第二章エピローグ・その少女が仲間になっているのかを誰も知らない
テントで一夜を明かした面々は、ゴボル平原を抜けてようやく王国へと戻ってきた。
なかなかに危険な旅だったと笑いながら、とりあえず打ち上げを行うことになった。
集合は『妖精の酒屋』亭。酒場通りに存在するそれなりに有名な酒場である。
この酒場はエルフの奥さんと人間のおじさんにより切り盛りされている酒場らしく、エンリカがよく行く酒場だそうだ。
といってもエンリカはお酒は飲まないらしいのだけど。
ここはエルフが切り盛りしていることもあり、ドワーフが滅多によりつかないのでエルフには人気の酒場だそうで、うるさすぎるのを嫌う人や、ささやかな祝いを行いたいパーティーに人気なのだそうだ。
ドワーフが一人でもいると物凄く声がデカくてイラッとくるらしい。エルフには苦手な存在が多いようだ。
ただ、そんな酒場であっても、魔物であるツッパリやアルセ、魔物と思われている魔族のバズ・オークやクーフという面々が集まっているので、好寄の視線が集まるのだけはどうしょうもなかった。
凄いメンバーだよね今更だけど。
最初は、アルセとカイン、ネッテ、リエラの四人と僕だけだった。
それにバズ・オークが加わって、ミミック・ジュエリーが強制的に仲間というかペットにされて、クーフが仲間に入り、エンリカ、バルス、ユイアと知り合った。そして極めつけは元番長の加入に加えて元ミイラ少女の加入である。いや、元ミイラ少女が仲間かどうかは微妙なんだけど、いつの間にか普通に横にいる感じだ。
今はアルセの横で堅いパンをかじっている。両手で持って食べる姿はリスみたいだ。ちょっと可愛い。どうでもいいけど、消化ってされるのかな?
その横でアルセは青いイチゴのショートケーキを頬張りご満悦。ああもう、口元付いてるよアルセ。
リエラが気付いて拭いてくれていた。リエラ、なんかこうして傍から見てると母親みたいだよ。
「とりあえず、皆無事生還したことに乾杯」
カインが音頭を取って乾杯。未成年はオレンジジュース。
ネッテとカインはワインかな? カインは赤でネッテが白。
リエラとバルス、ユイアはアルセ達とオレンジジュースだ。
クーフは黒ビールかな? ミイラが飲んで大丈夫か?
エンリカとバズ・オークはカクテルかな? なんかハワイアンブルーみたいな色合いの飲み物を飲んでいた。
卓上に並べられた皿の数は無数。一番大きなサラダと七面鳥か何かの丸焼きの乗った皿を中心にいろいろな食材が注文されている。
全部今回の冒険で手に入れた収入で注文したものだ。
「しっかし、今回は凄かったな」
「はい。貴重な体験でした。遺跡探検も出来たし、ツッパリとスマッシュクラッシャーの縄張り争いには驚きましたね。あの道、結局どうなるんでしょう?」
「他の人はわからないけど私達は顔パスになるんじゃない? そこのツッパリ君のおかげで」
「そうね。でも、彼が仲間になってくれたのも、今ここにいる面々が仲間としてここにいるのも、元はと言えば彼女のおかげなのよねぇ」
しみじみと、ネッテはアルセに視線を向ける。
クリームを口の周りに付けながら、笑顔を返すアルセ。
その思考は何を考えているのか全く分からない。
そう。ここに居る皆はアルセの御蔭で集まったと言っても過言じゃなかった。
アルセと僕が出会って、カインとネッテが追ってきて、リエラの危機を救った。
それが全ての始まりで、その後も殆どがアルセを介して知り合っている。
「私は、なんだか運命を感じます。ねぇあ・な・た」
「ぶ、ぶひ!?」
私酔っちゃった。という様子でバズ・オークにしな垂れかかるエロフさん。
その様子にカウンターにいるエルフの奥さんもちょっと驚き気味だ。
このおばさん、物凄い恰幅がいい。なんだろう。エルフってもっと整った顔だったはずなのに、何処にでもいるおばさんと変わらない。耳が長いだけだ。いや恰幅良くても綺麗だけどさ。
「それで、これからどうする? とりあえず決まってるのはエンリカとバズ・オークの実家に挨拶回りだろ。俺らは付いて行くが、バルスたちやリエラはどうする?」
「そうですね、私は出来れば一緒に行きたいです。皆さんとパーティー組んでるのがなんかいつもの日常って感じですし」
「私とバルスは一応実家の方に向ってみる予定ですけど……そうですね、こっちに戻ってきた時はまた一緒に仕事しませんか? 皆さんと一緒だと楽しそうだし」
「なんだよユイア、別にこのまま付いて行ってもいいんじゃないのか? 実家なんか帰る必要はぶっ……」
言葉の途中で黙らされたバルス。気を利かせてるのか何か理由があるのか、ユイアはバルスを連れて強制的に実家に帰郷するらしい。
クーフやツッパリは付いてくると言っているし、僕らのパーティーはバルスとユイアを抜かしただけのパーティーになるようだ。それでも結構大所帯。そして亜人や魔物が半分以上占めたパーティーである。
当面の目標はエンリカとバズ・オークの挨拶回りか。面倒事しか起きそうにない。
「ところで、そっちの少女は仲間と認識していいのかね?」
「……どうなのかしら?」
カインとネッテはアルセの横で食事に参加している元ミイラ少女を見る。
うん、こればっかりは僕もよく分かりません。
その少女が本当に仲間になっているのかを僕たちは誰も知らない。




