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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第三章:ウェネーフィクスの乱

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シャルロットの苦悩

気付けば更新が一週間近く空いてました。
高速で書き上げました。
 ニック・ダルマー男爵を追い払った後は妨害が入ることもなく、メインストリートをエリステイン城に向かって順調に進むことが出来た。
 相変わらず殆んど人を見掛けない街を進み、視界に入ってきたのは左右に背の高い塔を擁する石を切り出して組みあげられた城だった。

「エリステイン城です 」

 一言で淡々と告げられたようで、ティルメアの言葉にはどことなく誇らしさが含まれていた。
 太一も奏も釘付けだ。
 本物の城。それも過去の遺産ではなく、今この瞬間も息をしているのだ。
 城の敷地は深く幅広の外堀にぐるりと囲まれており、敵の侵入を妨げている。
 部隊が減速する必要がないよう、大手門がだいぶ離れたところから下がり始める。五〇メートルを切ったところで完全な橋となった。馬車隊が駆け抜けると、再び門が上がっていく。大手門から王城まではパッと見て三〇〇メートルはある。間にあるのは立派な庭園だ。大きいとは思っていたが、改めてその規模に驚かされた。
 城門を潜ったところで馬車はようやく停まった。先にティルメアが降車し、こうべを垂れる。促されるままに馬車を降りて、太一と奏は感動を思う存分味わった。絢爛というよりは剛健。しかし決して気品を損なうようなことがない。絶妙なバランスの上に建築された城。建築士のセンスの良さがそこかしこから窺えた。
 海外旅行に行ったことのない太一と奏が見たことがあるのは、有名なテーマパークにあるアトラクションの城だけだったため、多少の違和感がないことも無かったが。
 エリステイン城が建築された時代は世界情勢がだいぶ違い、隣国の豊かさを求めた侵略戦争がそこかしこで起きていた。城は砦も兼ねるのが当時の当たり前。ただ豪華さを求めればいいというわけではなかったのが、そのギャップの正体である。
 現在は国同士の戦争が起きていない時代。今から新たに城を建てるとすれば、かなり様相も変わるだろう。
 勝手に動くのは憚られる。自由人な太一には、あっちに行きたいこっちに行きたいという欲求があったがどうにか堪えている。こういうカッチリとした場所は苦手なのだ。早く立ち去りたいが、勝手な事をすると叱られそうなので留まる。少し自由にしたら怒られた全校集会を思い出していた。太一の名誉のために言うと、叱られたのは彼を含む数人である。

「皆さん。長旅ご苦労様でした」

 こちらに静かに歩いてきたシャルロットが頭を下げる。
 場がどよめく。他国の王族ならまだしも、それ以外に頭を下げるのが許される身分ではない。
 王族としては相当腰が低いと他国でも噂が通っているが、それでも平民に対して行う礼ではなかった。口出ししたい者はこの場に何人もいたが、シャルロットの侍女や近衛騎士団らが何も言わなかったので口を開く輩はいなかった。

「私は皆さんが無事到着されたことを陛下に報告せねばなりません。申し訳ないのですが、その間別室でお待ちください」

 左手から別の侍女が現れる。彼女が案内してくれるのだろう。ティルメアはシャルロットの斜め後方に控えたままだ。彼女による世話は旅の終わりとともに終了したようだ。
 待つことそのものに不満はないため、四人はシャルロットの言葉に頷いた。
 シャルロットが背を向けて城内へ入っていく。数名の騎士を引き連れているのを当然としている辺り、やはり彼女とはそもそも基盤とする常識が違うとしみじみ思ったのだった。
 そばにいた侍女はリーサと名乗った。彼女を先頭に城内を進む。通路に敷かれた絨毯の上を歩きながら曲がって登ってまた曲がって。三回目曲がった時、太一はもう戻る道が分からないと自信をもって言えた。逃げなければならない事態になったらどうしよう、と考えて、どうもしない、とすぐに思い直した。どの向きでも一直線に進めばいいと考えたのだ。もちろん、障害物はぶち抜いて。荒っぽいその考えは間違っていなかった。緊急事態になったらそうすればいいとレミーアも考えていたから。

