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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その遺跡の秘宝が何だったのかを彼らは知らない
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その優雅な魔物が危険だと彼女は知らなかった

 バッシャーン


 下が湖で助かった。

 まぁ、お約束の可能性はしてたので妥当なところだろう。

 これで下が剣山だったりただの平地だったりした日にはアルセに殺されるというなんとも切ない未来が待っていたわけですが。とりあえず命拾いしたよ。


 鎧のせいで溺れかけていたリエラをなんとか引き上げ湖から這い出る。

 アルセ? なんかバタ足で泳いでいたよ。

 いつの間に泳ぎを覚えたんだか。まさか僕の記憶を読んでたりしないよね。

 どんな能力持っててもアルセだからで片付きそうで怖いよアルセ。


「た、助かりました」


「アルセが申し訳ない」


 聞こえないだろうけどとりあえず謝っておく。


「と、ところで、今、私の胸揉みませんでした? 二回程」


 ……な、何のことでしょう。どさくさまぎれに僕が何かしたとでも? 証拠はあるんですかリエラさん。

 いや、この手の感触とか言われてもそれは僕以外分かりませんよ。否定させていただきますとも。名誉と命に掛けて。

 御免なさい。魔が差しました。


「も、もう、透明人間さんエッチです……」


 ちょっと顔を赤らめるリエラ。素敵です。

 抱きついていいですか?

 いや、後が怖いから本気でしませんけどね。


「あれ? 何かなアレ?」


 不意に感じた気配に頭上を見上げるリエラ。

 そこには発光する無数の生物が浮遊していた。

 人に似たような透き通った身体。

 微かな発光をしながら手のような鰭をぱたぱたと動かして宙空を漂う神秘的な生物。


 日本で見たことのある生物だった。

 氷の世界の天使と呼ばれる生物。

 ハダカカメガイ。いや、むしろクリオネという言葉の方が分かりやすいかもしれない。

 人の子供大の巨大なクリオネさんですけどね。

 それが所狭しと空を漂っている。


 淡く発光する姿はまさに神秘的。

 ただ見上げるだけなら確かに素敵な光景なのだ。

 リエラも思わず彼らを眺めてうっとりとしている。


 けど、なんという残酷なことかな。

 クリオネは氷上の天使と称されながら、恐れられている部分がある。

 そう、捕食である。

 その天使のような姿からは想像も付かない恐ろしい転身で捕食対象に襲い掛かる様は、子供のトラウマとして有名だった。


 そんな巨大クリオネが一体、リエラに近づいてくる。

 まるで妖精が近づいてきた様な神秘的な光景に、リエラは思わず握手をしようと手を差し出す。

 その刹那、僕はリエラの首根っこをひっつかんで思い切り投げ飛ばしていた。


「はうっ!?」


 僕の背後で地面を転がるリエラ。

 一瞬遅れてリエラに襲いかかるべく正体を現した巨大クリオネ。

 足元がグバリと開いて無数の触手が空を掴む。

 あぶなっ。一瞬でも遅れてればリエラが喰われてたぞ。


「な、何する……え?」


 巨大クリオネの捕食姿を真正面から見てしまったリエラが固まった。

 戦力としては期待できるはずもない。

 仕方ないのでポシェットからアルセソードを取り出す。

 バズ・オークがくれたのかただ置いただけなのか知らないが、僕にも闘える武器があるのだから有効活用させて貰おう。


 剣を引き抜くと同時に真上へと斬りあげる。

 巨大クリオネを思い切り真上に一刀両断。

 アルセソード、いい仕事してます。


 が、一体斬られたのを知ったクリオネ達が僕らに向けて動き出した。

 どうやら敵と認識されたらしい。

 まぁ僕は見えないから敵認識されてないみたいだけど、リエラとアルセは別だ。


 僕はアルセを抱える。楽しそうに笑うアルセ。

 ちょっとアルセさん。アルセのせいでもあるんだからもうちょっと反省してっ。

 リエラがなんとか立ち上がったのでその手を取って走り出す。

 おっと、斬ったクリオネさんの死体は先にポシェットに回収だ。後でコリータさんに売ってみよう。


 背後からは巨大クリオネの群れ。

 移動速度はそこまで速くないのだが、リエラの足がちょっと震えているのでこっちの移動速度も遅かったりする。

 攻撃しながら撤退でもいいんだけど、相手の数が多いので下手に足を止めるとB級ホラー映画みたいな進退きわまった状況に陥りかねない。


「な、何なんですかアレ!? ただの綺麗な生物じゃない? ゆ、夢に出てきそうでしたよ今の!」


 どんな淫夢を見るか僕は楽しみにしておくよ。

 触手ぷれ……いえ、なんでもアリマセンリエラサン。

 途中でリエラから殺気が発せられた気がして思考を中断した僕は、二人を引き連れてなんとか部屋の先にある階段を駆け上る。

 どうやら部屋からクリオネが出てくることはないらしい。


 よかった。なんとか餌にならずに済んだ。

 というかアルセ。変な罠を作動させないで。

 割りを食うのは僕だから。

 いえ、リエラがエッチになる催淫ガスみたいな罠なら喜んで作動をお願いしますけどね!


 って、だからリエラさん、なんでそんな殺気を僕に向けて来るの!?

 怖いから。なんか物凄く怖いから。特に思った事を察してしまう第六感とか怖いから。

 でも、今のトラップはなかなか凄いトラップだと思う。


 僕がいなければまずクリオネの生態なんて知らないだろうし、綺麗な容姿に騙されぼぉっとしてる間に一人が喰われてパニックになったパーティーを皆で囲んで処理する罠なのだろう。

 造り手の底意地の悪さがよく分かる罠でした。

 クリオイーター

  種族:貝 クラス:裸空貝

 ・地底湖付近に発生する神秘的な魔物。主食は主に人や他の魔物であり、容姿に見とれた相手を一瞬で捕食する。

  空中を妖精か天使のようにひらひらと漂い、透き通った身体を時折発光させて獲物を魅了する。

 ドロップアイテム・怪しい触手、透明な貝肉、チャームエンゲージリング


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