その女性たちの果たし合いを彼は知らない
「ブヒ」
あんたは……あの人となぜくっついたの? エルフはオークを毛嫌いしているはずよ?
そんな言葉がセレディから洩れた。
「私は……多分一目惚れだったんです。とても強いバズさんは、私達がただのオークだと突っかかっても手加減して殺さないようにしてくれて、仲間になってからはその的確な判断と絶え間ない索敵で常に皆さんを支えていた。あんな心優しい人、他に居ないって、どんどん惹かれて行きました」
初耳だね。エンリカさんが好きになったのはバズ・オークの優しさと。
確かに抜け目なく紳士というか騎士だからなぁバズ・オーク。
今は将軍だけど。
縁の下の力持ちって奴に憧れるのかな? だったら真っ先に惚れるべきは僕でしょ!?
エンリカさん、僕頑張ってるよ? 頑張ってるよね!
誰にも気付かれてないけどいろいろやってるんですよ!
縁の下の力持ち、誰にも知られなければ評価無し……
うん、知ってた。知ってたよ。エンリカは僕のこと知らないからね。
というか、エンリカがバズ・オークに惚れたのは話が出来ると分かった時だと思ったけど、あの時はまだ憧れ段階だったようだ。
森の中を探索するだけでエルフの好感度アップとかバズ・オークの男前度が高すぎる。
「ぶひ」
でも、わかってるのかしら、彼は本来、私と付き合う予定だったのよ。
と、初めに仕掛けたのはアルコールが入ったせいで本音を吐露し始めたセレディだった。
なぜだろう、その瞬間、酒場の空気が一気に下がった気がする。
「知っています。でも、実際に付きあったのは、私です」
エンリカも容赦なく踏み込んだ。
その瞳は意志強く、絶対に譲らないという決意がありありと見れた。カシャッ
あ、セレディとエンリカがキャットファイト寸前の顔がCG登録された。ほんと、このCG能力は何が切っ掛けで発動するのかわからないな。
って、なんかCGの二人の間にVSとかでかでかと文字が……
「フゴッ」
言うじゃないドロボー猫の分際で!
「ここで引くわけにはいきませんから。悪いとは思います、でもバズさんを私にください。バズさんを幸せにするのは、私です」
男前!? ちょっとエンリカさん、それ男性が女性の両親に言う台詞じゃないですかね!?
「ブヒッ!!」
いいわ。そこまでいうなら表にでな。力ずくで私から奪ってきな!!
その言葉を皮きりに、二人はピリピリとした雰囲気を纏わせ表へと出て行く。
ちょっと御二人さん、お金、御代がまだですよ!?
戸惑う店員さんの前に、カインがお金を置いてエンリカたちの後を追って行く。
釣りいらねぇ、とっときな! とクーフ共々でていった。
って、え? 150ゴス足りない? 店員さん、そこぽつりと呟くとこじゃないよ!?
結局150ゴスの出費を出した僕はエンリカ達を追って追跡を始めるのだった。
エンリカ、身重なんだからあまり派手な動きしちゃダメだぞ。
村の広場を貸しきって、エンリカとセレディは対峙していた。
ギャラリーとして村の人たちやオークが見に来ているが、バズ・オークたちには話が行っていないらしい。
まぁあいつが来るとさらにややこしくなりそうだからさっさとセレディを倒してバズ・オークを掻っ攫うのがいいでしょう。
カインとクーフも固唾を飲んで見守っている。
大丈夫かなエンリカ。
最悪僕がフォローに入るべきだろうか?
「ブヒ!」
武器を構えな!
そんな声に、エンリカが首を振る。
「私の武器は弓です。怪我をさせる訳にはいきません」
「ブヒッ!」
言ったな小娘。後悔させてやる。
どすどすと走り出すセレディ。その姿は重戦士と見紛う程にアーマーがガチャガチャと擦れ合い、手にしたアックスを掲げてエンリカに迫る。
威容はバズ・オークとも遜色はなく、むしろより凶悪な生物に見えなくもない。
「ノーム様、お力をお借りします……」
そう言えば、弓を使わずともエルフにはそれがあるんだった。
精霊魔法。
それはこの世界に漂っているらしい精霊の力を借りて魔法のような現象を引き起こす能力。
実際には魔法とは違うらしいのだけど、精霊魔法と呼ばれている。
エンリカが魔法を使った瞬間、迫るセレディのすぐ前から大地が急激に盛り上がる。
四角い柱が立ち昇りセレディの顎に襲い掛かった。
慌てて身体を捻り横に飛び退くセレディ。
ごろんと転がり立ち上がる。
そこにさらに襲いかかる土の柱。
セレディは慌てて逆方向に転がりながら前に出る。
連続攻撃のように無数の柱が時間差で地面からせり上がる。
その悉くをぎりぎりで躱すセレディ。
その戦闘能力は下手したらバズ・オークより強いかもしれない。
なんとか迎撃しようとノームに攻撃を頼むエンリカだが、セレディはその悉くを己の身一つで躱していく。
その動きはもはや一種の才能だった。
結果は、エンリカの連撃を避けきったセレディに軍配が上がった。
大きく斧を振り被り跳びかかるセレディ。
頭上に上げた斧をエンリカの顔目掛けて遠慮なしに打ち込む。
驚愕に目を見開くエンリカ。まさか本気で打ち込んで来るとは思っていなかったのかもしれない。
誰もがエンリカが殺されると目を背けるその刹那。エンリカが不敵に微笑んだ。
エンリカは背後に跳び、両足を開いて告げる。
「女の執念。甘く見ないでくださいね。ノームの一撃!」
エンリカの足の間から斜め前へと飛び出す土の柱。カシャッ。あ、またこんな時に激写音が。
宙空に身を躍らせ無防備に最後の一撃を放とうとしていたセレディに、予想外の一撃が襲いかかった。




