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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第三章:ウェネーフィクスの乱

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複合魔術

 作戦には宮廷魔術師から土属性を得意とする者、水属性を得意とする者が選ばれた。両属性合わせて総勢二〇〇人ほど。内訳はそれぞれ一〇〇人。偏らない人選はベラによるものだ。やることが決まっている作戦でなければ、どのような事態にも対応出来るように部隊を編成するのだという。
 それを聞いたレミーアはニヤリと笑った。とても愉快げであった。宮廷魔術師二〇〇人がかりというのはオーバーパワーも甚だしいが、全力で撃たないのなら時間の短縮に繋がるので何も問題はない。
 レミーアは作戦をベラに伝える。なるほどと思わせる素晴らしいものであり、全員が納得した。
 そしてそこに、奏がスパイスを加えようと提案した。それを聞いたベラはぎょっとした。奏が披露したのはとある魔術の理論である。その魔術は、難易度は高いが珍しいものではない。問題は実現方法だ。
 ベラが聞いたことのない理論で実現させるものであった。
 本来魔術の理論は、秘匿されてしかるべきもの。魔術師にとって、人より優れたものはそのまま自身の生きる手段となる。間違ってもおいそれと他人に教えて良いものではない。
 それを問うベラに対して、奏は涼しい顔で「他にもたくさんあるので一つくらい大丈夫です」と宣った。魔術理論を聞いた後での確認になんの意味があるのか。ベラはそう思いつつ聞いてみたのだが、いらぬ心配だったようだ。
 開いた口が塞がらないベラ。レミーアが彼女の肩に手を置いた。

「タイチが凄すぎて目立たないが、カナデも桁が違うぞ」

 そう忠告された。反論の余地は無かった。
 本人が良いと言うのだから、素直に受け取った。火水土のトリプルマジシャンであるベラであれば、発動は特に問題はない。懇切丁寧に理論の解説をされ、実践してみて問題ないことも分かった。普通一度聞いたくらいで真似できるほど魔術の道は甘くはないのだが、ベラが天才であること、太一の勉強を何度も見たことで、奏が教えるのが上手かったこと、この二つが見事に噛み合った結果だった。
 作戦が問題なく実行に移せると分かり、それぞれ役割を分担して己の任務に取り掛かる。
 太一と奏、ミューラとレミーアでペアを組み、それぞれ敵軍に接近する。奏とレミーアが魔術の使用、太一とミューラが二人の護衛だ。二人が担当する魔術は威力は高くはないが、とても繊細なもの。集中を乱すとしくじる可能性がある。奏もレミーアも、ベラから見て世界最高峰の魔術師だ。そんな二人が、詠唱に神経を注ぐのだから、どれだけ繊細なことを成そうとしているかは考えなくても分かるというもの。その護衛を担う二人もそうだ。彼女たちの集中を乱すようなことがあってはならない。かなり気を使うはずだ。
 そして、ベラも呑気にそんな評価をしていられるほど楽な役回りではない。
 宮廷魔術師部隊には、ベラを筆頭にして、直下に四人の隊長がいる。それぞれ属性ごとに分かれているのだ。その四人のうち、土と水の部隊を率いる二人の隊長に集まるよう命令を出した。水を飲みながら待つこと数分。ベラの天幕に二人の男がやってきた。水の部隊隊長と土の部隊隊長。彼らはローブの下の軍服が色で分かれており、水属性なら青、土属性なら黄色の着用が軍規で定められている。風なら緑で火なら赤だ。
 因みにローブの色は自由である。分かりやすい色分けをしてわざわざ相手に教えてやる必要はない。ベラの濃緑のローブの色は彼女の趣味である。宮廷魔術師部隊最高指揮官の証である金色の刺繍は入っているが。

「ただいま参りました」
「お呼びでしょうか閣下」

 ピンと背筋を伸ばし、びしりと決まっている敬礼が、練度の一端を表している。

「御苦労様。被害状況は?」
「はっ。水部隊は軽傷者数名出たのみで大した損害はございません」
「土部隊も同様です。全く、あの程度の魔術に手傷を負わされるとは、恥ずかしい限りです」
「全くです。小官を含めてたるんでいるようですので、戻りましたら鍛え直します」