「こちらです」

 歩き続けて一〇分そこそこ。先導していたリーサがある扉の前で立ち止まった。
 かちりと音がして戸が開く。
 目に飛び込んできたのは、五〇畳はある巨大な部屋だった。奏の実家のリビングのおよそ倍の広さである。

「ひろ」

 太一の素直な感想に、案内役の侍女は「賓客用の客室ですので、これくらいはなければ体面が保てません」とすまし顔。この規模の客室が後七部屋あり、客室と名のつく部屋はまだまだあるという。

「ひとまずこちらで羽を伸ばされてください。何かあればなんなりとご用命を」

 深々と礼をして、リーサは扉の横に佇む。気配も薄くなっている。彼女も色々な意味でデキるようだ。ティルメアと並ぶくらいだろうか。
 その予測は当たっていた。ティルメアもリーサもシャルロットの侍女。この城の中でトップレベルの能力を持った者ばかりだ。
 巨大なソファに腰掛けてくつろぐ。間髪入れずに用意された紅茶とお茶請け。タイミングも味も言うことなし。実に優秀な侍女である。だからこそ。

「リーサと言ったな」
「どうかなさいましたか」

 腰を落ち着けて十数分。レミーアはリーサを呼んだ。

「内輪で話をしたい。済まないが外してくれ」
「申し訳ありませんが、皆様の手足となりお世話するようにと申し使っておりますので退室は出来ません。私はいないものと扱って頂いて結構です」

 意訳は「監視対象から離れるなんてとんでもない」だ。
 シャルロットの命令は純粋な世話役だろうが、誰かがそこに命令を付け加えたのだと思われる。
 勿論、この程度の展開は予測済みである。

「そうか。先程からこの部屋を盗み聞きしている助平がいるのでな。その者に外してもらいたい」
「っ、なんのことでしょう」

 致命的なミス。リーサの返事が半拍遅れた。

「そう来るか。まあよい。エリステインは、招いた客に音声遮断結界を使わせる無粋な国と言うことだな」
「……失礼しました。部屋の外におりますので、ご用命あれば何なりと」

 リーサが退室し、そして天井にあった気配も消えた。
 これが一端の魔術師であったなら、ここまでの応酬は出来ない。
 しかしレミーアは立場が違う。『落葉の魔術師』の異名は他国まで響いている。発言の影響力がそんじょそこらの魔術師とは次元が違うのだ。
 二つ名持ちの冒険者や魔術師に対して下手な対応をとれば、尊敬されるべき存在に敬意を払わない無礼者、というレッテルが貼られてしまう。偉大な戦果を挙げなければ付かないのが二つ名。かつてジェラードが言っていた下手な貴族よりも高い影響力とはそういうことだ。
 二つ名持ちとはいえ、一冒険者と国とではその力はレベルが違う。それでも国が敬意を払わなければならない理由がもちろん存在する。
 二つ名が歴史に登場した当初はそこまで敬意を払われることはなかった。一冒険者だからという認識で、扱いも変わらない。その中で、とある国が『二つ名持ちを優遇する』と言い出した。そこにいけば認めてもらえ、国から厚待遇を受けられる。二つ名持ちは皆その国に流れた。二つ名を得るために払った代償や努力を認めてもらえない国になど、冒険者は居着きたいと思わない。慌てたのはその他の国だ。二つ名持ちが持っているのは単なる強さだけてはない。ノウハウや知識が丸ごと他国に持っていかれ、その国とそれ以外の国とでは冒険者の質に巨大な差が出てしまったのだ。
 その後はどの国も競って二つ名持ちを優遇するようになり、やがて国によって優待制度の質に差が出ないように協定が結ばれ、今に至る。二つ名持ちを不遇に扱えば、「過去から何も学ばぬうつけもの」と陰で囁かれ、侮られるはめになるのだ。国にとっては主に外交の面で不利になる。
 勘違いないように言うと、現在の制度で優遇されるのは食住税含む金銭面や、ちょっとした交渉時の手札としてだ。横柄な振る舞いまでも許されるわけではない。

