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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その不良系魔物の生態を彼らは知らない
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その土下座の意味を彼らは知らない

「オルァッ!!」


「オラッ」


 一回り大きなツッパリと元番長が対峙した。

 互いに顔を近づけ合う。

 ツッパリは睨みつけるように元番長に肉薄し、眼を見開いたり無数の角度から睨みつけたりしている。


「え、エンリカ、バズ・オーク、訳してくれる?」


「は、はい。いいですけど、どうもバズ・オークさんが理解できるのは味方になってくれたツッパリさんの言葉だけみたいです」


「それでもいいわ」


 ネッテに促されてエンリカがバズ・オークの、バズ・オークが元番長の翻訳を始める。


「オルァッ」


「オルァ!」


「オルァッ!!」


「ドラァッ!!」


「ぶひ」


「えーっと、リーダーに戻れみたいなことに反論してるのかな? 俺はこいつらに付いて行くって決めたんだ。とか、信念を曲げる気はねぇ! 負けた俺はこの人の舎弟になった。それだけだとか?」


 舎弟って……ああ、アルセの舎弟ね。マジで!?

 元番長の信念としては自分が敗北認めた人の舎弟になるってことか。


「オルァッ!!」


「ゴルァ!」


 なんか、険悪なムードになってるんですけど、なんで?


「どうやら、戻る気がないからお前がリーダーになれみたいなことを言ったみたいです」


 それで向こうが怒ってるのね。


「オルァッ!!」


 ああっ。ツッパリがいきなり拳を振った!?

 元番長はその拳をまともに頬に受け殴られる。

 が、その場からは一歩たりとも引こうとしない。


「オルァっ!?」


 その意志の強さに気付いたツッパリが青筋浮かべて再び拳を握り込む。


「オルァッ!!」


 そこからは、サンドバッグを殴るような連撃が元番長に襲い掛かった。

 しかし彼は一切反撃することなくひたすらに拳を受け続ける。

 ツッパリは必死に殴った。殴りながら何故か涙を流していた。


「オルァッ! オルァッ!! オラァァァッ!!」


「オルァ……」


 拳を打ち込みながら泣きだしたツッパリに、元番長は殴られながらも膝を突いて両手を地面に、そして、ただただ厳かに土下座した。

 何かを呟いたけど、バズ・オークが何も訳さなかったので僕らにその言葉が伝わることはなかった。

 ただ、バズ・オークが何かに感動したように大空を仰ぎ見ていたので、何らかの漢気に感動しているのは理解した。


「オルァッ!」


 そんな元番長に立てよッ! とばかりに叫ぶツッパリ。

 しかし元番長が立ちあがらないことを知ると、涙を拭いて空を見上げる。


「ウオルァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 慟哭にもにた絶叫が迸った。

 驚いたバルス君がひっくり返っていたけど、他の面々はなんとか耐えきったようだ。

 !? バルス君、大洪水! 大洪水になってますよ!?


 一瞬バルスに意識が向いた僕がもう一度ツッパリを見た瞬間、既にそこにツッパリの姿はなかった。

 リーゼントが真っ赤に染まった新たな番長が、生まれていたのである。

 なんだ、この猿の星人が初めて金髪になった時のような凛々しげな顔は?


「オルァ」


「ドラァ!」


 一言告げ合って新番長はツッパリたちのもとへと戻って行く。

 その言葉を聞いた元番長はゆっくりと立ち上がり土を払うと、憑きモノが取れた顔で俺達に振り向いた。


「オルァ」


「ぶひ」


「どうやら許可が得られたようなのでここでゆっくりしてもらっていいそうです」


 うーん。決定的瞬間を見逃してしまった。

 そしてバルスはいつの間にかテントに籠って自分だけ着替えを済ませ、ガイアアーマーの前垂部分を湖で必死に洗っている姿が見えた。


 誰も気付いてないぞバルス。よかったね。

 あ、バズ・オーク、そんな鼻をひく付かせないであげて。

 君の視線が向く度にびくついてるからっ。


「はぁ……ツッパリたちの生態を見せられた気がします」


「ミクロン連れて来てたら大喜びだったでしょうね」


「お? どうしたアルセ? なんだその書物?」


 さっきまで踊っていたアルセだが、なぜかカインに駆け寄ると、手にあの絵本を持ってにへらと笑ってみせた。


「水晶勇者の物語? ああ、子供用の絵本か。俺も母さんによく読み聞かせして貰ったな。なんだ? 読んでほしいのか?」


 と、絵本を手にしようとすると、アルセはひらりとカインの手をかわした。


「あれ?」


「きっとカインさんに見せびらかせたかったんでしょう。(自分のプレゼントだぞって)」


 リエラがそんな事をいいながらアルセの頭を撫でると、気付いたアルセが絵本を差し出してきた。


「うん、じゃあテントに入ろうアルセ。読んであげるね」


 おお、リエラがお母さんのような慈愛に満ちた顔に!?


「なんだかリエラさんがお母さんみたい。子供かぁ。ああいうの、楽しみですね」


 ねぇ? とリエラとアルセの姿を見ていたエンリカが意味ありげにバズ・オークに視線を向ける。

 不自然に視線を合わせないバズ・オークが空を見ながら顔を赤らめていたのは気のせいだと思いたい。

 リア充爆死しろ。エロ豚め。

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