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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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客員冒険者アレン

 朝焼けが街を照らし出した頃、ミューラはむくりと起き上がった。
 小鳥のさえずりが耳に届く。横でまだ寝ている奏を起こさないように寝巻きから着替えて手拭いを持って、部屋を出た。
 ミューラの朝は早い。まだ大多数が寝ているだろう宿の廊下を、気配と足音を消して歩く。この瞬間から、ミューラの訓練は始まっていた。
 階段を降りて、裏口から外に出る。大分肌寒い季節になってきたと、澄んだ空を見上げてそんなことを思う。徐々に寒くなっていくだろう。

「もうすぐ、冬ね」

 寒さがそこまで得意ではないミューラにとっては、少しばかり憂鬱な気分だ。
 身体の隅々まで意識を行き渡らせる。ミューラの戦闘においてそれはかかせない要素。それ故に、寒さで感覚が鈍る冬はミューラの戦闘力を低下させる恐れがあるからだ。
 とはいえ、それが分かっていながら指をくわえて眺めるだけのミューラではない。難点が分かっているならそれを克服する手を講じるだけだ。
 朝夜と冷え込んできたこの時期、身体を馴らすにはもってこいだ。
 井戸から水を汲み上げて顔を洗う。一度。二度。三度。
 洗い終わる頃には、手拭いを取った手が冷たくなっていた。これでいい。
 まずはこの状態から。慌てなくてもどんどんと寒くなっていくのだから。
 手拭いをリボンの代わりにして髪を束ねる。普段結うことはない。今は手拭いが邪魔なのだ。
 その格好のまま、ユーラフを出た。眼前には広大な草原が広がっている。朝露を浴びた草がひんやりとした空気を更に強くしている。
 街からしばらく歩いて離れ、適当なところで足を止めた。
 ここならば多少大きな音を出しても問題あるまい。
 その場で立ったまま、ミューラは体内の魔力を活性化させる。今朝の訓練課題は、魔力の効率的な運用。
 剣による近接戦闘が軸になる以上、強化魔術は常に使用することになる。特にミューラは繊細な強化魔術の使用が必要だ。奏やレミーアのように運動性能と反射神経だけ強化すればよいというわけではない。魔力強化で肉弾戦を挑むときの太一からはいいところを盗めると思うが、生来のセンスなのか、豪快な速度や攻撃力に反してとても繊細な制御をしていたりするのだ。特に見事なのは部分強化の切り替えの速さ、タイミングの正確さ。あれはもう魔力強化だからこそなし得るのではと思うほどだ。ミューラが駆使する強化魔術ではどう頑張っても半拍の遅れが出る。時間にしてほんの一瞬。しかし詰められない永遠の一瞬。
 いくら頑張っても現時点での実力では届かないと判断したのは、今から一月半前のことだ。努力では届かない領域なら、ひとまず置いておいてもいいだろう。他にも出来ることはあるのだから。
 ならばとミューラが目を向けたのが、強化魔術の運用力向上。これはそのまま実力のアップに繋がる。体内で活性化させた魔力を掌に凝縮する。魔力の操作は悪くない。これについては太一と奏にも負けていない。彼らのセンスが本物なのは認めるが、そう簡単に追い抜かせてやるつもりもないのだ。

「強化。属性、土」

 普段は無詠唱。息をするように発動出来る強化魔術を、あえてきちんと詠唱して発動させる。
 強化ポイントは足と腕。脚力と腕力が劇的に向上しているのが感覚で分かる。何も制限がない状態で使用した強化魔術の効果はかなり高い。これが戦闘中にかけ直したりする場合、他のことと同時進行になるためどうしても粗が出てくるのだ。まずはどんな時でもこの水準で強化魔術を使えるようになるのが目標。
 強化魔術が施された自分自身と向き合い、この感覚を身体に覚えさせる。
 ある程度維持したところで、強化魔術を意識から完全に外した。今は無意識下で強化されている状態。ミューラは左手を適当な地面に向ける。

