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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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外国に行くと決めてみる。

 依頼を終えてギルドに報告し。(ゴブリンの巣四つを日帰りで潰してきたので、相変わらずギルドには呆れられた)

 拠点とする宿屋の食堂に戻ってきた太一、凛、ミューラの三人は苦笑していた。

 今日の客員冒険者がテーブルに突っ伏している。まるでくたびれた老木のよう。真っ白に燃え尽きている。

 

「なにー? タイチ君たちについていったの?」


 クーフェのおかわりを持ってきたアルメダが、アレンが打ちひしがれている理由を聞いて呆れていた。


「何でまた?」

「あー何でも、アズパイア防衛線で俺たちの戦いが見れなかったのが心残りだったんだと」

「怪我してたからねぇ」


 怪我人でさらに駆け出し冒険者と来れば、戦闘に参加させてもらえなくても納得である。

 冒険者のお得意様が多いここミスリルで何年も働いているアルメダはかなりの事情通だ。ちなみにあの日、彼女は後方にてバックアップをしていた。その時にアレンの怪我の応急手当もしたのだ。

 アルメダも太一たちの戦闘を実際に見たわけではないが、噂は耳に入ってきた。

 黒髪の少年少女が、オーガをあっという間にやっつけた、と。アズパイアに黒い髪の人物は太一と凛しかいないことは分かっていたため、活躍したのが彼ら二人だとすぐに分かったのだ。

 ふう、と溜め息一つ。アルメダは笑顔を浮かべてアレンの肩をぽん、と叩いた。

 

「アレン」

「……なんだよ」


 鬱陶しそうに顔を上げるアレンに。


「身の程知らず」

「うっ!?」


 言葉の刃その一。


「足手まとい」

「ううっ!?」

「お邪魔虫」

「うううっ!?」


 手心一切無し。言葉の刃その二その三が容赦なく突き刺さる。


「邪魔だけした上に、きちんと分け前もらったんでしょ? 恥ずかしくない?」

「うぐぅ……」


 止めがクリティカルヒットし。

 アレンは撃沈した。

 いい仕事をしたと言わんばかりに両手をパンパンと打って何かを払う仕草をするアルメダ。彼女の足元では叩きのめされたアレンが痙攣していた。


「ちょ、ちょっとアルメダ。そこまで言わなくてもいいんじゃ……」


 かなり痛烈な批判だった。そこまで気にしていない太一たちにとっては言いすぎと思わなくも無い。そう思った凛がフォローしようとするが。


「ダメ。甘やかしてもコイツのためになんないんだから」


 いつまでも床に突っ伏しているアレンの首根っこを掴み、椅子に座らせる。肝っ玉母さんを見ているようだ。


「冒険者なんてのは自分自身と向き合う仕事でしょ。もちろん目標を持つのはいいことだけど、最初に立てる目標としては、タイチ君たちは遠すぎるよ」


 身の丈に合わなすぎる、と容赦なかった。


「んな事言ったってよ! 志は高く持てって言うじゃねーか!」

「はいはい。足元もロクに見えてないのによく言うわ」

「うっく……」


 一瞬で反論を封じられるアレン。どうやら彼ではアルメダにはまるで敵わないらしい。

 散々ボコボコにしてようやく気が済んだのか、アルメダはやっと矛を収めたようだ。


「まったくもう。タイチ君たちの噂を聞けば、どれくらい力が離れてるのかなんてすぐに分かりそうなものじゃない」

「……分かんねーよ。だから、ついていったんだ」

「分かんないってあのねえ。アレンじゃまだゴブリンの巣、一人で潰せないでしょ」


 返事が無い事を肯定を受け取るアルメダ。

 そして、くるりと振り返り、太一らに目を向ける。

 三人に向けた質問は、「ゴブリンの巣を、一人でやってどの位掛かる?」である。

 凛は「魔法二~三発」、太一は「剣だけでやって一分以内」、ミューラは「何も考えずにやって二~三分」と答えた。

 ちなみに凛は周囲への影響を考えない場合、である。周囲への延焼や自然が荒れることを考えると、あまり強い魔法は撃ちたくないと付け加えた。

 戦闘が出来ないアルメダから見ても、この答えが既に図抜けている。

 ゴブリンの巣を一人で潰すのなら最低でもDランクはいるのではなかろうか。安全マージンを取るならCランクは必要かもしれない。Aランクに匹敵する太一たちとはそれほどの差があるのだ。


