その彼女の状態を、彼は知らなかった
アルセ愚連隊は町に向うとさすがに色々不味いということで、とりあえず出撃まで時間がある事を告げて森で準備して貰うだけに留めておいた。
準備が終わり次第町の前に来るらしいのでそこからアルセと辰真が案内するつもりだ。
一足先にカインたちに合流した僕らは、王国へと舞い戻る。
とりあえず二日で帰ってくる事は出来たし殆ど戦闘は無かったものの、ギルドに顔を出した瞬間コリータさんがよかった! これで剥奪しなくて済むとか物騒な事を告げてきました。
どうやら斥候役で出した冒険者たちが持ち帰った情報がかなりヤバかったらしく、緊急招集は一気に加速。本日の朝この町に居る全ての冒険者へと集まるよう告げられたらしい。
下手すれば直ぐにでもゴブリンが攻め寄せる。それ程に切羽詰まっていたのだ。
それはなぜか。ゴブリンの成長速度が理由に上げられる。
数の多さから見て一年以上前から増えていたようで、既に一万を超える大集団になっているそうだ。
よかった。彼らに声を掛けておいて。
そんな僕らは一度宿に戻って荷物を置くことにしたのだけれど……
僕らが宿の部屋に到着した瞬間だった。
「ぶひぁぁぁ!!」
なんか物凄い焦った顔のバズ・オークが全裸で飛び出してきた。
ネッテとリエラから悲鳴が上がる。カシャッ
ちょぉぉぉぉっ!? なんでCG取れてるの!?
バズさんの全裸写真とかいらんから!? マジっすか!?
「ブヒァっ!? ブヒィ! ブヒブヒッ!!」
「お、落ちつけ、落ちつけ暴走エロ豚! まずは服着ろぉッ!!」
カインが思わず叫ぶ。
騒ぎを聞いた他の宿泊客が顔を出しては悲鳴を上げてバタンと閉める。
やがてやって来る宿の女将さん。慌てる豚を見付けてあら大きいとかそんな感想いりません。
とりあえず、彼が言いたいことは、なんかエンリカが苦しみだしたとかなんとか。
どうしたらいいのか分からず飛び出した途端この状況、言葉通じないのに医者を呼ぼうとしていたらしい。
全裸の豚が飛び出してきたら宿の女将さん、絶対兵士呼んでたからっ。
顔を赤らめながらネッテと女将さんが部屋に入って行く。
カインとクーフがバズ・オークを押しこめるように部屋へ。
リエラはその場にしゃがみ込んで顔を伏せ、そこにネフティアが肩に手を置き気にするな、よくあることさ。とばかりにグッドマーク作っていらっしゃった。
「女将さん、産婆さんに連絡を! 誰か産湯の用意して!」
産婆!? 産湯!?
まさか、そういう事ですか!!?
っていうかいきなり産湯とか無理でしょう!?
「っつか速過ぎじゃねぇか!? クーフ、バズ・オークのこと頼む、直ぐ取って来る!」
ネッテの声にカインが走る。
どこに行く気ですかカインさん。
「ギルド! ギルド依頼を出せばすぐに……」
カインも混乱しているらしい。
あれはダメだ。
なので、僕はリエラの肩を叩いてなんとか復活させる。
「透明人間さぁん」
泣くなリエラ。こんなこときっとよくある事さ。それより今は産湯の準備だ。
辰真、行くぞ。産湯を手に入れる……あ。
産婆さんに連絡しに行った女将さんが桶に湯を入れてやってきた。
さすがです女将さん。男連中よりずっと使える。
そして……
「ぶひああああああああっ!!」
赤ちゃん……ではなくバズ・オークの歓喜の声が響き渡った。
バズ・オークに似て豚な女の子らしいです。
はは……よく似てるだろ? エルフみたいに綺麗な顔のオークなんだぜ?
豚の顔の違いなんて分かるかっ!?
というか、本当に速いな生まれるの。
オークやゴブリンの繁殖力の強さが驚きの域に達しています。
そして幸せそうな顔のエンリカさんと白い布に包まれた娘を抱きながら身を寄せ合うバズ・オーク。当然、カシャッと撮らせていただきました。
いやぁ……もうこのパーティー何が起こっても不思議じゃない気がします。
そう、そしてこの騒ぎのせいで僕らは完全に忘れていたんだ。
そろそろゴブリン討伐出陣時間だってこと、そして、彼らが援軍に駆け付けることに。
結果、王国をかつてない衝撃が襲った。
第一部隊の冒険者たちがゴブリン討伐に向い、ギルド発の第二部隊が城門を越え、最終組が出発目前になった時。
別の城門から焦った顔で兵士がギルドに飛び込んだ。
曰く、ツッパリの大集団が攻めて来た!!
これを聞いたコリータさんは、ツッパリへの対策を一切行うことなく走り出したそうだ。
そして、今。丁度一仕事終えて息を吐いていたネッテ達のもとへと辿り着いたのだとか。
カイン? 入れ違いらしいです。
結果、産後ということでエンリカとバズ・オークは休暇させることにした。
家族水入らずで過ごしてください。お幸せに。
僕らはコリータに連れられるように宿を後にした。
とりあえず、辰真とアルセを引き連れ、リエラを扇動して連れて来た僕は、ネッテたちと別れてツッパリたちのもとへと向うのだった。
さぁ、アルセ愚連隊、出陣だ!!