「火炎破!」

 ずしんと腹に響く轟音を伴い、地面が直径五メートルの円を描いて吹き飛んだ。火属性爆発魔術の派生系、火炎破。
 ファイアボールも着弾すれば爆発のように炎が広がるが、この火炎破は直接指定した座標に火柱を立てる魔術。標的に向かって飛んでいく魔術ではない分、避けるのが難しい。
 しかし一方で、あまり日の目を見ることのない魔術でもあった。火属性の魔術師でも、人によっては覚えない者もいるくらいだ。
 その理由は、座標指定という照準方法にあった。空間を三次元的に捉え、座標を正確に認識。その中心点に火柱を立てる必要がある。その手順が煩わしいのだ。ファイアボールなら、ヒットさせたい場所を強く念じて放てば、ド素人でもそこそこの命中率を保てる。意表を突くにはうまくやらねばならないが、それを差し引いても使い勝手は圧倒的にファイアボールが上だ。

「やっぱり、乱れた」

 大方の予想通り、強化魔術の精度が下がっている。それはほんの少しの差だったが、積み重なれば無視できないものになる。いくら面倒な魔術を使ったとはいえ、なんの妨害もない状態で放ったのだから、この結果は無視できるものではない。これが戦闘中なら、相手から当然妨害が入る。そちらに意識を向けていたなら、この下がり幅は更に大きなものとなるだろう。
 目指すべきは、強化魔術の効果を減衰させずに火炎破を撃てるようになること。簡単な道のりではないとは思う。しかしそれを実現させたときの自身を思い浮かべれば、やりがいはかなり大きい。
 二つの目標を改めて確認したミューラは、まずは強化魔術を更に洗練すべく、自分の世界に没頭するのだった。





◇◇◇◇◇





 ユーラフからアズパイアに戻って三日。何か手頃な依頼はないかと掲示板を物色する太一と奏。ミューラは手持ちの道具を補充するために別行動を取っている。
 異世界アルティアに来て半年が経った。この世界の文字を覚えようと真面目に学んでいた奏は誰かの手助けがなくても依頼書くらいは読めるようになっていたし、奏ほど真面目にはやっていないものの、太一もある程度の単語や簡単な短文などは理解できるようになっている。
 この世界に来た当初は良く分からない記号の羅列にしか見えなかった依頼書も、今は何を指しているのかそれなりに理解が出来る。
 太一のパーティは現在冒険者ランクBだ。ウェネーフィクスから帰還した後にランクアップの報せを受けたのだ。アズパイア防衛の功績から、本当ならAランクへと打診もあったが、断った。太一たちはランキングに余り拘りがない。レミーアやスソラがAランクであることを考えれば、太一と奏もAランクになってもおかしくはない。
 まあ、相応のランキングに近づいてきたと言うべきだろう。他の冒険者たちから向けられる憧憬の視線が少し気になるところだが。
 掲示板を眺めていた太一が、腕を組んで呟いた。

「ゴブリン退治でもやるか」
「めぼしいのないもんね」

 掲示板を眺めて思ったのが、自分等の実力に見合う依頼がない、ということ。太一にとって張り合いがある相手というのは洒落になっていないが、ここに貼り出されている依頼では、奏かミューラが一人で受けても十分完遂できるものばかりなのだ。
 大抵の依頼には適正ランクが設けられている。しかしそこに、Bランク冒険者を指定した依頼は見つからない。仕方がないのでどのランクでも受けられるゴブリン退治を選んだというわけだ。
 ゴブリンの繁殖力は尋常ではなく、減らす先から増えていく。つまるところ、ゴブリン退治の依頼がなくなることはない。冒険者には「困ったときはゴブリン に会いに行け」なんて格言があるくらいだ。
 ゴブリン退治の依頼は全部で六つ。そのなかでも数が一番多いコロニーを指定している依頼書を掲示板からひっぺがした。

「ゴブリンの総数二〇〇以上だってよ」
「うわ。随分と多いね」

 醜悪な姿の二〇〇の群れ。思わず想像してしまった奏が眉をひそめた。

「五~六〇のコロニーが四つくらい纏まってるんだってさ」
「なるほどね。二〇〇のコロニーがあるのかと思った」
「流石にそれはないわー」

 過去にはそういうコロニーがあったと報告がされたことがあるのは、太一と奏も知っている。しかしそれはかなり特異な例であり、普通に考えたら五〇とか六〇が平均的である。冒険者として初めて受けた魔物討伐の依頼もゴブリンだった。その時のゴブリンの巣も数は五〇くらい。あれが平均値である。