「タイチ君たちの強さを知ろうと思ったら、ある程度強くなきゃ実感できないんじゃないの?」


 いわゆる、凄すぎて何が凄いのか良く分からない、といった状況だ。アレンはまさにそんな心境である。

 そもそもオーガを倒せるという時点で、アレンでは参考にならないのではないか。アルメダはそう思うのだ。


「くう……。分かったよ。俺が間違ってた」


 よろしい、と言ったアルメダが、ほっとした顔を浮かべたのを、太一は見逃さなかった。

 何だかんだ言っても心配なのだろう。太一たちと一緒であれば、この辺をうろつく限りは危険はほぼないと言っていい。もしかしたらアレンのプライドに傷をつけるかもしれないが、ミューラは条件に「こちらの指示に従うこと」と明言したし、命には変えられないと割り切ってもらうしかない。

 それよりも、少し気になる。アレンとアルメダが妙に親しげなのだ。太一たちは二人が知己だとは知らなかった。何か関係があるのかもしれない。


「ねえアルメダ」

「ん? 何かなリン」

「アレン君とは知り合いなの? 仲良さそうだけど」


 アルメダはあれ? と首をかしげて、その後手をぽん、と打った。


「ああ。言ってなかったか。アレンはわたしの従兄なんだ」

「従兄?」

「そうなの?」


 新事実発覚だ。アルメダの心配そうな顔も納得だ。


「手が掛かるんだよー」

「ちっちゃいころお兄ちゃんお兄ちゃんって後ろくっついてばっかりだったくせに」

「なあに? また呼んであげようか。お・に・い・ちゃ・ん」

「や、やめろ!」


 アレンは顔を赤くして反論する。対するアルメダの楽しそうなこと。本当に仲がよいのだと思わせる一幕だ。

 じゃれあう二人を見ながら、太一は故郷の姉を。凛は同じく弟を思い出していた。

 太一は姉と仲は悪くなかった。年頃としては珍しい方だろう。というよりも、大学に入って彼氏を作るまでは、やたら太一に構ってきていたのは姉の方だった。早く弟離れしろよー、なんてからかっていたのが、いざ実際にそうされると若干の寂しさを覚えたことに自嘲したものだ。

 一方の凛は、思春期の弟を微笑ましく思っていた口だ。中学生になって大人ぶってきた弟は、恥ずかしがってあまり凛と顔を突き合わせて話さなくなった。それが寂しかった凛だが、大人になったのだと思うことにしたのだ。弟はふと、姉がかなりの美人であることに気付いてしまったからだったとは、凛は無論知る由もない。

 故郷を思い出してどこか遠い目をしている太一と凛を、ミューラは複雑な瞳で見つめていた。


「それにしても、三人とも凄いよねー」


 急に水を向けられて、太一たちははっとしてアルメダを見た。彼女はこちらを憧れの眼差しで見つめている。

 単純に称賛していると思われる。最初は居心地が悪かったそれも、今は普通に受け止められるようになった。

 どのみち、これからもそのような称賛を受けることは分かっている。その度に「素質は棚ぼた」と考えて謙遜するのもバカらしくなったのだ。確かに素質は棚ぼたであるが、その素質を生かすために努力をしたのは確かであり、全く苦労をしなかった訳ではないのだから。

 大きすぎる力を制御するための努力はやはり楽なものではなく、今だってかなり頭を使う必要がある。出来ることが多すぎるが故の贅沢な悩みではあるが、考えるとキリが無いのでそこはあえて気にしないことにする。


「運良く素質があったみたいでさ」

「お陰様で危険少なくて助かってるよ」


 強ければ攻撃を受ける前に倒すことが出来る。攻撃は最大の防御とは良く言ったものだ。


「素質かあ。それだと真似はできないかなあ」


 努力で実力を伸ばす者は確かにいる。だが、元々持っているキャパシティの上限に達した場合、その後は工夫をしていくことになるのだ。もちろんそこからでも実力の伸ばしようはあるが、素質そのものを伸ばすには途方も無い努力と時間が必要なのだ。

