していらっしゃった。
一部兵士は身動き取れないゴブリンに剣先でつんつんと刺激を与えつつ、サディストな顔で笑っていたりして怖かったけど、皆がアルセに感謝を述べていた。
アルセ、なんかまんざらでもない顔してるね。
皆、見てくれ。アルセは皆のためにこんなに一生懸命になれる女の子なんだよ!
我が自慢の娘。どこに出しても恥ずかしくありませんぜ!
って、アルセさん? だから急に踊りだされても対処に困るって。
兵士さんたちも、これ勝利の踊りとかじゃないから。一緒に踊らないで!?
蔦に絡め取られたおっさんが凄く悲しそうにしてるから!
誰かさっさと助けてあげて?