「よし。ゴブリン、君に決めた」
「全く育てる気にならないなぁ」

 そんなどうでもいいやり取りをしている太一と奏に近付く少年が一人。

「タイチ、カナデ。久し振り」
「ん? アレン君だ」
「ようアレン」

 あの時、レッドオーガの話を聞いてへたれていた太一と奏の尻を叩いた少年だ。
 太一。奏。ミューラ。アズパイアの冒険者たちは、彼らが未だにBランクなのが信じられないと思っている者が多数。実力的には全員がAランクでもおかしくはないのだ。
 冒険者ランクAは、もう雲の上の存在である。滅多に出会うことは出来ないし、出会っても声を掛けることなど畏れ多い部類だ。
 数多の修羅場をくぐり抜けた歴戦の勇士。Aランクの冒険者を一言で表現するならそれだ。
 だから。誰もが声を掛けることを躊躇ってしまう太一と奏に対して普通に接することが出来るアレンは、他の冒険者から「度胸満点」と見られている。一方太一と奏からすれば、低ランクの頃の姿も見せているだけに、肩書き一つで変わる反応に若干の居心地の悪さと、冒険者ランクが持つ影響力に驚いていた。

「調子はどう?」
「まあまあかな」
「俺があげた剣、使えるようになったか?」
「……無理だって。こないだもそう言ったろ? まだまだ剣に振り回されてるよ」

 太一の剣は、武器屋の親父に頼んで店で一番重いものを出してもらった物だ。アレンにはまだ厳しいに違いない。強化魔術は使えるようになってきたと言っていたから、振り回されているのは強化なしでの時だろう。

「強化なしで振れるようになったら、もっと楽に扱えるようになるんだけどな」
「頑張れアレン」

 頑張れ、と言わなくてもアレンは頑張っているのを知っている。あえてその言葉を使ったのだ。今はランクEで、成功と失敗を繰り返して揉まれているところだ。

「私たち依頼を受けるんだ。また今度話をしよう?」

 太一が持っていた依頼書を受け取り、アレンに見せる。ミューラと合流してこの依頼を受けたことを報告。ゴブリン相手ならばそう苦労することはないため、特別準備をせずに装備だけ整えて出発になるだろう。
 ゴブリンが相手なら日帰りで行けるはずだ。そう考えていると、ふとアレンが難しい顔をしていた。いや、難しい顔というよりは緊張した顔というべきか。
 さっき話をしているときは普通だったのだが。読心などは使えないので彼の胸中は分からない。だが、何となくアレンが口にしようとしていることが分かった。

「依頼、ゴブリン退治だろ?」
「そうだけどそれがどうかしたか?」
「俺のことも連れてってくれないか? 同行させて欲しいんだ」

 やはり。アレンの言葉は予想通りだった。
 別に連れていくことそのものに問題は無い。しかしそれを太一と奏だけで決めてしまうのは抵抗があった。パーティーで動くと決めている以上、メンバーの意見を聞かずに独断は避けるのが普通だ。
 リーダーは太一だ。彼が決めることそのものは理屈にかなっている。しかし、太一は便宜上必要だったからリーダーになっているだけで、奏やミューラと比べて権利が強いということを意味しないと本人は思っている。

「俺はまあ、条件付きでなら構わない。でも、ここにはいないメンバーいるし、彼女の意見を聞くまでは決められないな」
「私も太一と同意見。勝手にオッケーは出せないかな。ミューラがダメって言ったら連れていけないかも知れないよ?」

 たぶん大丈夫だと思うけど、というメッセージが含まれた二人の言葉を、アレンはすぐに了承した。もともと我儘言っているのはアレンの方だ。断られたとしても文句を言う資格すら彼にはないし、アレン自身も十分承知の上だった。
 用事を済ませたら、ミューラは冒険者ギルドに来るという。それまでは適当な席で待つことにしたアレン。太一と奏は依頼の受付のためカウンターに向かっていった。遥か高みにいる二人の背中をぼんやりと眺める。
 何の理由もなくこんなことを言い出したわけではない。
 アズパイア攻防戦では、アレンは怪我の影響で街から出ることが出来なかった。太一たちの活躍は後で話に聞いたのみ。
 それは相当に勿体ないことをしたと、彼らの話を聞いて本当にそう思った。どうしても見てみたい。超一流と言って問題ないであろう彼らの強さを。自分と彼らに、どれほどの差があるのか。
 もしかしたらその圧倒的な差を目の当たりにして現実の厳しさに打ちのめされるかもしれない。
 前に一度、彼らの凄さを是非目にしたいと後をつけたことがあった。こっそり盗み見ようと。しかしその時点で、アレンは彼ら三人との力の差を思い知った。離れているのに気配が気取られていたのだ。途中で逆に気配を消され、完全に見失った。
 もう一度後をつけても同じ結果になるだけだろうと考えたので、今回は正面から頼んでみたのだった。
 後は、憧れの存在ミューラの意見を聞くだけ。多分大丈夫だろうという妙に楽観的な気持ちと、もしかしたら断られるかもしれないという想像で、落ち着いているつもりがそわそわとしてしまう。
 そんな彼を眺める冒険者たちの感想は「とんでもないことを言い出した」だ。その中には太一と奏、ミューラの戦闘を目の当たりにした者もいる。どう控えめに見たって、バラダーたちのレベルを上回っているのは明らかだ。今もって太一たちパーティ以外に、バラダーらに追いつき追い越せた者がいないことからも、そのレベルが高次元であることを物語る。
 静かなどよめきが支配するギルドの中。
 どれだけの時間が経ったのだろうか。
 観音開きのギルドの扉が開いて、一人の少女が入ってきた。
 ざわ、と。今度こそ本当にどよめきが起きる。