「二つ名もたまには役に立つな」

 時に崇拝される要因のため辟易しながらも返上しない理由がこれだ。こういう使い方が出来て便利なのも事実なので、手放すのは惜しいのだ。

「珍しいですね。レミーアさんが二つ名を利用するなんて」
「散々鬱陶しい思いをさせられているのだ、このくらいは良かろう」

 ミューラは頷いた。レミーアが二つ名を疎ましく思っているのを知っているからだ。

「さて。今後について話し合いをしよう。恐らくは、こういう展開になるだろうからな」

 レミーアは自身の考えを三人に伝え、三人からもまた意見を得る。話し合いは一時間を越えて続いた。





◇◇◇◇◇





 ところ変わって執務室。
 華美ではないが隠しきれない威厳が漂う。流石に一国の王女の執務室となれば、やはりものが違うといったところか。

「……なるほどな。レミーア殿に諫言をもらったか」
「はっ。下級貴族の諜報では隠れるのは不可能かと」

 大柄な騎士の声に、誰かが応える。姿は見えない。気配を探るのに長けていて、漸くいることが分かる程度だろう。

「お前たちは露見していないだろうな」
「はい。現在のところは露見しておりません。大きく距離を取らざるを得ませんが」

 実際は奏のソナー魔術でそこに誰かがいることはバレている。しかし、当然ながら城には他にもたくさん人間がいるため、特定の人物が諜報だとはバレていない。城の人間の一人だと思われている。木を隠すなら森である。

「分かりました。ご苦労様」
「はっ」

 シャルロットの労いに応えた何者かは、そのまま気配を消して何処かへ消えていった。

「テスラン。情報は貴族派に」
「はい。予想通り嗅ぎ付けたようです」

 鎧がカチャリと鳴る。

「ここまでは順調のようですね。ティルメア」
「はい、姫様」
「あの四人が味方してくれるためには、何か足りないものがあると思いますか?」
「よほどこちらが理不尽なことをしない限りは。後は、我々が先方の要求をきちんと呑むことが求められるかと」
「やはり、そうなりますか……」

 シャルロットは不安げな表情を隠そうともしない。ここには彼女の腹心であるテスランとティルメアしかいない。
 シャルロットの不安も当然だ。王家側は概ね「異世界の二人に国を救う手助けをしてもらう」というシャルロットの考えと同調しているが、王族派も一枚岩ではない。太一と奏の招聘に反対する者もいるのだ。

「やはり、父上と宰相と意思確認しておきましょう」

 二人に外すよう命じる。執務室に一人残ったシャルロットは、窓から外を見詰める。城下町が目に映った。今は活気のかの字すらない、城下町が。

「これが、国の───いいえ、世界存続の為だと仰るのですね」

 そもそも、召喚術を行使した理由の大部分は別にある。
 エリステインを救うというのは、表向きの大義名分でしかない。
 本当の理由は、腹心である二人にはもちろん、王である彼女の父にすら話していない。話せるような事ではなかったからだ。
 前提条件として、この事を疑うという選択肢は存在しない。存在してはいけない。

「そのためなら、わたしは……」

 この身を太一と奏に差し出すことすら躊躇わない。煮るなり焼くなり好きなようにすればよいと思っている。
 争いのない故郷で平和に暮らしていた二人の少年少女。この世界に来なければ、さぞ幸せな人生を紡いだだろう。シャルロットは───否。この世界は、自分達の都合だけで、彼らの人生をとことんまで狂わせた。むしろ、自分如きの身体ひとつで購えるなら代償としては破格とも言える。
 誰に言うことも出来ず。小さな肩には重すぎる荷物を抱えたシャルロットの苦悩は続く。
昨日妹の結婚式があって、その準備でバタバタして書けませんでした。

〇お知らせ
活動報告には書きましたが、夏のホラーイベントに参加します。
そちらを書き上げてから次の話に取り掛かります。
ご了承ください。

読んでくださってありがとうございます。
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