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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その愚連隊の真の隊長を、彼らは知らない
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その詰んだ状況を彼女は知りたくなかった

 ゴパァと息が吐き出される。

 武骨なプレートアーマー。ゴブリン達の血に塗れ、まさに鬼女を思わせるメスオーク。

 手にした斧はとても巨大で、一振りでバズ・オークの身体を両断しそうな鋭い刃を持っていた。

 そして、その刃は血に染まり、血痕が常に地面に落下している。


 知らず、バズ・オークは一歩退った。滴下血痕に恐怖を覚えたのかもしれない。

 そして彼の幼馴染は自分の幼馴染であるバズ・オークの帰還を素直に喜び前に出る。

 ブヒッと鼻息が漏れる。しかし、バズ・オークはその言葉に素直に応えられない。

 気不味い雰囲気を出すバズ・オークに、彼女は何かの異変を感じ取った。


 不気味な容姿がさらに不機嫌さを醸し出す。

 ちょっとバズ・オーク、なんで目を逸らすの?

 そんな言葉が含まれた鼻息を鳴らして近寄って来る幼馴染。


 ずんずんと近づく彼女は血塗れの顔のままバズ・オークににじり寄って行く。

 エンリカがかなり戸惑っていた。

 今、彼女が間に入ってバズ・オークを庇ったりすればバズ・オークが更なる窮地に追い込まれることは明白だ。しかし、他の女に言い寄られようとしているバズ・オークを助けたい。

 というか、エンリカと付き合っていると告げれば持っている斧で首ちょんぱされる可能性だってあるのだ。エンリカが慌てるのも仕方ないと思う。


「ブヒッ」


「ぶ、ぶぅ……」


 観念するようにバズ・オークが返事する。

 しかし、それではお気に召さなかった幼馴染が両手を腰に当ててバズ・オークの顔を覗きこむように近づいてくる。

 何かあった? そんな言葉が聞こえた気がした。


「あ、あの……」


 そして、夫を助けるべくエンリカが恐る恐る声を掛ける。


「ブヒッ?」


 その声に気付いた幼馴染がエンリカに視線を向けた。

 何か用? と、ただの冒険仲間に向ける視線でエンリカを見る。

 そんな幼馴染に、エンリカは意を決して告げた。


「は、初めまして、バズ・オークさんと婚約させていただいています。エンリカと申します」


「フゴ?」


 え? 今何て? そんな顔をしていた。

 ついに、言ってしまった。

 バズ・オークが脂汗を流し始める。

 凄い量だ。今ならバズ・オークの肉はA5ランク行くんじゃないだろうか?


 鼻息と共に、本当なの? とばかりに詰め寄る幼馴染。

 興奮しているのか斧の刃がバズ・オークの股間辺りに当っております。

 バズ・オークが泣きそうな顔で一度、コクリと頷いた。


「ブヒ……」


 そう、なんだ……

 底冷えするような鼻息だった。

 ヤバい、バズ・オークが狩られる。


「ぶ、ブヒ」


「ブヒ」


 そ、その、俺はだな……みたいに狼狽するバズ・オーク。冷めた表情で幼馴染はそれじゃ。と告げるとバズ・オークに背を向け村の中へと入って行く。

 なんつー心臓に悪い修羅場ですか!?

 これから先、何が起こるのかもう怖すぎです。

 サスペンス? この世界ってサスペンスでしたっけ? 今日は火曜日じゃないですよ!?


 後に残されたのは震えるバズ・オークとそれに擦り寄るエンリカ。

 何だこれ? 可哀想なバズ・オークのはずなのにふつふつと怒りがこみ上げて来る。

 爆死しろと願う僕が居る訳で……総長の爆殺アッパーカットが使えれば……


「と、とにかくバズ・オーク、エンリカ、オークの村長たちとか家族に伝えに行くんでしょ。ほら、動く動く」


 我に返ったネッテが慌ててバズ・オーク達の背中を押して移動させていく。

 そうだった。幼馴染だけじゃなく家族に挨拶しないと。

 でも、ゴブリンの大発生もオーク達が頑張ってる御蔭でこの村は安泰みたいだな。


 そのうちオークとくっつく娘さんとか男とか出てきそうではあるけれど、それはこの村の人たちが直面する問題であって僕には関係ないことだ。

 そう、なんか豚野郎と腕組んで楽しそうにしている女性とかが視界の隅を通りすぎて行く気はするけど僕には関係ないことだ。リア充爆死してしまえ。


 暴走しそうになる思考を何とか押し留めるため、手を繋いだアルセの笑顔で癒される僕。

 何故か反対の腕にはネフティアがいるのだけど、これ、僕突発的な危機に対応できない気がする。

 なんとかいい方法考えとかないと。


「リエラ、クーフ。俺らも行くぞ。この挨拶回り、対応次第で血塗れになる事を忘れんなよ」


「は、はいっ」


「むぅ……全く面倒なカップリングだな」


 と、ネッテの後を追って行くカイン。

 そして取り残される僕ら四人。

 アルセとネフティア、そして辰真です。


 ツッパリ君は自分の事でいっぱいいっぱいのバズ・オークの代わりにアルセの護衛をしてくれているようで、アルセから一定範囲離れようとしなかった。

 今も突っ立っているアルセの斜め前でう○こ座りして周囲を威嚇中です。

 こっち見んなコラ。と周囲に喧嘩売ってるような姿です。


 とりあえず、僕らも行こうかアルセ。

 アルセが動きだすと、立ち上がった辰真はズボンのポケットに両手を入れて気だるげに後ろを付いて行くのだった。

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