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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三部 第一話 その大発生の理由を彼らは知らない
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プロローグ・その顔合わせがどうなるのかを誰も知らない

「……」


「……」


 場を流れるのは重い沈黙だった。

 僕はさっそくだけどここに来たことをとても後悔している。

 切っ掛けは、さて何だっただろうか?


 初めは、とても和気藹々(わきあいあい)とした和やかな雰囲気だったのだ。

 エンリカ、僕らが今組んでいるパーティーにいるエルフの女の子なのだが、彼女の母親が腕を振って沢山の郷土料理を披露してくれて、父親はカインたちとエルフゆかりのワインを飲んでほろ酔い加減。


 本当に、和やかな雰囲気だったのだ。さっきまでは。

 そう、さっきまでは。

 「父さん、母さん、実はその、紹介したい人がいるの」そう切りだしたエンリカに、なに? と身構える父親。

 しかし彼とて緊張しながらも僕らのパーティーの誰かだろうと当りはついたようだ。


 その視線は我らがリーダー、カインに向けられる。

 成る程、彼は勇者だそうだ。エンリカはエルフで美形のため、横に並ぶと多少見劣りするが好青年。

 エンリカが惚れるのも頷けよう。


 しかし、カインの横にはこのパーティーの最古参の一人、ピンク髪のポニーテールの女性、ネッテがいる。彼女持ちかもしれないカインではないのだろうか?

 エンリカの父はカインから僕へ……を素通りしてリーゼント頭の男に視線を向ける。


 黒髪リーゼントにガクラン。胸にはサラシを巻いたちょっと怖い男がそこにいた。

 僕からすれば不良にしか見えないそいつは、立派な魔物の一種。ツッパリだ。

 エンリカの父は眉を顰める。

 少しガラは悪いがまぁこれくらいなら許容できるか?

 そんな顔をしていた。


 そんなツッパリ君は緑色の肌を持つ幼女がビスケットのような物を食べる姿を見ながら、見よう見まねで自分も同じモノを食べていた。

 緑の少女はアルセ。僕にとっては一番最初に出会った仲間みたいなものだ。

 魔物なので何考えてるかはわからないけど、危険な生物ではないので、ちょっと眼を離せない娘みたいなものである。


 その横では、最近判明したネフティアという名前の青白い肌の少女が同じモノを食べている。

 エンリカの父はやはり眉を顰める。

 娘の紹介するという言葉にツッパリは反応していないし、こちらに挨拶しようとすらしていない。

 つまり、エンリカが紹介したい相手ではない。

 ならば誰か?


 もう一人の大柄な男を見る。

 その男はガリガリに痩せた、いや痩せすぎてミイラ化した男だ。

 正直見るのもおぞましいと思うのだが、エンリカが仲間といっているのでなんとか許容している男である。

 こいつが? さすがに男の趣味を疑うぞ。そんな顔をエンリカの父がしていた。


 そんな大男、クーフは水だけを飲んでおり、隣にいる女性に色々と質問をしていた。

 おもに美味いのか? という料理の感想を聞くモノで、それに律儀に答えている女、リエラの頭の上には半透明の空色葛餅。ミミック・ジュエリーという鉱物の魔物だ。なぜかリエラを気に入っており、彼女の身体にへばりついている。

 大抵頭の上だけど、戦闘時は右腕にいたりするので、それなりに有能ではあるスライムもどきである。


「じ、実は父さん、母さん。私、この人と結婚したいと思ってます!」


 エンリカは勇気を出して告げた。いや、実際にはもう、婚姻届だしてるから結婚してるんだけどね。

 ぐっと、真横に居た男の腕を引き寄せる。

 それは、カインでもツッパリでもクーフでもなかった。

 まして人の顔すらしていなかった。

 本能的にあり得ないと、エンリカの父が初めから男としてカウントしなかった男である。


「ぶ、ぶひ……」


 がっちがちに緊張した顔で頭を下げるのは、二足歩行をして金属の防具に身を包んだ、一匹の豚でした。

 オークという豚の身体で人のように生活している豚人族の一人、片目に刀傷を持つ屈強な騎士、バズ・オーク。


 その豚が、エンリカの思い人。

 それを認識した瞬間、時は止まった。

 場を和やかに包んでいた空気は一気に消し飛ばされた。


「え、エンリカ……もう、一度……き、聞き間違いよね?」


 あえて、言わせて貰おう。

 エルフ族は容姿端麗な者が多い。

 なのでよく他種族に捕まったり奴隷にされたりと問題が起こる。

 中でも彼らが毛嫌いしているのが、見境なしに繁殖を繰り返す、ゴブリンとオークである。

 そう、オークである。


 その瞬間、世界を支配したのは重い沈黙だった。

 エンリカの父の酔いなど一発で吹き飛んでいた。

 怒りの形相を通り越し、もう一度言ってみろクソオーク、確実にお前を、殺す。と言わんばかりの眼をしている。


 ついに戦端は開かれた。迎え撃つはエンリカの父と母。挑戦するのはオークの妻を夢見る少女、エンリカ、そして外堀を埋められもはやエンリカとの交際を認められなければ死が確定してしまったバズ・オーク。


 今、両親への挨拶という名の戦が、始まろうとしていた。

 他人事なのに胃が痛い。

 僕、他の人には見えないし、一人外に出てていいですか? こんな雰囲気耐えられません。

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