 素質を伸ばすことそのものに費やせるほど、人間には時間が存在しない。エルフなど長寿の種族であればその限りではないのだが。


「まあなあ。俺たちだって、素質が低かったかもしれないんだしな」


 こればっかりは方便だ。召喚魔術で召喚された以上、素質が低いということは無いだろう。その力を持っているからこそ選ばれたということだから。


「ま、アレンはこつこつやるしかないねぇ」


 バシバシと背中を叩くアルメダ。アレンはゲホゲホと咳き込んだ。


「それだけ強いんなら、色んな国を巡ってもいいんじゃないかなぁ」

「ん?」

「国を巡る?」


 ぽつりと言われたのが予想外の言葉だったため、太一と凛が目を丸くした。


「うん。よっぽど準備しないと、遠出は危険なんだよ。だから隣の国に行ったりする場合は、冒険者の護衛を雇ったりしないといけないんだ」


 ついでに定期馬車などを利用する場合、乗車料金も洒落にならない金額になる、と苦笑するアルメダ。他国を目的地とする場合、普通の生活をしていては、片道の料金でさえ捻出するのは難しい。


「三人なら護衛しながらお金かけずに街を転々と出来るわけだし、他所の国に行けるなんてわたしはすごく羨ましいけどなぁ」


 他国へ行く。考えたことも無かった。確かに、活動場所をエリステインに限定する必要は無い。拠点はエリステインのレミーア宅でいいかもしれないが、活動する場所を一定期間他国に移すというのは選択肢としてあがってもいいはずだ。むしろ何故今までそこに目が行かなかったのか。

 人生一度は外国に行ってみるといい、なんて言葉は、日本でも時折聞いた。日本も確かにすばらしいが、海外の異文化に触れることで見聞が広まり、また違った視点から物事が見れることもある、と。とある旅行好きの、太一にとって身近な女性は常々口にしていた。まあ、彼の姉のことであるが。


「陸続きでいける国って、シカトリス皇国とガルゲン帝国だっけ」

「そうだね」


 凛の言葉にアルメダが頷く。

 どうやら彼女も気になっているようだ。


「片道だとどのくらいかかるもの?」

「さぁー。利用したことないから分からない。ごめんね」


 アルメダは眉を八の字にしてそう言った。謝られることでもないため気にしないように言い、太一は腕を組んだ。


「とりあえず金貨三枚持ってけば足りるか?」


 突然出てきた金額に、アルメダとアレンが目を白黒させた。

 金貨三枚と言えば、四人家族が一年暮らせる額。それを簡単に口に出来るとはどういうことなのか。


「念を入れるならもっと多い必要あるよね」

「冒険者ギルドなら大体の街にあるだろうから、そこまで多くなくてもいいと思うわよ。というか、金貨なんて出されても、普通のお店にお釣りなんか無いわよ」

「ああ、そっか。崩して持ってく必要があるか」

「それだと嵩張るね。やだなあ」

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「ん? 何慌ててんだ?」


 肩で息をするアルメダに割り込まれる。その理由が分からずに首を傾げる三人。


「そ、そんなお金どこから出てくるの?」

「あ」


 そういえば金貨三枚といえば大金だった。三人が三人とも失念していた。依頼をこなせば貯まって行く。元々欲しいものがあるわけでもないし、太一の防具は高価でなくてもいいし、凛とミューラの装備品は結構値が張るが、それでも傷を負うわけでもなし。日ごろの手入れを怠らなければ修理や買い替えの必要に迫られることもない。

 エンゲル係数はそれなりに高くなったが、それ以外でかかるのは宿代、消耗品の必要経費のみ。使い道はそれ以外では探すのが難しい、というのが現状だ。

 また暇つぶしとしてそれなりの頻度で依頼を受けているため、金は貯まる一方だ。金貨三枚くらいなら、躊躇わず出せる程度には貯まっている。

 それを説明すると、聞いていたアルメダは静かに椅子に座った。呆けた顔で「これが、Aランク……」等と呟いている。アレンの方は指折り数えていたが、途中から放棄したらしい。考えたら負けだとでも考えたのだろう。

 この様子では、エリステイン王家からの報酬のことは黙っていた方がよさそうだ。金貨二〇〇〇枚が届いたことは。

 いざそれを目の前にして思ったことは「どう使えと?」である。日本でなら豪邸に高級車に海外旅行に……となるところだが、あいにくこの世界ではレミーア邸が豪邸だし、馬がなくても足で十分速く移動できる。流石に長距離を足で移動するワケにもいかないが、どこかを転々とするわけでもないため、今は馬車も必要ない。