「な、何?」

 集まる注目に引き気味のミューラ。かつても似たように注目されていたのだが、その時は自分以外は眼中に無かった。そのため全く気にならなかったのだが、今は周囲に目を配るようになっている。そのため突如浴びた視線の嵐にたじろいでしまったのだ。

「ミューラ。買い物終わったか?」

 振り返りながら声を掛ける太一。確認しなくても気配でミューラが戻ってきたのだと分かったのだろう。
 太一の問い掛けにミューラは大きめの袋を掲げてみせる。買いたいものは概ね買えたようだ。
 傷薬に包帯、保存食と水筒用の筒。皮袋にロープ等。あの中にはそういった道具のどれかが詰まっているはずだ。冒険者をするにあたり必要になる道具の管理はミューラの役目だ。これは冒険者としての経験の長さや、売買などでの交渉の仕方を分かっているからだ。一四歳にしては不相応だが、彼女にそれらを叩き込んだのがレミーアであると考えれば納得も出来る。
 因みに傷薬は奏とミューラ用だ。太一のように強化すれば鉄壁の防御を実現できるわけではない。奏とミューラもよほどでなければ怪我をすることもないが、それでも太一よりは『万が一』の可能性があるのだ。用意しておいて損はない。
 ミューラは周囲をゆっくり見渡す。向けられた視線を受け止める者と逸らす者に分かれた。

「で、これは何事?」

 普段ここまで視線を浴びることはない。ちらりと見られることはあるが、そのくらいだ。それが今日は過剰な反応をされている。

「ランクと、あいつ」
「ん? ああ、アレンね」

 なるほど、という顔をした。
 Bランクとなってから太一のパーティーに遠慮する冒険者が増える中、あまり気にせず接してくれる一人だった。
 そのアレンが声をかけてきた。そうすると他の冒険者たちは気になるのか注目してくるという妙な状況が続いていたが、その時と比べても随分と見られている気がする。そういう視線を気にしない太一と奏が共にいるからミューラもそれに釣られて平気でいられるが、一人ではちょっと気後れしてしまうだろう。

「で、そのアレンがどうしたの?」
「俺たちと一緒にゴブリン退治に行きたいんだってさ」
「え? 一緒に? というかゴブリン退治?」

 依頼がゴブリン退治に決まったこと。それにアレンが同行したいということ。二つの話をされて思わず聞き返す。

「めぼしい依頼が無かったからゴブリンにした。二〇〇だってよ」
「アレン君については、私と太一はいいかなって思うんだけど、ミューラの意見も聞いてみようと思って」
「そういうこと」

 答えながら、こちらに歩いてくる少年に顔を向ける。
 アレンの顔は多少こわばっている。それは冒険者としても異性としても憧れの存在を目の前にしたからだ。表情に出すまいとよくポーカーフェイスが出来ている方で、彼の心臓は早鐘である。かつて遠くで眺めるだけでいいと思っていた相手と、視線を交わし、言葉を交わす。アレンにとってはとんでもない幸運だった。