 彼らの言葉にベラは頷いた。

「では、帰還したら貴方たち含めて四人全員、普段からサボっていないか試してみますね。久々に私自らお相手しましょう」

 ベラの言葉に二人は嬉しさと恐怖が混ざった器用な表情を浮かべた。

「お、お手柔らかにお願いします」
「さあ。それで済むかは貴方たち次第ですよ」

 穏やかな口調ながら、ベラの鍛練は体育会系のパソスよりも厳しいと評判である。しかし文句など出ようはずがない。宮廷魔術師部隊で一番厳しい鍛練を自らに課しているのは、ベラ自身だからだ。しかし一方で、ベラほどの魔術師から手解きを受けるチャンスなど一生で見てもそう回数はない。厳しかろうと断る理由はない。

「それはそれとして。我々は何をすればよろしいのですか?」

 何の意味もなく現場レベルの責任者を持ち場から離れさせる訳はない。それが分かっているからこその問い掛けであった。

「ええ。水部隊と土部隊は、これより戦術級魔術の準備に入ります」

 それを聞いた二人は目を丸くし、直後素早く我に返って敬礼した。これは命令である。

「火属性、風属性部隊、騎士の皆さんは、貴方たちの護衛部隊となります」

 ベラは一切言わないが、この命令は重大である。失敗が、許されていない。自分達の部隊以外全員が、自分達の護衛となるのだ。これで「しくじりました」なんて報告をあげようものなら懲罰ものだろう。ベラが言わなくても自ら申し出る必要を感じるほどに。

「委細はこれから説明します。作戦開始は今より二〇分後。魔術の詠唱開始から一〇分で撃てるようにしてください」
「はっ!」
「承知しました!」

 頼もしい返事に、ベラはにこりと微笑んだ。

「それでは説明します。時間が無いので説明は一度しかしませんからそのつもりで」

 ベラはテーブルに広げられた王都周辺の地図にサラサラと書き込み始める。二人の隊長は、一言一句を頭に叩き込むため、目を皿にし、耳の穴の風通しを良くしてベラから与えられる情報を受け取る。やがて明かされた作戦は、二人の度肝を抜くものだった。
 ベラにとっては、正確に作戦を伝えたあと、奏とレミーアがどれだけ大変かを思い知る仕事が控えている。そう、今回の作戦の肝は三人。世界最高の魔術師の国エリステインの宮廷魔術師長と、落葉の魔術師と呼ばれ、世界中で知る人ぞ知る稀代の魔術師。その落葉の魔術師に腕を認められている異世界出身のフォースマジシャン。夢の共演である。





◇◇◇◇◇





 魔術が飛び交い、景色が鮮やかに彩られる中を、てくてくと歩くこと五分。強化していれば、歩きでも三倍の速さを実現できる。二人とも装備に赤の配色はない。
 太一は自分が作った大きな裂け目を覗いていた。

「おーおー深いな。我ながら呆れるわ」

 底無しというわけではないだろう。しかし、太陽の光は底まで届かないようだ。

「近くで見るととんでもないね」

 太一の横で顔を出している奏も、同じように呆れている。
 どんな手段を取ろうとも、奏にはこんな威力は出せそうもない。威力を一点に集中させるならまだ可能性はあるかもしれないが、太一は長さ数百メートルの範囲攻撃で成したのだから。

「奏、出来るんだよな?」

 太一の問いと言うよりは確認に、ためらいなく奏は頷く。

「簡単じゃあないけど、出来る。ベラさんに偉そうに教えておいて、失敗しましたとか恥ずかしいしね」
「それもそうだ」

 太一は半身をずらし、右手を奏とは逆方向に突き出した。
 直後火炎球が受け止められる。太一はそれを握り潰して消滅させた。

「まーしっかりやれよな」
「はあい」

 太一が護衛。世界で最も強固かつ贅沢な盾である。守りに専念する太一を抜ける者がいるとは、奏は一切考えていない。
 奏は背中に背負った杖を手に取り、抱くようにして目を閉じる。これから放つ魔術のイメージを鮮明に。そして魔力を練り上げる。ここから標的までは短く見積もっても一キロ近くあるだろう。それだけ離れた相手に届かせるためには、少なくない魔力が必要である。使う魔術には殺傷能力は殆ど無いが、だからこそ繊細な制御が必要だ。威力の調整に射程距離の調節。その配分を間違えれば、全く意味がない。更に、レミーア、ベラともタイミングを合わせる必要がある。その為には最速で魔術を編み上げ、いつでも発動できるよう待機状態に移行できるのが望ましい。待機中も魔術を設定した状態で維持させる必要があるため、相当に神経を使うことは分かっている。
 奏が魔術の準備を始めたのを確認して、太一は視線を前に向ける。

