特別編・バズ・オークと回る城下町 ~その浮浪者がどうなったのか、誰も知らない~
本日案内で回るのはネッテ、カイン、リエラ、アルセ、バズ・オークのパーティーです。クーフやミミック・ジュエリーはまだ仲間になっていません。
「えー、というわけで。折角なのでバズ・オークさんとアルセに町の説明をしたいと思います」
アンブロシアツリーを撃退したカインたちは、しばらくの休日を行う事にしていた。
その間、バズ・オークも一人で外出するかもしれないし。という事で、今回ネッテの計らいで町中を歩きながら説明をしてくれる事になった。
僕としてもありがたいことなのでアルセと共に付いて行く。
一応、ある程度はバズ・オークよりも歩いているが、僕が知っているのは町門から石畳の通路を伝って向うギルドや武器屋、宿屋の主要な場所だけである。
メイン通りは露店も少なく行き交うのも馬車や荷車を引く人が多い。
貴族も結構頻繁に通ったりしているので通行人は自然と道の端を歩くことになり、露店を出すと歩行の邪魔になるようなのだ。
なのでこの近辺は集合住宅が多く、宿屋が数軒。あと服屋が幾つかあるくらいだ。
露店を開くツワモノも居ないでもないけれど、広げた敷物が通行人に踏まれてかなり汚れている。
時折商品を踏まれることもあり、やはりメイン通りでの商売は難しいようだ。
代わりによく見かけるのは靴磨きの少年だ。
あるいは背丈を計る青年の姿も見受けられる。
背を計るのに金取るんだ……
中央通りを歩き中央の噴水に辿りつくと、教会が一つ。
それを境に二つの道に分かれたワイ字型のメインストリート。
そして中央の噴水で左右と斜めに伸びた小道。
全てに名前も付いていて何何ストリートみたいな名称があるらしいんだけど面倒なので覚える気はなかった。
聞き飛ばしながら左の小道、武器屋のある方へと向かう。
この辺りは小道にはなるけど冒険者が多く出入りしている職人通り。
武器屋や防具屋、冒険専門の道具屋などが存在しているので夜でも賑わっている通りの一つである。
町民の就寝に邪魔にならないようメインの通りからは少しずらされているけど人の密度的にはメインの通りと大差ない多さである。
鍛冶屋も存在しているのだが、武器屋とは少し離れている。
どうも武器屋でも簡易の武器を作ったりしているようで、鍛冶専門の鍛冶屋とは商売敵になっているらしい。
ちなみに鍛冶屋が行うのはオーダーメイド品の注文や武器の修理、新武器の作成から武器屋への卸しだそうだ。
憎み合いながらも持ちつ持たれつという奴らしい。商人って凄い。
ネッテの話だと武器屋のおやっさんと鍛冶屋の偏屈親父がよく酒場で言い争っているのが見れるらしい。
なんやかんやで仲はいいのでは? 飲み友達のようだ。
そんな説明を聞きながらネッテと共に別の通りへと向かう。
武器屋から小道を斜め右上に歩いて行くと大通りの左側に直通する。
こちらに存在するのが冒険者ギルドである。
この道を右に戻ると教会に、左上に直進すると教会に着くらしい。
どっちも教会だって? 当然だ。両方教会なんだから。
左上にある教会はこの国ではメインの教会らしい。貴族も通う教会できっちりとした神父がいるため賑わいは僕が行ったことのある教会とは段違い。
でも片っ苦しいのでネッテは苦手なようだ。
その教会の通りは王城からの道と交わっており、そちらの大通りを真っ直ぐ行くと、教会、王城、換金所、貴族街といった感じになっているらしい。
ギルドの側面には王城へ向う小道が存在し、別の道と合流した後王城への直進路になるそうだ。
要するにあのロリ神父のいる教会を菱形の道が囲っていて頂点に王城へ向う道があると、なんとも複雑な造りだね。
僕らはギルド横の小道を進みながら一度折れ曲がり、もう一つのメイン通り、貴族街へ向う大通りへと辿り着く。
こちらはまず来ないそうなのだが、一応道に迷った時にはここから先には行かないようにとバズ・オークやリエラに言い含めていた。
まぁ貴族しかいないのなら、ここから先に進むといざこざが発生するね。
まず行くことはないだろう。
後日、フィラデルフィラル邸に赴くために通ることになるのだが、それはまだ、僕も知らない出来事だった。
大通りから教会まで戻り、職人通りとは逆方向に向う。
こちらは飲み屋街らしい。
酒場が多く、脇道にはなにやら怪しげな店が見える。
今は昼間なのでその辺りはしまっているみたいだけど、多分色町とか花屋街とか呼ばれる場所だろう。
バズ・オークには関係ないしネッテとリエラが案内役なのでそっちの小道は行かなくていいとバズ・オークに念押ししていた。
ぼったくりも多そうだし、カインと一緒でも絶対に行かない方が良いと思う。
特にカインの奴は普通に引っ掛かりそうだ。
というわけで、とりあえず飲み屋街では酒場を何軒か紹介して貰った。
まず行くことはないらしいけど、レイドパーティーなどで他のパーティーと組んだりした場合の打ち上げで使用するので集まる酒場の名前は覚えておいた方が良いらしい。
よく使われる有名店を数店紹介されて、僕らは宿屋のある入口近くへと戻ってきた。
ちなみに今回路地裏が沢山あったのに行かなかったのは、そちらは空から危険な物体が落下しまくり、地面が殆ど掃除されていない悪臭地帯らしいので絶対に誰も行こうとはしなかったからである。
中世的な世界観はこの辺りが恐ろしい。ネズミ見つけたら即行逃げよう。黒死病とか蔓延しそうだ。
バズ・オークも鼻を顰めていたし、アルセはそっちの路地裏に近づこうともしなかった。
普通草木と言えば肥は肥料になるんだけど……いや、まぁ笑顔で突入されるよりはマシだね。
あ、おばさんが今三階から劇物を投げてる。って、待った。誰か歩いてるっ。気付いてッ、頭上、頭上ッ!!
おそらく浮浪者の一人だったのだろう、彼はようやく手に入れたらしいお金に眼を奪われながら歩いていた。
凄く嬉しそうに、きっとあの路地の先に家か寝場所があるのだ。
だが気付いてくれおっちゃん。不幸はすでに真上から忍び寄って……あ、ああ、あ~あ……
その後、バズ・オークとアルセ、そして衝撃の光景を見たリエラは二度と路地裏に近寄ろうとすらしなくなった。