 そこで、おあつらえ向きと思った使い道が、他国へ行ってみる、だったのだ。

 少し散財しながら旅行気分を味わえるかもしれないのだ。腐らせるよりはよっぽどいいだろう。

 

「やっぱり、タイチ君たちは規格外よ」

「やっぱそうだよなー」

「一応自覚あるんだ……」

「それは、うん、まあね」


 太一の潔い肯定に凛が追随する。ここで話してしまったのが運のツキ。バレてしまったものは仕方がないので、開き直ってしまおうと、太一は適当に考えた。


「はは……金貨三枚ってなんだよ……俺どんだけ依頼受けたらそんなに貯まるんだよ……ははは……」


 壊れてしまった者約一名。

 アルメダが彼の顔の前で手をひらひらさせながら「おーい」と呼びかけられているが一向に返事が無い。完全にどこかに旅立ってしまったようだった。


「ん。折角だから、他国に行ってもいいかもな」

「そうだね。それにもっと早く気付いても良かったのに」

「あたしたち揃ってその選択肢が頭から飛んでたわね」


 そう。そのつもりになって話していたら、行きたい、という気持ちが一気に膨れ上がったのだ。

 太一はもうこれは行くしかないだろう、というところまで傾いている。

 凛とミューラも思いの外乗り気なため、今後は国外への旅に向けて準備や情報収集となるだろう。

 一方気まぐれで「外国に行ってみるのはどう?」と口にしたアルメダは、こんな簡単に話がそちらに行っている事に驚いている。


「ね、ねえ。言い出しておいて何なんだけど、そんな簡単に決めちゃっていいの?」

「いいんじゃね? 折角行けるんだし。今は何か予定がある訳でもないし」

「うん。他の国ってのも気になるしね」

「あたしも小さい頃は別の国にいたけど、後はずっとエリステインだったから。久々に外国に行くのもいいって思ってるわ」

「そ、そう……。三人がいいって言うならいいんだけど」


 本人たちがいいと言うなら、それをアルメダに止める理由は無い。彼らは冒険者。風の吹くまま気の向くまま、色々なところへ旅をする者も多いからだ。太一、凛、ミューラのように一つの街に腰を落ち着けている冒険者の方が実は少数派だったりするのだ。


「じゃあ、シカトリスとガルゲンどっちにすっか?」

「えっと、シカトリスがどちらかというと北側で、ガルゲンが南だったかな?」

「そうだよ。シカトリスはもう冬真っ盛りだと思うな。地理的にもアズパイアより上だし、高度も高いから。冒険者のお客さんが言ってたんだけど、ガルゲン帝国は縦長だから、南に下って行けば、冬でも暖かいらしいわ」


 アルメダの解説に食い付いた者が約一名。


「決まりね。ガルゲン帝国にしましょう。そして南に下るのよ」


 ミューラがそう断じる。

 何故シカトリスはダメなのか。確かあの国は白色族という種族が主に暮らしてる国だ。白色族とは大地に根付く強い魔力によって変異した人間のことである。アルビノではないが白い肌に白い髪を持つ。全員が老化が遅く、押しなべて長寿。またエルフほどではないが、人間と比べると美形が多いと評判である。強い魔力にさらされてきた影響からか、魔術が得意な種族である。一方で身体能力は人間のそれよりも劣り、またタフさでも人間を下回る。美しく、儚い。そんな言葉がしっくり来るのが白色族である。