「エアリィ、具現化」

 太一の右肩に腰掛けていたエアリィが姿を見せる。ここに来るまでには、騎士団や宮廷魔術師の近くを通る必要があった。具現化された状態では、エアリィの圧力をもろに味方に浴びせてしまう。姿を見えないようにすればその圧力も無くなるため、今までは姿が見えないようにしていたのだ。奏にはエアリィを喚ぶと伝えてあるため、精神に乱れはなさそうだ。

「乱れ飛んでるねえ」

 エアリィは手を額の上にかざして目を細める。頭上をひっきりなしに魔術が通過していく。

「こっちに飛んでくる魔術、全部叩き落とすぞ」
「オッケー。じゃあ、結界でも張る?」
「……そんなことできんのか」
「まー、結界っていっても」

 ぶうん、とエアリィの身体が淡く光る。
 一〇メートルほど離れたところに、風の幕が生み出された。それに当たった風の弾丸が、パアンと弾けてかき消えた。

「風圧で防ぐだけだけどネ」

 なるほど。はたしてどの程度の防御力があるのか。太一は手頃な石を拾い、五〇の強化を施して振りかぶる。体重移動に腰の捻り、肩肘手首から指先に力が伝わり、石が飛び出す。速度計測装置がここにあれば、時速六〇〇キロと表示されるほどのスピードで投げられた石は、エアリィが作った風の壁に当たって、消えた。

「うへえ。粉々かよ」

 今太一が投げた石よりも威力のある魔術が飛んでいる気配はない。

「少し強く作ったんだけど……過剰だったかも」

 てへっと笑うエアリィ。どうやら加減を間違えたようだ。これだけの結界があるのならば、奏に届くことはまずないだろう。
 後は万が一に備えて周囲に気を配れば良い。そもそも結界が無くたって防ぐのは難しいと思っていなかったので、全く問題ない。油断ではない、余裕である。
 神経を尖らせて奏の周囲に意識を向ける。奏さえ守れば良い。しかも時間制限付である。一発だけ上から水の塊が降ってきた。流れ弾の類いだろう。太一は突風を起こして吹き飛ばした。水滴一つすら奏に触れさせるつもりはなかったからだ。
 そうして過ごすこと一〇分あまり。遥か後方から、大きな魔力のうねりが太一たちがいるところまで届いた。

「来たか」

 作戦の実行である。ずっと集中していた奏が目を開け、杖を前に掲げた。

「太一」
「任せろ」

 太一はくるりと奏の方を見る。実際に見ているのは奏ではない。その後ろ、王国軍である。
 やや間を置いて、二種類の大きな魔術が立て続けに放たれる。そして、天に向かって数発の火球が撃ち上げられた。

「撃て!」
「リベレイトスペル!」

 奏が魔術を発動した。作戦実行完了である。後は、効果を確認するだけだ。太一は貴族軍を見る。効果は、すでに現れていた。





◇◇◇◇◇





 地面が砂と化し、一〇〇〇人の兵たちががくりとバランスを崩す。瞬間足下に水が生まれ、彼らはくるぶしまでくらいの浅い泥沼に浸かることを余儀無くされた。一連の事象に対してダルマーが何か感想を覚える前に、その泥沼が青白い光と、バチバチという弾ける音がダルマーに届く。一〇〇〇人の兵は、一人残らず崩れ落ちた。
 今までひっきりなしに敵軍へ向かって撃たれていた色鮮やかな魔術の波状攻撃が、一瞬にして止んだ。
 兵たちは立ち上がる気配がない。目の前に広がる光景が信じられなかった。悪い夢でも見ているのだろうか。まさか一〇〇〇の部隊が一瞬で沈黙するとは。どのような手段を講じれば、こんな非現実的なことが起こりうるのか。
 泥の水溜まりが一瞬で蒸発する。倒れた兵たちは生きている。時折痙攣するのみで、身体を動かせないようだ。
 立っているのはダルマーとイニミークスのみ。兵が殺された訳ではないが、全滅に等しい状況である。

