その遺跡を彼らは知らなかった
「いって!?」
突如背中に痛みを感じて僕は慌てて起き上がった。
見ればバズ・オークがすぐ傍に座っている。どうも足が背中に当ったようだ。
気付かれただろうか?
そんなバズ・オークは鞘付きのアルセソードを僕の前に投げる。
何してんの? と思ったら、バズ・オークはふごっと鼻息を鳴らしてテントに向っていった。
今回バルスたちと合同なのでテントは二つ。
折角なので男女別になった訳ですが、魔物というか魔族であるバズ・オークやクーフ、元番長はテントの外で野営を行っていた。
なのでバルス達のテントにカインとバルス。大型のカインのテントにはネッテ、リエラ、エンリカ、ユイア、そしてアルセと詰め込み状態でありました。
まぁガールズトークで昨日は夜遅くまで騒いでたね。
アルセも絵本のせいか珍しく眠ってたし。
バズ・オークはカインたちが眠るテントに向っていった。
って、このアルセソードどうするの? もしかして、僕にくれるとか?
……ま、まぁとりあえず貰っておこう。
僕はアルセソードをポシェットにしまっておくのだった。バズ・オークが探すようならアルセを介して返しておこう。
「オラァ」
「ん? どうしたツッパリとやら……ほう。我と戦いたいと?」
「オルァ!」
「ふむ。朝の運動に丁度良いか。よかろう、掛かってくるがいい」
なんか、クーフと元番長が殴り合いの闘いを始めている。
お互い結構な速度で撃ちこんでいくが凄い! なんかもうプロの試合見てるみたいだ。
「ぐあっ!?」
「ぎゃふんっ」
カインたちのいるテントから謎の悲鳴が聞こえた。
思わず気を取られた元番長。その顔面にクーフの拳が突き刺さる。
「おぶっ」
「馬鹿者。試合とはいえ他所に気を取られてどうする」
「お、オルァ!!」
まるでもう一回とでもいうように叫ぶ元番長。
クーフもよかろうとかいいつつ楽しげに拳を握る。
どうも互いに手を抜いてようやく同じくらいの戦力で戦えるようだ。
全力になるとどうにもクーフは大振りになるしリーチの差で元番長に不利になるし、このぐらいがちょうどいいんだと思う。元番長は元番長で眼からガンつけビームだしそうだし。他にも隠し玉がありそうな予感はする。
しばらく二人の闘いをぼぉっと見ていると、カインとバルスが疲れた顔で現れた。
泉に向うと顔を洗ってこちらにやってくる。
「これはまたすげぇな」
「まさに人外の闘いですね。仲間でよかったとつくづく思える動きです」
ふと視線を感じて背後を振り向けば、赤いリーゼントのツッパリ、いや番長がこちらを睨むように見ていた。
その視線はクーフと戦う元番長に向けられている。
が、それにバズ・オークが気付くと舌打ちするように踵を返してツッパリたちのもとへと戻って行った。
「わわ。クーフさんとツッパリが闘ってる!?」
「凄いわね。あれでも本気じゃないみたいだし。試合でもしてるのかしら?」
「あれで試合なの? バルスだったら今の一撃で確実に吹っ飛んでるわよ」
「俺の前で俺のこと言わないでくれないユイア。さすがに吹っ飛ばないよ。当るのは確かだけど」
そこは受け切るとか言っとこうよバルス。
ユイアとネッテ、そしてリエラがテントから出て来て一言告げる。
顔を洗ってないことに気付いた彼女たちは直ぐに湖に向っていった。
遅れて出て来るエンリカとその手に繋がったアルセが眠そうに眼を擦りながら湖に向っていった。
アルセ、多分初めてのおねむじゃないかな。可愛いから寝顔をCG集に撮っといたけど。
あの寝顔は、良いモノだ。ツボじゃないけどお勧めだね。
「オルァッ!」
「むぅっ!?」
渾身の一撃をクーフが腕でなんとか受け流す。
だけど体勢が崩れた。
すかさず元番長の蹴り。
軸足を蹴って飛び込むようにして射程をさらに伸ばしてきた。
「ぐぅっ!?」
初めて一撃を受けたのはクーフの方が先だったようだ。
片膝ついたクーフ、急に笑い出す。
「いや驚いた。ここまで重い一撃は生前でも喰らったことはなかったぞ」
「オルァ」
今回は俺の勝ちだな。みたいに得意げな元番長と立ち上がったクーフが握手を交わす。
どうやら朝の運動はこれで終わりらしい。
激しい運動ですね。僕には無理です。
「さて、皆揃ったようダシ、これからどこへ向う?」
「とりあえずツッパリさんよ。あんたの元仲間にこの近くに遺跡が無いかどうか聞いてくれないか?」
「オルァ!」
なんかさわやかに叫んだぞ。クーフとの戦いで自信が戻ったのか一回り大きくなった気がしなくもない元番長が番長達のもとへ向っていった。
意気揚々向う元番長だけど、やっぱり誰も知らなかったのだろう。
肩を落として戻ってきた。
となると、遺跡は自力で探すしかないってことか。何時見つかるんだろうなぁ……




