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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その逆鱗の理由を奴は知らない
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特別編・元番長の武器、アルセが描いたそれを、誰も知らない

 ツッパリ連合とスマッシュクラッシャーによる縄張り争いが終わり、町に帰った僕たちは、数日間を準備期間と称して休日にしていた。

 冒険を行うカインたちは冒険が終わると数日の休暇を行い身体を休め、新たな冒険に向うということを繰り返しているらしい。


 冒険を行うと、知らず知らず疲れを溜めこんでおり、自分が気付いた時には取り返しのつかない失敗に繋がる恐れもあるのだとか。

 現に、今回の闘いで何がどうなったのかカインの肋骨が三本ほど折れていたそうだ。

 僕の見てないとこでまた無茶したんだろう。

 おそらく僕がアルセたちと落下した時かな。あの辺りはカインとは別行動が多かったし。

 回復魔弾を使うまでもない怪我だと本人は認識していたらしい。自己判断は危ないよカイン。


 さて、本日、カインは部屋に籠っている。

 というか、この部屋には全員が集まっていた。なんとミクロンも来ている。

 皆してこの世界では貴重な羊皮紙とにらめっこしている。


 そこにはある絵が描かれていた。

 何の絵かって? それはアルセが再び暴走するように描いた物凄く上手い(自称)絵だからさ。

 当然、僕が描きました。ええ描いてやりましたとも。


 なぜ、その絵を描くに至ったかはカインたちの会話の途中で、ふと武器の話題になったのだ。

 その過程でクーフにも元ミイラ少女にも武器がある、なのにツッパリ君だけ拳のみというのはいいのだろうか?

 まぁ、そんな感じの会話から始まった。


「じゃあよ、このツッパリ君に相応しい武器って何がありそうだ?」


「そうねぇ……やっぱり、棍棒とか?」


 カインの問いに応えたのはネッテ。

 なるほど、この世界だとそれがしっくりくるのか?

 僕が思い描くとすればやはり鉄パイプだよね。あとは金属バット。釘バットとかもありかも。


「拳を守るのならバ、アームガードでいいのでは?」


「アレって防具じゃなかったですか?」


 クーフの言葉にエンリカが首を捻る。

 アームガードというのは、どうもこの世界ではメリケンサックみたいな物らしい。

 攻撃用武器ではなくて防具に分類されている。


「だったらガントレットだろ」


「ブヒッ」


「ガントレットは使いやすいそうです」


 バルスの言葉にバズ・オークも同意した。それをエンリカが訳してくれる。

 でも、ユイアがそれを否定した。


「ちょっと、それだとバズ・オークさんと被るじゃない。なんちゃって剣士のバルスじゃないんだからもうちょっと良さそうな武器考えなよ。第一バズ・オークさんが防御にのみ使ってるのは、攻撃に使用すると自分の拳まで痛めるからでしょ」


 ああうん、ガントレットの内側に衝撃吸収素材でもあれば拳に優しいけど、インパクトの瞬間自分も鉄殴ってんのと一緒だしね。

 これは却下だ。改良すれば有だろうけど、元総長、いや、もう元番長でいいやいちいち変えてるとなんかややこしいし。彼にはあまりいい武器とは言えないだろう。あ、やっぱり元総長と言っといた方がいいか。現番長が番長止めた時に被りそうだし。


 ふむ。武器……武器?

 ツッパリ、いや不良に最適な最強武器。連想されてしまうのは、やはりあれしかあるまい。

 突撃に最適、蹴ってよし、轢いてよしの最強の武器にして乗り物があるじゃない!

 思い付いたが即行動。アルセで絵を描く……あ、しまった紙もペンもない。


「ムゥッ!? なんか今、紙とインクと筆を用意せねばならないと天啓を受けた気がしますよっ!?」


 突然ミクロンが叫んだ。僕の念力が届いた!? ンなバカな!?

 いや、たぶん偶然だ。直感とかシックスセンスとか変なスキル持ってる可能性はあるけど偶然だ。

 ミクロンは偶然思い付いただけなんだ。そうじゃなければこの変人は、僕が言いたかった名ゼリフを吐くようになってしまう。

 そう、こんな事もあろうかと思って用意しておいたとか、普通に言って来そうなんだ。


「こんな事もあろうかと思って用意しておいた、羊皮紙と自前の筆記具です」


 言いやがった!? 怖いっ。この人怖いよ。

 しかも普通に筆をアルセに渡しやがったし。アルセが何かしでかすと天啓が来たのか!?

 いいさ、そこまでするならば見せてやる。

 そして大いに悩め。これが、僕が思い描いたツッパリ専用武具、いや、専用車だッ!!


 結果、今、皆の前に羊皮紙に描かれた、改造バイクに乗った総長の絵が描かれていた。

 鉄パイプ持って斜めに背中を向け、喧嘩上等を謳う刺繍付きの姿を描いてやった。

 画力? アニメキャラなら女の子は上手く描けるさ。小さい頃から無駄にそれだけは描きまくったからね! 総長の顔は目の前にツッパリがいるのでそれを見て描くだけだし、それなりに上手く掛けてると思うんだ。

 特に単車はもはや芸術だね。80年代にありそうな総長専用って感じの物凄い派手なバイクになっていた。


「これは……なにかしら? 乗り物みたいだけど?」


「アルセちゃん、絵上手いわね……」


 ネッテとユイアが首を捻る。見たことのない乗り物に乗るツッパリ総長バージョン。


「この持っている武器は棒か?」


「けど、なんだろう、凄くツッパリと合ってる感じがしますね」


 皆唸るように絵を見つめる。

 その中で、一人時間停止していたミクロンが唐突に叫んだ。


「凄いッ! これが、これがツッパリに相応しい武器、こんな形状初めて見ます! この丸いモノは馬車に使われている車輪に似てますね。ならば移動もできる武器なのでしょうか。これに乗りながら走行するツッパリ、ああ、なんだこの脳内に流れる光景、無数のツッパリがこの武器に乗って移動する姿が見えるようだっ!!」


 それ、ただの暴走族ですからっ!?

 そして、この絵を見たツッパリが密かに憧れの表情を浮かべていたのは見逃せなかった。

 もしも単車かそれに類する物があれば、コイツ絶対乗る気だ。

 最後に、さりげなく僕が書いた絵を懐にしまっている元総長を見付けてしまった僕だった。

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