「……な、何が起こったのだ……」
「……」

 応えない副官の胸ぐらを掴むダルマー。

「何が起こったと聞いたのだ!」
「感電、という症状です。電撃を喰らったのですよ」
「電撃……?」

 魔術で電撃を起こすのはとても難しく、風属性魔術師にとって、一流から超一流になるための登竜門と言われている。
 特に魔術に精通している訳ではないダルマーでも知っているような、有名なことである。

「そうです。更に足下に水を充満させることで、電気の通りを良くしたのでしょう」
「水が電気の通りを良くする?」
「左様です閣下。私もかつて聞いただけですので、信じていなかったのですが」

 一〇〇〇人もの集団を一度に感電させるほどの魔術を単発で起こすのは至難の技だ。足下が水溜まりで、そこに電撃を流したからこそ、彼らは感電したのだ。

「そんなことが……」
「いやはや、流石本物の軍隊。やはり勝ち目は無かったようですな」
「なんだと?」

 ダルマーにとって、それはとてもではないが聞き流せるものではなかった。
 イニミークスは薄く笑った。

「元から勝ち目は無かった、と申したのです。ダルマー男爵閣下」
「き、貴様あ……」

 言葉が出ない。怒りで震える。一体どこに、負けるつもりで戦に出る輩がいるというのか。
 ダルマーにとっては秘蔵の作戦だった。一〇〇〇人の遠距離攻撃が可能な魔術師部隊。それを実現するなら、宮廷魔術師レベルの人材を集めなければならない。普通なら何処に行っても『逸材』と呼ばれるような才能と実力が飛び抜けた魔術師。それが宮廷魔術師という存在だ。
 それを実現出来たのはイニミークスのお陰であるということも忘れてダルマーは突っ掛かる。

「ぼさっとしていないで、とっとと奴等を立ち上がらせろ!」

 声量を更に一段階上げて怒鳴り付ける。必死の訴えにしかし、イニミークスは両手のひらを上に向けて肩を竦めた。

「先程から何度もやっています。いくら命じても、動かない。いいや、動けないのですよ」
「動けない、だと?」
「ええ。先の電撃で、皆麻痺したままです。いつこの麻痺が解けるやら」
「貴様が取り除いてやればよかろう!」
「一〇〇〇人一人一人を? その前に、彼等がここに到着しますよ」

 イニミークスの視線を辿れば、王国軍が左右に分かれ、大地の裂け目を迂回し始めたところだった。
一〇分とせずに彼らはここに辿り着くだろう。
 ダルマーはふらりと後ずさった。最早逃げることは敵わない。絶望感が重りとなって降り注ぐ。

「一〇〇〇人をまとめて殺さずに戦闘不能にするだけの魔術を操れる。初級魔術を撃つしかない我々では、逆立ちしても及ばぬでしょうな」

 反論の余地は無い。向こうは魔術のプロ。一方ダルマーの軍勢は魔法具を使った素人軍団。力の差は歴然だ。
 殺さないという手段ははっきり言って相当な手間のはず。それでもその手段を選ばざるをえない、何らかの事情があったのだろう。今思えば付け入る隙はそこだったのではないかと思えなくもないが、随分あっさりと実現させられてしまった。
 イニミークスにとっても想像以上である。
 これは再考の必要があった。

「ど、どうすればよいのだ……」
「助かる方法はありますぞ」
「お、おお! では早速!」

 ダルマーは情けなくイニミークスに駆け寄った。

「ええ。早速」

 ずぶりと、何かがダルマーにめり込んだ。

「あへ?」

 自身のへその辺りに生える剣の柄。その周りがじわりと赤黒く染まっていく。
 ダルマーは自分の腹部から視線を目の前に立つイニミークスに向ける。彼は右手を突きだす姿勢を取っていた。
 いくらダルマーの頭でも、それが何を意味するかは理解ができた。

「き、きさ……」
「貴方の死体で、一〇〇〇人の兵と私の命が助かります」
「裏切っ……たな……」
「心外な。いつ私が貴方の盟友となったのです。勘違いなさらぬよう。そうだ、兵にかけた術は解いておきましょう。私は、ここにいなかったことになる」

 ダルマーはがくりと膝を追った。

「地獄に……堕ちろ……ぐふっ」

 最後に捨て台詞を吐いて、ダルマーは事切れた。動かなくなった彼の死体を、イニミークスは見下ろした。

「貴方に言われずとも、私はまともな死に方はしませぬよ」

 低い含み笑いは、立ち去る彼の姿と共に広大な大空に溶けて消えた。
読んでくださってありがとうございます。
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