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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その愚連隊の真の隊長を、彼らは知らない
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その女性たちの激闘を彼は知らない

「プギィッ」


 豚の悲鳴が上がった。斧が放物線を描いて地面に刺さる。

 腹部に土柱の直撃を受けたセレディが仰け反った格好で弧を描く。

 余りに綺麗な吹っ飛び方に、観衆全てが彼女の姿を目で追った程である。


 が、彼女はどぅと地面に倒れることなく、気力で身体を動かし両手で着地。

 直ぐに手を離して円を描くように両足で着地した。

 地面を少し滑走してなんとか威力を殺しきる。


 ごぱっと血を吐くが、なんとか踏みとどまった。

 怖っ。女の執念怖っ!?

 震える足を前に出して歩きだす。

 その姿はまさに不屈の大魔神。


 対するエンリカが戦慄しながらも不敵な笑みを浮かべている。

 どうやら一歩も引く気は無いらしい。

 互いにうすら笑いを浮かべ徐々に近づいて行く。


「ブヒ」


 あんた、なかなかやるじゃない。


「当然です。今回だけは、あなたにだけは負ける訳にはいきませんから」


「ぶひぷひ」


 大した覚悟、確かに、あんたはバズに相応しいのかもしれないわね。

 そう言いながら、臨戦態勢のエンリカの肩に左手を置くセレディ。

 おや? なんか和解の雰囲気だ。


「ブヒ」


 それに、最後の一撃、着地の時にお腹の子を庇ったわね。

 と、まさかの言葉にエンリカも驚きを隠せないでいた。

 なるほど、言われてみればエンリカは余計な魔力を使ってノームに着地地点の足場を柔らかくしてもらい衝撃を逃がしていた。


 ただ着地するだけならばそんな手間のかかる事をする必要が無いが、お腹の子の安全を考えるなら彼女の行動にも意味があることに気付く。

 そして、それを瞬時に見抜くセレディ。やはり女同士何か理解出来るものでもあったのかもしれない。


「ブヒプヒ」


 既に、子供もいるのね。ホント、悔しいわ。でも、もうそこまで進んでるなら私がどうこう言っても意味は無いわね。


「は、はい。あの、何かすいません。でも、ありがとうございます」


「ぷひ」


 認めざるを得ないでしょ。もう、既成事実まであるなら。


 どうやらセレディが折れてくれるようだ。

 もうちょっとキャットファイトになるかと思ってただけにちょっと肩透かし喰らった気がする。

 ほら、カインがリエラを呼んで来てもしもの時用に回復魔弾準備してたのに、意味無くなって複雑そうな顔してるし。


「ぶひ」


 素直にいうわ。おめでとう。そして……お幸せにね。


「あ……は、はい。ありがとうございます。私、絶対バズさんと幸せになります」


 二人揃って笑顔を見せた。

 諍い果てての契りという奴か。

 いい友情を見たな。みたいな感じて皆がほっこりした。その刹那の出来事だった。

 でも……とセレディが拳を握る。


「ブヒァッ!」


 やっぱり一撃殴らせろこのドロボー猫ッ!!

 なんとノーモーションで放たれた渾身のグーパンチがエンリカの顔面に突き刺さった。

 予想外の一撃にほっこりしていた観衆が皆口を開けて呆然としている。

 けど、エンリカは倒れなかった。

 よろける事もなく、まるでこうなる事が分かっていたかのように両足を前後に開いて耐えていた。


 セレディが拳を引き抜くと、エンリカは笑顔のまま鼻をコキリと戻す。

 鼻から血が……エンリカの綺麗な顔が大変なことに……

 そんなエンリカさん、拳を握り込むと前足を踏みこみ渾身の右ストレート。


「幼馴染だからって胡坐を掻いてるから寝取られるのよッ!!」


 体重の乗った拳がセレディの顔面に突き刺さった。

 え、エンリカさん……なんかキャラ違ってませんか?

 セレディの顔がピギャとか声鳴らして潰れたぞ。

 セレディも鼻から血を流してしまった。


「ブヒァ!!」


 このクソエロフッ!!

 とばかりに足を踏み込んだセレディがエンリカの顔面に再び拳を打ち込む。


「黙れこのメス豚がァッ!!」


 セレディの拳が打ち込まれれば、今度は入れ替わるようにエンリカが拳を振う。

 エンリカは細身だというのに全く引く気配が無い。

 セレディも先程の土柱の一撃で立ってるのもやっとだろうに、倒れるどころか後ろに一歩たりとも退こうとしない。

 絶対にここで倒れてはならない。そんな気概を二人から感じた。


 双方密着する程の至近距離で罵倒しながら殴り合う。

 防御も回避も行わない。相手の拳を受ければ次は自分が相手に攻撃。とばかりにただひたすらに拳をぶつけ合う二人の女。

 顔だけ血塗れになりながらもひたすらに相手を殴りつける姿は、もう、キャットファイトなんて言葉で言い表せるものではない。


 まるで引いた瞬間死ぬと自分に言い聞かせているような、バーリトゥードゥな闘いだった。

 なんかもう、二匹の獣の争いを見せられてる気分です。エンリカ怖い。

 これが束縛する女の執念という奴か。女って恐ろしい。


 バズ・オークよ。

 本当に良かったなお前、この試合見てなくて。

 こんなエンリカ見たら百年の恋も冷めるんじゃないかと思う程に鬼気迫る顔してるぞ。


 腹に子供がいるのでそちらに攻撃はせずにただひたすら顔面にとか、一昔前にあった男同士の喧嘩だよね?

 普通女の子同士でやるような争いじゃないよねこれ?

 一人のオスを巡る女の闘いに、僕ら観衆は皆、恐怖を覚えるのだった。


 決着?

 二時間もの殴り合いを経ての双方クロスカウンターで立ったまま気絶によるダブルノックダウン。

 気絶しても倒れないとかどんな執念だよ!? いきなり動かなくなったから皆が気付くまでしばらくかかったよ!?

 即座にリエラの魔弾が二度、火を噴きました。

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