 白色族が多く住む街に冬に訪れると、白い雪と白い色の人々でとても幻想的な景色が見えると凛は本で読んだ。一度は行ってみたいと思っていたのだが。


「寒いのヤ」


 子供のように嫌がるミューラ。いくら克服のために頑張っているとはいえ、嫌いなものがすぐ好きになるかといえばノーだ。太一と凛は小さく笑う。

 そんなオチもつきつつ、ガルゲン帝国を南下するルートでの、エリステイン国外遠征が決まったのだった。






◇◇◇◇◇






「ほう。ガルゲン帝国か。良いではないか」


 宿屋ミスリルを引き払って、二週間ぶりにレミーアの家に戻った太一、凛、ミューラの三人。ガルゲンに行くことにしたとレミーアに伝えたところの返答がそれであった。


「あれ。ずいぶんアッサリだな」


 色々と聞かれたり、もしかしたら反対されるかも? 等と考えていたため、即座に了承されたことに拍子抜けした。


「ん? 何だ、反対して欲しかったのか?」

「いや、そーゆーワケじゃないけどさ」

「なら良かろう。お前たちが行きたいと言うなら行って来たら良い」


 冒険者なら、自分が行動したいようにするのが基本だとレミーアは言った。


「お前たちは自由だよ。何にも縛られぬ。お前たちの実力ならガルゲンへの旅程度なら大して危険はあるまい。私は安心して送り出すことが出来る」


 強いというのはやはりいいことである。アルメダは旅は「危ないもの」と言っていたし、レミーアも「強くて安心」と言った。

 反対されないのなら、是非行ってみたい。三人の気持ちは既に旅の最中だ。太一と凛は分かりやすいし、ミューラも表情には出さないだけでワクワクしているのだろう。

 レミーアが三人の感情を正確に読み取り、心の中で笑っていることには気付いていない。


「あ、レミーアさんも行きますか?」


 ミューラの問い掛けに、しかしレミーアは首を横に振った。

 どうやら彼女は行かないらしい。ずっとここで留守番でもしていると言うのだろうか。


「いや。私はウェネーフィクスの王立図書館にでも篭ろうかと思っているよ」


 王立図書館、と口にしたときのレミーアが、とても楽しそうだった。

 あの場所は知識の壷。そこに大手を振って入り、堂々と篭れるというのだから、知識欲が非常に旺盛な彼女にとっては宝部屋にでも入るような心境なのだろう。


「王立図書館に?」

「うむ。個人的に調べたい事もあるし、時空魔法や迷い人についても調べる必要があるからな」

「「……」」


 元々の目的はそれだ。太一たちが国外に出て見聞を広めている間、彼女は一人で調べてくれるというのだ。

 太一と凛が次元を超えるために必要な知識や可能性を探る行動である。

 それをレミーア一人に任せるとなり、太一と凛は途端に申し訳ない気持ちになった。それが表情に出ていたのだろう。レミーアは「気にするな」と小さく笑った。


「お前たちでは手伝えぬよ。やっと現代語を覚えてきたお前たちが、どうやって現代語よりも桁違いに難解な古代アルティア語を読むというのだ。手伝ってもらうにも、フォローをしながらやるくらいなら私一人の方がよほど効率的だ」


 古代アルティア語。今は失われし、数千年前にこの世界で使われていた言語である。現代でその言葉を解読できるのは世界でも一パーセントといないだろうといわれている。レミーアはそれを読める希少な一人であった。

 因みにミューラも古代アルティア語は多少解読出来るのだが、彼女の役目は冒険者としての経験を太一と凛にも提供すること。彼ら二人も大分慣れてきたとはいえ、ミューラから見てまだ少し甘いところもあるのが実際のところだった。知識として知っていても、実際に経験するのとではまた違うのである。


「それに、これは私の趣味も兼ねる。調べるのはお前たちの事に関してだけではない。私の研究している題材で、資料が足りずに滞っているものがいくつあると思っている。その足しにするためにも行くからな」


 ざっと少なく見積もっても三〇はあったはずだ。かつて雑談をしている時に尋ねてみたらその位だと言っていた記憶がある。

 因みに内容については、適当な題材を一つ選んで貰ってさわりを話してもらった。二分も経たないうちに太一にはちんぷんかんぷんになってしまった。凛とミューラは少しだけ耐えていたが、それでも一〇分もしないうちに二人ともダウンしていた。

 やはりレミーアの頭はデキが違うようだ。是非その構造を見てみたいところである。


「じゃあ、すみません。お願いします」


 凛が頭を下げる。それに合わせて太一も何となく頭を下げた。


「うむ、任されよう。お前たちは思う存分楽しんで来るといい。私はその間基本的にウェネーフィクスを離れるつもりは無い。気が済んだらウェネーフィクスにおいで」


 快く許可を出してくれたレミーアにもう一度礼を伝える。

 そうと決まれば忙しくなるのが遠出前だ。

 本来国外への長距離移動ともなれば危険が伴うのだが、太一、凛は旅行気分でいた。その辺がやはり、チートと言うべきであろう。

 浮かれ気味の二人を見て、ここは自分がしっかりするべきだなと気を引き締めるミューラ。しかし彼女の足取りが普段よりやや軽いのは、今だけは目をつむってあげるべきだろう。

 そんな三人の背中を、「歳相応だな」とほほえましく思いながら、レミーアは見送ったのだった。

2019/07/17追記

書籍に合わせて、奏⇒凛に名前を変更します。

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