「アレンのランクは?」
「えっと、Eランクだ」

 Eか……と顎に手を当てて呟くミューラ。どうすべきか彼女の中で計算がなされているのだろう。駄目元で申し出たとはいえ、出来ればよい答えが聞きたいと考えるのは人情だろう。
 一方のミューラは、ランクE冒険者の平均的な戦闘シーンを脳内で再生していた。アレンがゴブリン相手にどれだけやれるか。どれだけフォローが要るか。彼を連れていくと決めた後に発生する影響など。
 一通り演算を済ませたミューラは、すっと流麗な仕草でアレンを見た。
 彼の身体に緊張が走る。

「条件付きで、ついてきてもいいわ」
「じょ、条件?」
「ええ」

 ミューラは頷く。

「まず、基本的にあたしたちの指示に従ってもらうわ」

 これは連携を乱さないため。三人での戦闘をスムーズにするために磨かれた連携に、慣れていない者が入れば乱れる恐れがある。相手がゴブリンとはいえ、そこに油断を入り込ませるつもりはミューラには無かった。

「後、準備は自分でしてきて」
「分かった」

 もちろん足りなかったりすれば貸したりはする。しかし最初からアテにされても困る。

「報酬は山分けにはしない。あなたが活躍した分だけ渡す」

 ミューラの条件を聞きながら、アレンは違和感を覚えていた。
 こんなことは、言われなくても分かりきったことだ。あくまでもアレンは同行するだけ。共同で依頼を受ける訳でもないし、小額でも報酬が渡されるだけ好条件だ。

「最後に、助けはするけれど責任は取れないわ。それでもよければ、ついてくる?」

 最後の言葉を聞いて理解した。これはアレンにだけ聞かせた言葉ではない。この場にいる他の冒険者たちにも向けられた言葉だ。
 アレンを連れていくのは特別。他の者がぞろぞろとついてきて楽をしながらおこぼれに預かろうとされる可能性がある。そういう輩はもちろん少数派だが、残念ながら確かに存在するのも事実だ。太一たちとて、困っていたり自分等より低いランクの冒険者がいたら力になりたいとは思っている。しかし最初から楽をして依存しようとする相手に来られても迷惑でしかない。分かりきったことをあえて口にすることで、他の冒険者に釘を刺したのだった。
 アレンとしては報酬が一切なくても否やはない。金では買えない、経験という無二の報酬が得られるのだから。

「了解。その条件飲むよ。是非連れていってくれ」
「分かったわ」

  アレンは歓喜した。雲の上のような存在の冒険者たちと肩を並べて戦える。曖昧だった、霧の中にあって輪郭すら捉えられなかった目標がはっきりと見える。
 そんな風にウキウキ気分でいたのだが、それは一ヶ所目のゴブリンの巣に辿り着いていざ戦闘が始まってから、粉々に吹き飛んでしまった。
 アレンは必死に鍛練を積んできた。ゴブリン一体なら苦もなく一撃で切り捨てることが出来るし、二体三体を同時に相手にしても持ち堪えることが出来る。
 だが、太一、奏、ミューラの三人は、格が違った。
 ゴブリンを一体切り捨てた後、二体のゴブリンを相手に我慢の展開が続いていた。これで多少は楽になるかと思ってちらりと横を見てしまったのが運のつきだ。
 口笛でも吹いていそうな気の抜けた表情ながら、アレンを楽に越える速さと攻撃力で次々とゴブリンを狩っていく太一。
 槍のように鋭く高速の水の魔術を楽々と飛ばして、ゴブリンの急所をピンポイントで次々と貫く奏。
 身体能力に物を言わせるのが太一なら、ミューラは技術力で勝負している。が太一。アレンから見て信じられないほど無駄の無い動きで流れるようにゴブリンを切り捨てていく。
 三人が三人とも必殺必中。一撃必殺。
 アレンが三体目のゴブリンをやっと倒した頃には、太一たちは五〇を超えるゴブリンを狩り終えていたのだ。

(な、なんだあの強さは!)

 凄すぎて、差がありすぎてどれだけ離れているのかすら分からない。
 アレンには分かる、彼らはポテンシャルの三割も発揮していない。ゴブリン相手には全力など出す必要すらないと言うのか。
 そんな悔しさに埋没するアレンは気付いていない。太一たちは、アレンが三体以上同時に相手にするのはきついと見抜いていた。あれ以上彼の方にゴブリンが行かないようにと気を使っていたことまでは。
 結局その後もそんな戦闘が続き、ゴブリン二〇〇体すべて倒してノルマを達成する頃には、アレンは「ズーン」と打ちひしがれているのだった。

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